• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ 鹿児島県さつま町 神の湯いづる切子のまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

地元で愛される「神の湯」

地元で愛される「神の湯」

 鹿児島県の北西部に位置するさつま町。
 多様な温泉文化、伝統工芸品の薩摩切子、郷土の食材を使ったご当地グルメが魅力です。
 町医者の記念館もある山里を訪ねました。

 鹿児島市中心部から北へ約50㎞、周囲を山々に囲まれたさつま町に到着しました。町北部にそびえるのは標高1067mの紫尾山。車で行くことができる山頂からは、東シナ海や天草諸島、霧島連山や桜島などを一望できます。町の中心を南九州一の大河である川内川が流れ、田園や緑豊かな森林の風景が広がります。
 町には古くから湯治場として栄えた宮之城温泉など22カ所もの温泉があります。まずは「神の湯」と称される紫尾温泉の紫尾区営大衆浴場へ。硫黄臭漂うやや熱めのお湯で、朝5時の開場から夜9時まで地域住民や観光客で賑わいます。
 「この湯に入っと良いことあっぞ」と、ほっこり笑顔の番台さんが迎えてくれました。神の湯と呼ばれるゆえんは、すぐ隣の紫尾神社の拝殿下から源泉が湧き出ているから。毎年5月下旬にはホタルが飛び交い、露天風呂から幻想的な光景を楽しむこともできます。
 名湯に癒やされたあとは、神社を参拝したり自然の中を散策したり…。のんびりと温泉情緒をお楽しみください。 

蘇る伝統工芸 薩摩切子

 時は幕末、薩摩藩10代藩主の島津斉興は、1846年に製薬業に着手。薬品の強酸に耐える器が必要になり、江戸の硝子師を招いてガラス器を製造します。それが町を代表する伝統工芸品、薩摩切子の始まりです。
 その後、島津斉彬が藩主の時代に美術品として飛躍的に発展。日本で初めて紅色の発色に成功し、「薩摩の紅ガラス」として全国で珍重されました。斉彬の急逝や工場の焼失で一度途絶えますが、百年以上を経た1985年に再開。 薩摩切子の伝統と技術を継承しつつ、新たな作品に挑む薩摩びーどろ工芸を訪ねました。
 「ガラス作りには苦労もありますが、挑戦することを楽しんでいます」と語るのは、ガラス吹き師歴33年の野村誠さん。往時の美しさを再現する復元品のほか、照明やアクセサリーなど現在のライフスタイルに合わせた作品も制作しています。
 色ガラスと透明ガラスの間にできる「ぼかし」と呼ばれる柔らかなグラデーションと、職人の手が生み出す繊細なカットが特徴の薩摩切子。手に取ってみると、カットガラスの鋭さを残しつつも、なんとも言えない優しい手触りが伝わってきます。酒器やグラスなどを普段使いで楽しむのはもちろん、贈り物やアートとして観賞するのもお勧めです。

丼いっぱい郷土のめぐみ

 町を代表する二つの食材を使ったご当地グルメが黒毛和牛たけのこ丼。地元飲食店が地域おこしのために考案し、町の看板メニューとして定着しました。
 日本一竹林が多い鹿児島県のなかでも、町は県内最大級の竹林面積を誇ります。たけのこ栽培が盛んで、10月から出荷が始まる「早掘りタケノコ」が全国的に人気。牛肉は、和牛生産量日本一の県のブランド牛「鹿児島黒牛」です。全国和牛能力共進会で日本一に輝いた地元産を使用しています。
 町内の複数店舗で、それぞれに趣向を凝らした丼が提供されます。今回は創業50年の醍醐食堂を訪ねました。亡き夫の味を引き継ぐ酒匂晴子さんは、焼肉風の味付けで調理しています。
 やわらかな食感で旨味たっぷりの牛肉と、香り高いたけのこのシャキシャキ感が絶妙にマッチ。ボリュームも大満足です。山間の町ならではの味わい豊かなメニューを、ぜひご賞味ください。

町の赤ひげ

 町東部の求名地区。屋根瓦の古い町並みの中に、突如として真っ白な壁の現代建築が現れました。この地域で活躍した医師、前原則知さんの遺品を収蔵・展示するある町医者の記念館です。
 前原さんは助産師の妻と二人三脚で医療活動を行い、町の「赤ひげ先生」として住民から慕われました。記念館を案内してくれた小永田浩さんは、地域活性化のためのNPO法人「求名M&Hふるさと協議会」を立ち上げ、記念館を核とした活動をしています。
 「先生は気さくな方でね、町の人たちと自宅でよく焼酎を呑んでましたよ。先生と奥さんには、赤ちゃんからお年寄りまでみんなお世話になりました」と小永田さん。前原さんとの思い出を伺うと、エピソードが止まりません。
 前原さんは1993年に93歳で亡くなる日まで地域医療に尽力。記念館に展示されている前原さんが愛用した器具や診察台などからは、当時の地域医療をリアルに感じ取れます。

 ほかにも廃校になった小学校を利用したキャンプ場きららの楽校や、鶴田ダムを一望できる鶴田ダム公園など、豊かな自然と歴史に触れられる場所がてんこ盛りのさつま町。あなた好みの場所や味が、きっと見つかるはずですよ。

■次回は埼玉県横瀬町です。

まちのデータ

人口
18,186人(3月1日現在)
おすすめの特産品
薩摩切子、薩摩西郷梅、芋焼酎、お茶、あおし柿、竹細工、鶴田手漉和紙
アクセス
鹿児島空港から車で45分、鹿児島中央駅から車で1時間10分
問い合わせ
さつま町観光特産品協会
0996-29-5358

いつでも元気 2025.5 No.402