いつでも元気

2010年4月1日

特集2 頭痛にご用心(上) あごの関節や目の痛みも原因に 「いつもと違う」ときは要注意

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今田隆一
宮城・坂総合病院院長(脳神経外科)

 頭痛の種は世の中にたくさんあります。日々悩んでおられる方も多いはずです。かくいう私も、病院の経営のことやら毎日の外来のことやらで頭痛の種には事欠きません。
 しかし頭痛を起こす「本当の頭痛の種」は、実はそう多くありません。皮膚(髪の毛・眉毛の毛根などを含む)、皮膚の感覚神経(顔面を通る三叉神経な ど)、筋膜(筋肉を包む膜)、筋肉中の血管、骨膜(骨を覆う膜)、髄膜(脳を包む膜)、脳の中の血管(とくに静脈)、脳に入っていく感覚神経などがありま す。驚くことに肝心の脳そのものには「痛み」の感覚はありません。ご存じでしたか?
 頭痛は多くの人を悩ませる「頭の痛い」問題ですが、幸いにも頭痛のほとんどは命に別状はありません。しかし重大なものも含まれています。
 一般に命に直結する可能性のある頭痛は、次のような特徴があるとされています。
 (1)比較的急に始まる頭痛。
 (2)これまで経験した頭痛とは痛み方、痛む場所などが違う。
 (3)意識もうろう、おう吐、けいれんなど、ほかの症状が一緒に起こる。
 (4)脳卒中の最中に起こる。
 1人の方に1種類しか頭痛がないとは限りません。くり返し頭痛を経験する方でもいつもと違う頭痛が起きたら要注意です。また、たびたび起こる「いつもの 頭痛」でも、痛みが次第に強く、大きくなる場合は注意が必要です。
 頭痛はいくつかの種類に分けられます。命に直結したものとそうでないもの、急性のものと慢性のものがある、と考えるとわかりやすいでしょう。
 ひとことで「頭痛」といっても、実にたくさんの種類があります。まず、命に直結する可能性のある頭痛からお話ししましょう。

命にかかわる頭痛
特徴的な、くも膜下出血

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くも膜下出血――〝下駄を投げ付けられた〟と錯覚するほどの激痛が

 命にかかわる頭痛は、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)関連のものです。
中でももっとも特徴的なものは、くも膜下出血のものです。なんといっても「突然始まる」のです。どのくらい突然かというと、こんな風にいった方がおられました。
 「歩いていたら急に下駄が飛んできて頭のうしろに当たった。おもわず『いてっ』といって振り返ったが、下駄を飛ばしたやつはいなかった」 
 なぜ下駄なのか不思議ですが、ご本人はくも膜下出血の発作を「下駄を飛ばしたやつがいて、それがあたった」と錯覚したわけです。
 くも膜下出血は、脳の表面を走る血管が破れ、出血が急速に広がる病気です。中年から初老期にかけて多く、そのまま3~4割の方が命を失う、死亡率の高い病気です。
 この病気では突然起こる頭痛のほかにも、意識がもうろうとしたり、吐き気やおう吐などが一緒に起こる点も特徴です。
 くも膜下出血は、本格的な発作の前に一種の前ぶれともいうべき発作が起こることもあります。やはり頭痛が急に起こり、「何だろう」と思っているうちに 治ってしまうことがあります。この段階でMRI(電磁波で頭部の断面を撮影)などによる精密検査を受けるとよいでしょう。
 くも膜下出血の原因でもっとも多いのは脳動脈瘤です。動脈が弱くなった部分に血圧がかかると膨らんでこぶのようになり、血管が薄くなることがあります。この「こぶ」が急に破れると、くも膜下出血が起こります。
 次に多いのは、脳動静脈奇形・動静脈ろう(図1)です。通常の血管は、動脈がだんだん枝分かれして細くなり、毛細血管を経て静脈につながっていることは ご存じでしょう。ところが脳動静脈奇形はその名の通り、動脈と静脈が直接つながってしまっている、生まれつきの原因がもとで起こる奇形です。動脈と静脈の 間に蛇のとぐろのような、異常な血管の塊があるものを動静脈奇形と呼びます。

図1 くも膜下出血の原因になりやすい脳血管の奇形
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 このようなかたまりがなく、つながっているだけのものを動静脈ろうといいます。これらの病気は動脈と静脈の間にあるはずの毛細血管がないため、動脈と静 脈をつなぐ部分に直接血液が流れ込んで圧迫され、血管が破れやすくなり、くも膜下出血の原因となります。

図2 もやもや病
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 幸い、動静脈奇形も動静脈ろうも、MRIで比較的簡単に見つかります。
 その他、もやもや病の一部などがくも膜下出血を起こします。「もやもや病」とは、「頭がもやもやする」という意味ではありません。首から脳へとつながる 太い動脈が、何らかの原因で細くなったりつまったりして起こる病気です。血液の流れをおぎなうために、「もやもやした」形の細い血管ができることからこの 名前がついています(図2)。
 ただ、くも膜下出血の1割に相当する患者さんは、いくら細かな検査をしても原因がわからないといわれています。その場合は、時期をおいて再度、場合に よっては再々度検査をおこないます。それでも原因がわからないことがあります。

命にかかわらないが
要注意の頭痛

 つぎは、命に直結しないものの、注意が必要な頭痛です。

副鼻腔炎がもとで

図3 4つの副鼻腔
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 比較的多いのは副鼻腔炎、いわゆる蓄膿症の痛みです。副鼻腔とは、鼻の周囲の骨の内部にある空洞のことで、4つあります(図3)。
 蓄膿症の痛みには、3つの原因があります。1つめは空気の通り道がつまって副鼻腔に膿がたまり、周囲が圧迫されることです。2つめは炎症が周囲に広がっ て痛む。3つめは、副鼻腔をかすめるように通っている感覚神経(三叉神経)が刺激されることです。
 こうした条件が当てはまりやすいのは、眉間にある「前頭洞」という副鼻腔です。眉毛の辺りを中心に鈍い痛みが起きる場合が多いようです。その他、鼻の奥にある「蝶形骨洞」なども痛みの原因になります。
 蓄膿症の痛みはCT(X線による断面撮影)やMRIで比較的正確に診断できます。いまは良い薬がありますし、手術が必要になっても、以前よりよくなる可 能性は高くなっています。鼻づまりや「においがしない」「のどの奥に膿が流れてくる」などの自覚症状、痛みがある方は、耳鼻科や脳神経外科などを受診する ことをおすすめします。

目の痛みから

 目の痛みが頭痛の原因になることもあります。目の痛みで多いものは、主に2つあります。
 ひとつはいわゆる眼精疲労で、眼球を動かす筋肉が疲れることからくる痛みです。一般に筋肉の疲労からくる痛みは「重苦しい」ものが多い上、いつから始 まったかわからず、「そういえば痛いなあ」という感じがするものです。眼精疲労のときの頭痛も同様です。また仕事や家事、生活スタイルと密接な関係があり ます。対応は、目を休ませる。これに尽きます。
 もうひとつは眼圧が上昇したときに、頭痛をともなうことがあります。
 眼球は丸い形を維持するため、内部から一定の圧力がかかっています。この圧力が上昇することがあるのです。典型的な症状は、急性の緑内障です。吐き気を ともない、目に強い痛みを感じますが、頭痛も起こることがあるため、患者さんは「頭の病気」だと錯覚することがあります。
 目は充血し、時にむくみがあり、一般に瞳孔(黒目)が開いていることが多いようです。放置すれば視力を失いますので、急いで眼科を受診しなければなりません。

耳の痛みから

 耳の痛みから頭痛を生じることもあります。耳の痛みの原因は、細菌感染が多いようです。しかも鼓膜で外と仕切られており、かつ薄い骨の内側は脳ですし、内部に脳とつながったリンパ液があるので、細菌感染が広がると大変です。
 頑固な耳の痛みについては、耳鼻科の先生に診察してもらった方が安全です。
 時には、耳の周囲の神経痛が痛みの原因になっていることがあります。神経痛の痛みの特徴は、短時間の痛みが繰り返し起こることです。痛みの性質によって、神経痛なのか、そうでないのか、ある程度区別できます。

あごの関節も原因に

図4 顎関節の動き
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 顎関節(あごの関節)は耳のすぐ前にあります。人差し指と中指をそろえて耳の穴の前に置いてみましょう。口を開け閉めすると、硬い盛り上がりに触れますね。そこが顎関節です。盛り上がっているのは、下あごの骨になります。
 もともと下あごの骨の上端は膨らんでいるのですが、口を閉めているときには耳の穴のすぐ前の関節の中に納まっています。これが、口を開けると回転し、大きく口を開けるとさらに前に滑り出します(図4)。
 こうした回転と滑り出しが左右の顎関節で均等におこなわれないと、関節の動きに微妙な差ができてなめらかな動きが妨げられ、痛んでくる。これが顎関節症といわれるものです。
 顎関節症の原因は、このような左右の微妙な運動の違いにあります。したがって噛み合わせが悪いとか、虫歯、歯ぎしりの強いときなどに起こります。
 あごの運動、とくに噛む、食べるなどの動作によって痛みが強くなります。また耳の前を押したり触ったりすると、痛みが誘発されます。
 顎関節症は気づかないでいると頭全体が痛むようになったり、姿勢がおかしくなって肩こりや背中の痛みにまで進んでいきます。脳神経外科でも対症療法はできますが、やはり歯科受診をおすすめします。

髄液が漏れだして

 さて、少し変わった頭痛の話をします。「低髄液圧性頭痛」です。
 昔、「むち打ち症だから仕方がない」といわれたものです。命に別状はありませんが、交通事故などで追突された後、頑固に長く続く頭痛の中に、この「低髄液圧性頭痛」があることが知られてきました。
 脳と脊髄は共通の袋の中にあり、水に浮かんだようになっていることをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。「低髄液圧性頭痛」とは、この袋のどこか に小さな穴が開き、そこから「水」が漏れ出しているために脳にかかる圧力が低下して痛むものです。
 同じように穴が開いて水漏れが起こることからよく似た痛みをきたすものに、検査や脊髄麻酔が目的でおこなわれる「腰椎穿刺」があります。これは腰の脊椎 の間の隙間に針を刺して脊髄を包む袋に達し、そこから水を採取する、あるいは必要な薬液を注入するものです。その結果、袋に小さな穴が開きます。
 しかし中には、このような袋に穴が開く原因がはっきりしないものもあります。
 「低髄液圧性頭痛」の診断でもっとも大事なのは、「体位で頭痛が変動する」という点です。座ったり、立っていたりすると頭痛が悪化し、横になって休むと 改善するということを繰り返すときには、この「低髄液圧性頭痛」を疑う必要があります。とくに車などに追突されたあと、頑固に頭痛が続くときには、この頭 痛ではないか考える必要があります。
 交通事故などのきっかけもなく起こったような例(こういうのを「特発性」と呼びます)に対しては、まず連日、点滴をおこないます。これだけで結構改善する人も多いのです。
 しかし交通事故などで髄液の漏れを強く疑うような場合には、髄液が漏れ出している場所を大よそ把握して、「自家血パッチ法」という治療をおこないます。 自分の血液を採って、それを漏れ出している場所に注入し、血液が固まる作用を利用して穴を塞ぐものです。当然のことながら、漏れの場所をできるだけ正確に 把握し、自家血を注入する際にも経験とコツが必要になります。

 次回は、命には直結しない頭痛―片頭痛や、肩こりなどから来る頭痛、慢性的に続く頭痛などについてお話しします。

いつでも元気 2010.4 No.222

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