まちのチカラ
白神山地が潤す神秘の村
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
青森県津軽地方の南西部に位置する西目屋村。
ブナの森が広がり、豊富な水をたたえる白神山地の玄関口です。
山の恵みを工芸品や多彩なグルメとしても楽しめる村の魅力を紹介します。
※感染対策をしたうえで取材しています
青森県弘前市から車で約30分。村に入ると県道28号沿いの景色はりんご畑へと変わり、北には“津軽富士”といわれる岩木山(弘前市、標高1625m)が見えてきました。三方を1000mクラスの山々に囲まれた、青森県一人口の少ない小さな村です。
村の南西部が含まれる白神山地は、日本で初めて世界自然遺産に登録されました。全体が秋田県と青森県にまたがる約1300k平方メートルの広大な山岳地帯で、人の手がほとんど加えられていない世界最大級のブナ林が広がります。
向かったのは、観光施設アクアグリーンビレッジANMONを出発地点とする1周約2kmの世界遺産の径ブナ林散策道。1~2時間ほどかけてゆっくり歩くと、明るい光がブナの葉の間から差し込んできます。目に優しい緑のシャワーが降り注ぎ、思わず深呼吸。なんと心が軽くなることでしょう。
ほかにも、推定樹齢400年を超えるブナの巨木「マザーツリー」など、見どころがたくさん。3つのダイナミックな滝を眺める暗門渓谷ルートは、ヘルメットの着用とガイドの同行が推奨されていますので、注意しながら楽しんでください。
ブナを活かした木工品
白神山地の豊かな自然は工芸品としても楽しむことができます。ブナの資源を活かした木工品BUNACOの製作現場を訪ねました。
ブナは水分を多く含みねじれが生じやすいため、以前は建物や木工品には使えず、薪やりんご箱しか用途がありませんでした。有効利用できないかと編み出されたのがBUNACOの製法です。ブナを厚さ1mmほどにスライスして乾燥させ、テープ状にカットして巻き重ねて成型します。
BUNACO西目屋工場は、旧西目屋小学校を改装した工場で、教室ごとに製作工程が見学できるほか、製作体験ができます。また、BUNACO製品に囲まれたカフェも併設されており、食器や照明、音響機器などさまざまな製品に触れることができます。
「職人の中にはこの小学校の卒業生もいます。『まさか教室で働くことになるとは。くすぐったいような、懐かしいような』と言っていますよ」と、ブナコ株式会社の佐藤邦子さん。出来上がった製品を手に取ってみると、森と人の温もりが伝わってきます。
マタギ文化のジビエ料理
次は、村ならではのグルメを求めて道の駅津軽白神/ビーチにしめやへ。食堂の目玉は、マタギ文化の中で伝統的に食されてきた熊肉を使った白神ジビエ料理です。村では農作物の被害を防ぐために捕まえた熊を食用にしようと、2020年11月に食肉加工施設ジビエ工房白神をオープン。翌年7月から熊肉料理の提供が始まりました。
「パワーみなぎる熊肉は白神山地からの授かりもの。ジビエのイメージを変える食べやすさだと好評です」と、ブナの里白神公社の角田克彦事務局長が料理を運んでくれました。獣臭さはまったくなく、とても柔らかい食感。ひと噛みごとに、家畜肉とは全く違う深いうま味が楽しめます。
食事のあとは、道の駅内の白神焙煎舎でぜひ香り高い珈琲をお試しください。近隣のりんごの剪定枝から作った炭を使い焙煎された「白神焙煎炭焼珈琲」。まろやかな白神山地の水で淹れた極上の一杯です。
乳穂ヶ滝氷祭
毎年2月になると、村の北東端にある乳穂ヶ滝では、津軽中から人々が訪れる乳穂ヶ滝氷祭が行われます。33mの高さから少量の水が絹糸のように滴る滝の途中には、不動尊が祀られた洞窟があり、その内側から見ることができる裏見の滝です。
樹齢300年級の杉の大木に囲まれた神秘的な雰囲気の滝は、冬には結氷します。氷祭では凍った滝の形や太さでその年の運勢を占う「豊凶占い」を行い、「柴灯護摩祈祷」と「火渡り」で豊作を祈願します。前回はコロナ禍のため中止になりましたが、2022年2月に2年ぶりに開催予定です。
白神山地の長い冬は、あらゆるものが真っ白な雪と氷の世界に閉ざされ人が近づくことはできません。それは、白い神が安らぐ時なのかもしれません。
■次回は福井県越前町です。
まちのデータ
人口
1307人(2021年11月1日現在)
おすすめの特産品
りんご、目屋豆腐、白神そば
アクセス
東京から新幹線で新青森駅まで約3時間、特急つがるに乗り換え約30分で弘前駅へ。弘前駅からは車で約30分
問い合わせ先
西目屋村産業課
0172-85-2800
いつでも元気 2022.1 No.362