けんこう教室 めまい
めまいの中で最も多い「良性発作性頭位めまい症」について、京都民医連中央病院の佐藤宏昭さんにご寄稿いただきました。
良性発作性頭位めまい症は、めまいの中で最も頻度の高い疾患で、約40%を占めると言われています。良性という名の通り、生命に危険を及ぼす疾患ではありませんが、度々起こるめまいは日常生活に著しく支障をきたします。
原因
耳の奥(内耳)にある三半規管と耳石器は、頭の回転や傾きを感知して平衡感覚を保つ働きをしています(資料1)。
三半規管は内部を満たすリンパ液の流れによって頭の回転を感知します。三つの半規管が絶妙な角度で組み合わさり、三次元の空間を認識しています。水平方向の回転は「外側半規管」、垂直方向の回転は「前半規管」と「後半規管」が感知します。
耳石器は炭酸カルシウムでできた耳石の動きによって、重力に対して体がどのように傾いているのかを感知します。
三半規管と耳石器が感知した平衡感覚と、目からの視覚情報などを組み合わせて、人間は体のバランスを保っています。
良性発作性頭位めまい症は、耳石器の耳石が剥がれて三半規管に入り込み、リンパ液の流れを乱すことで起こります。誤った信号が三半規管から脳に送られ、それに反応してめまいが起こるのです。
剥がれた耳石が三半規管内を浮遊しているものを「半規管結石」、三半規管の有毛細胞を覆う「クプラ」に付着しているものを「クプラ結石」と呼びます。耳石は後半規管に入りやすく、良性発作性頭位めまい症の8~9割はこの型です。
症状
良性発作性頭位めまい症を誘発する動作として、朝体を起こした時や寝返りを打った時、上を見上げたり下を向いた時などが挙げられます。めまいの持続時間は短く、吐き気や嘔吐を伴うことがありますが、耳鳴りや難聴は起こりません。
最も多いのは、耳石が後半規官を浮遊している型です(後半規管型結石症)。体を起こした時や座った状態から寝た時、あるいは頭を左右に傾けた時に、数秒おいて回転性のめまいが出現し、次第にひどくなった後消失します。同じ動作を繰り返すと、めまいは軽減するか起こらなくなります。
耳石が外側半規管を浮遊している型(外側半規管型結石症)は、寝返りを打つと数秒おいて寝返りした方向に回転するめまいが出現し、次第にひどくなった後に弱まります。めまいの持続時間は1分以内のことが多く、同じ動作を繰り返すと軽減します。
耳石がクプラに付着している型の場合、外側半規管が原因になっていることが多くあります(外側半規管型クプラ結石症)。寝返りを打つと、寝返りした方向と逆方向に回転するめまいが出現します。耳石が浮遊している型と異なり、間をおかずにめまいが出現し、持続時間も1分以上と長いのが特徴です。
治療
治療の基本は、三半規管に入り込んだ耳石を三半規管の外へ導き出すことです。三半規管のどの部位が原因かを確認し、「耳石置換法」という理学療法で耳石を移動させます。
耳石置換法には、目標とする耳石の位置に応じて様々な手法があります。頭の向きを順番に変えていく理学療法として、後半規管型結石症には「エプリー法」が、外側半規管型結石症および外側半規管型クプラ結石症には「グフォニ法」が一般的に用いられます。これらは耳鼻科医が診断して行う治療法です。一方で三半規管のどの部位が原因かに関わらず、患者さんが自宅で行える簡便な「ブラントダロフ法」があります(資料2)。
三半規管に入り込んだ耳石は、新陳代謝で通常1カ月以内に自然に消失します。そのため理学療法を行わず、自然治癒するまでの間、めまいや吐き気の薬を処方することもあります。
再発を繰り返し、めまい症状が強い場合は、外科的な治療として「半規管遮断術」があります。耳石が三半規管へ入り込まないように遮断する外科手術ですが、実際に行われることは稀です。
予防
良性発作性頭位めまい症の再発率は50%と高いため、予防法を知っておくことも大切です。耳石が三半規管に入り込まないように、日常生活での対処法に以下の3つが挙げられます。
①同じ向きで寝ない…常に同じ側の頭を下にして寝ると、下側の三半規管に耳石がたまりやすくなります。同じ側を下にして横になり、テレビを長時間見続けるようなことも避けましょう。
②寝返り運動をする…頭をよく動かすと、耳石が1カ所にたまりにくくなります。寝返り運動は、左向きに寝て10秒間、その後ゆっくり仰向けになり10秒間、さらに右向きに寝て10秒間、最後に仰向けに戻り10秒間です。一連の動作を10回ほど、就寝時と起床時に行ってください。
③頭の位置を高くして寝る…枕を少し高めにすることで、耳石が三半規管に入り込みにくくなります。
以上に述べたような対処法で治まらない場合や心配なことがある方は、躊躇せず医療機関を受診してください。
良性発作性頭位めまい症の危険因子
良性発作性頭位めまい症は50~70代の女性に多く、女性ホルモンの減少や骨粗鬆症との関連が指摘されています。その他の危険因子として、ビタミンD欠乏症、脳卒中、片頭痛、頭部外傷などの既往歴が挙げられます。
また、長期間寝たきりの状態であったり、長時間同じ姿勢で頭を動かさない方などにも多くみられます。
耳石器の耳石が剥がれる原因についてはほとんど分かっていませんが、高齢者に多いことから加齢による耳石の退行や変性が推定されています。
いつでも元気 2024.12 No.397