まちのチカラ 武甲山の麓に咲くカラフルな山里 埼玉県横瀬町
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

宇根の春まつりを彩る笠鉾と囃子手の子どもたち
埼玉県西部に位置する横瀬町。
美しい切り絵御朱印の寺めぐり、
地産地消のメニューを提供する駅前食堂、
昔ながらの春まつりなどが魅力です。
豊かな自然に囲まれた山里を訪ねました。
東京・池袋駅から電車で約75分、おいしい空気と山々に囲まれた横瀬町に到着しました。都心から70㎞圏内にありながら、豊かな自然が広がる盆地です。
人口減少で消滅可能性自治体の一つに数えられる町は、未来を変えようと「カラフルタウン」を目標に掲げ、多様なライフスタイルの実現にチャレンジしています。
SNSで静かなブームとなっているのが、町内8カ所の寺で頒布される切り絵御朱印です。「横瀬町は『日本一歩きたくなる町』を目指す、自然と人のぬくもりがあふれる場所。町の魅力を感じてもらうきっかけとして生まれたのが『美しすぎる切り絵御朱印』です」と話すのは、町観光協会の金子るみさん。写真映えする切り絵を目当てに、若い世代も訪れるようになったそうです。
西善寺で頒布される切り絵は、樹齢600年のコミネカエデが迫力満点。明智寺は桜がモチーフのかわいらしいピンクの切り絵です。大慈寺は夫婦龍がハートの形にデザインされ、恋愛成就にご利益がありそう。それぞれの寺の伝統を、アートな切り絵が表現しています。
切り絵を青空にかざしてみると、精巧かつ緻密な線がより際立ち、その美しさの虜になります。あなたもお気に入りの切り絵御朱印を見つけてください。
秩父名物 豚みそ丼
町の玄関口、横瀬駅の隣にあるのがENgaWA駅前食堂。名前には「3つのEN(縁・援・円)をWA(環)に」という想いが込められ、小さな町のなかで人の縁と応援の輪を広げ、新たな経済循環を生み出すことを目指しています。
原木しいたけが贅沢に盛り込まれた「原木しいたけ肉うどん」や「季節の野菜カレー」など、町産の食材をふんだんに使用したメニューが並びます。今回は人気ナンバー1のヨコゼ豚みそ丼をいただきました。
こだわりのみそには秩父在来種の「借金なし大豆」を使用。「植えれば植えるほど実がなり、借金を返せた」ことが名の由来という縁起の良い大豆で、まろやかな甘味です。地元のどぶろく「花咲山」で漬けた豚肉は、発酵作用でやわらかくジューシーな味わい。ふっくらと炊き上がったごはんがどんどん進みます。
接客をしていた東京出身の大学生、村上悠剛さんは「地域おこし協力隊員として、地域社会学のリアルを体験できて学びが多いです」と、はじける笑顔。町ならではの味とふれあいを楽しみました。
日本の原風景 寺坂棚田
次に訪れたのは埼玉県内最大級の棚田、寺坂棚田。標高230m〜270mに位置し、約250枚の水田が広がります。
町のシンボル、標高1304mの武甲山を背景にした絶好のロケーションのなかには、農作業をする地元の方や畦道を散歩する若いカップルの姿が。
棚田は地域の農業や文化を支える重要な存在でしたが、かつては大部分が耕作放棄地となり荒れ果てたことも。地元農家を中心に稲作体験や棚田オーナー制度などさまざまな事業に取り組み、田んぼとして復活。2022年には農林水産省から「つなぐ棚田遺産」に認定されました。
「先人たちが残してきたこの風景を未来に残したい」と、町職員の田端将伸さん。初夏の田植え、秋の稲穂、朱色の彼岸花…。懐かしい景色が、日本の原風景を思い出させてくれます。
世代を紡ぐ春まつり
町西部の宇根地区で毎年4月の第1日曜日に開催されるのが宇根の春まつり。地元住民にまざって参加しました。
「山車の曳き手に囃子手、それと観客の距離感がとても近いお祭りです」と語るのは富田能成町長。武甲山をバックに春爛漫の花が咲き乱れるなか、2基の笠鉾(大きな傘や鉾、造花などで飾られた山車)が地区内を曳行するさまは圧巻です。
子どもたちも大勢参加していて、「ホーリャーイ」というお囃子の声や笛太鼓が空に響きます。宇根地区の人々は年間を通じて祭りの準備や太鼓の練習に取り組んでおり、祭りは地域の人々を結びつける重要な役割を果たしているのです。
夕暮れになると笠鉾のぼんぼりに明かりが灯され、さらに華やかな曳き回しが行われます。昔ながらの素朴な祭りが、今も世代を紡いでいます。
◇
ほかにも、幻想的な氷の世界が広がるあしがくぼの氷柱(例年1月中旬から2月下旬に開催)など、見どころたくさんの横瀬町。里山の景色と地元住民の優しさに触れ、笑顔になれるまちでした。ぜひ一度、足を運んでみてください。
■次回は海外編、ネパールです。
まちのデータ
人口
7,531人(4月1日現在)
おすすめの特産品
しいたけ、ブドウ、イチゴ
どぶろく、和紅茶
アクセス
池袋駅から西武池袋線特急電車で最短72分
問い合わせ
横瀬町観光協会
0494-25-0450
いつでも元気 2025.6 No.403
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