災害に備える
文・奥平亜希子(編集部)
7月の西日本豪雨をはじめ、毎年のように豪雨災害が発生する日本。
地震とともに、もはやこうした災害が常態化しつつあります。
自然災害からどういのちを守るのか。
災害とまちづくりを研究してきた元関西学院大学教授の片寄俊秀さんに聞きました。
私は1962年から8年間、大阪府の技師として「千里ニュータウン」(豊中市、吹田市)の開発を担当しました。当時の深刻な住宅不足を解決する目的の1つで、郊外の丘陵地に大規模、安全、快適、便利をうたったモデル住宅地づくりです。
十分な対策を講じて土砂災害などには備えていましたが、それでも開発によって豪雨の時に下流部への流量が格段に増えるのは防げず、この対策に現場で相当苦労しました。
60年代から80年代前半にかけて、同様に全国各地で郊外の住宅地開発が進みました。なかには地価の安い山裾や低地など、もともと条件の良くない土地に無理な住宅地開発を進める事例があり、これらが近年各地で頻発する災害の原因となっています。
死者・行方不明者299人を出した82年の長崎大水害や、2014年の広島市での山裾の住宅地での土砂災害、そして今回の西日本豪雨災害など、いずれも無理な住宅地開発と深い関係があると考えています。
予測できる災害
国土交通省の発表によると、(1)洪水(2)土砂(3)地震(揺れ)(4)地震(液状化)(5)津波被害のうち、どれかひとつでも災害が起こりうる場所に住んでいる国民は73%にものぼります。
水害や土砂災害は、専門家から見れば「あらかじめ危ないと分かっていた地域が被災した」というケースがほとんど。そして「予測が可能」という点で地震とは大きく異なります。
例えば被害の大きかった岡山県倉敷市真備町では、事前に市が浸水範囲を予測したハザードマップを作成、実際の被害も予測の通りになりました。
現在は気象観測技術が進み、台風の進路や地域の降雨量はある程度予測できるようになりました。豪雨の最中に逃げるのは危険でも、降る前であれば安全に避難することができます。肝心なのは「安心・安全・快適な避難所」があることです。
阪神淡路大震災の教訓
私は今ある施設を活用しながら、あるいは新たに造ることも含め「防災シェルター」づくりを提案しています。
そもそも日本の「避難所」は、夏は暑くて冬は寒い。硬い体育館の床にみんなで雑魚寝。トイレも限られており、「できれば避難所で生活したくない」と思うのではありませんか?
真備町の住民の中にも「避難所には行きたくないから、逃げずに家にいた」という人もいました。これからの避難所としては、図書館や娯楽施設など日頃から住民が集う「たまり場」を活用してはどうでしょうか。災害注意報が出たら、住民が出かけたくなるような避難所にすることが大切です。
友人の建築家・稲石勝之さんが私の提案に賛同して、防災センターの機能を持った保育園を造りました。その1つが社会福祉法人「保健福祉の会」の「白い鳩保育園」(京都市北区)です。
稲石さんは阪神淡路大震災の経験から「絶対に建物が潰れないこと。そして、発災後3日間持ちこたえられるシェルターが必要」として、保育園の地下に雨水を溜めるタンクを造りました。普段はトイレの洗浄水、非常時には沸かせば飲み水として利用できます。
施設内には給食設備もあり、200~300人が3日くらいは過ごせます。稲石さんは「まずは安心して子どもを預けられる施設であること。そして災害時でも保育園が機能することで、親が救援や復興活動に動けるようにすることが重要」と話しています。
祭りは大事な防災訓練
「防災」とは技術で自然を押さえ込むことではなく、日頃の備えや地域の力で自然の猛威を「しのぐ」こと。自然災害に備えるうえで、まずは防災マップを持ち寄り、自分の住むまちを見直してみることから始めませんか。
地域の史跡などには災害の記録が刻まれているところもあります(写真右下)。非常用の設備も知らなければ使えないので、自治体職員に聞くことも有効です。
地域の祭りなども実は防災につながります。祭りは野外で炊事をします。どこにテントがあり、どんな機材があり、地域にどんな人がいるのかを知ることができます。祭りは地域のつながりをつくり防災訓練にもなるのです。
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真備町では、高齢者が2階にすら避難できないまま亡くなったケースも多くありました。みなさんの住む地域にはどんな災害が起こる可能性がありますか。避難指示が出たとき、近所に自力で避難できない人はいませんか。民医連の事業所や自治体とも協力して、災害が起こる前に災害をしのげるまちづくりを進めましょう。
いつでも元気 2018.10 No.324