くすりの話 薬剤耐性菌
執筆/衛藤 沙季(大阪・耳原総合病院薬剤科、薬剤師)
監修/野口 陽一(全日本民医連薬剤委員会、薬剤師)
読者のみなさんから寄せられた質問に薬剤師がお答えします。
今回は薬剤耐性菌についてです。
薬剤耐性菌とは、抗生剤や抗生物質などの抗菌薬が効かない、もしくは効きにくい細菌のことを言います。
細菌による感染症に抗菌薬を使うと、細菌は何とか生き延びようとして、薬が効かない形に変化します。そこに新しい抗菌薬を投与すると、さらに耐性を持つ細菌が生じるといったことが繰り返されます。
新しい薬剤の開発には莫大なコストと時間がかかります。抗菌薬は慢性疾患の薬より投与期間が短く、製薬会社にとって利益を生み出しにくいため、抗菌薬の開発が薬剤耐性菌の変化に追いつかない状況もあります。
薬剤耐性菌が増えると感染症の治療が難しくなり、患者さんが重症化したり、死に至る可能性が高まります。2019年には、薬剤耐性菌によって世界で127万人が死亡したと推計されています。何も対策を講じない場合、2050年には世界で1000万人の死亡が想定され、がんによる死亡者数を超えるという報告もあります。
知っておいてほしいこと
2015年にWHO(世界保健機関)は「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン」を採択。ヒトや動植物に対する抗菌薬の誤用や過剰使用を防ぐために、世界的な取り組みが行われています。
2016年に日本で策定された「薬物耐性(AMR)対策アクションプラン」は、6つの分野(①普及啓発・教育、②動向調査・監視、③感染予防・管理、④抗微生物剤の適正使用、⑤研究開発・創薬、⑥国際協力)について目標を提示。例えば④抗微生物剤の適正使用には、医療機関で不必要な抗菌薬の処方を減らすための体制整備などが盛り込まれています。
①の普及啓発・教育には「かぜ症候群の多くには抗菌薬は有効ではないこと(を周知する)」などと書かれています。かぜは細菌ではなくウイルス感染なので、抗菌薬は効きません。かぜを治すのは自身の免疫力であり、薬は症状を和らげるためのものだということを覚えておいてください。アルコールを使った手指消毒や石けんでの手洗い、うがい、せきエチケットなど、そもそも感染症の罹患や拡大を防ぐ対策も重要です。
医師は患者さんの症状を診て、細菌が感染症の原因かどうか、抗菌薬の処方が必要かを慎重に判断します。抗菌薬は薬によって治療効果が出やすいように、飲む量と回数が決まっています。治療期間も決まっていますので、症状が改善しても最後まで飲み切るようにしてください。不適切、不十分な飲み方をすると、感染症が再燃したり薬剤耐性菌が生まれてしまうことがあります。
分からないことや心配なことがあれば、遠慮なく医師や薬剤師にご相談ください。
いつでも元気 2025.5 No.402