ケアマネの八面六臂な日々
ケアマネジャーは介護保険サービスを利用している方のご自宅に、少なくとも毎月1回は訪問します。利用者の体の状態や暮らしぶりのほか、介護保険サービスを使ううえで、不便なことはないかなどを確認しています。
訪問が終わって帰る際に、ご家族の靴を間違えて履いてきたケアマネがいました。雨の日に利用者の娘さんの長靴を履いて帰ってきて、娘さんから電話で聞かれるまで気づかなかったという〝事件〟に、事業所で笑いが起きました。
ところが笑っていた他のスタッフも、同じように靴を間違えて履いてきたことがあると告白。「私は途中で気づいて、ちゃんと利用者宅に戻りましたけどね」と胸を張りますが、どんぐりの背比べです。
認知症が進行したAさん(73歳・女性、要介護度4)は東京都内で夫と二人暮らし。ある日の午前、担当のケアマネが訪問先から私に電話をかけてきました。「助けてください! ご主人と話している間に、Aさんが僕の靴を履いて出て行ってしまいました」。ケアマネの靴より、靴を履いて出て行ってしまったAさんの方が心配です。
Aさんは一人で出かけてしまうことが多く、過去には宮城県のある大学の校庭で歩いているところを発見されたことがあります。お金も持っていないのに、たった一人で東京から宮城までどういうルートで行ったのか? たぶん私の事業所の利用者の中では、〝最長不倒距離〟でしょう。
私は電話をもらって、すぐにAさん宅の最寄り駅まで行きました。電車に乗ってしまうと探せなくなるので、焦って見渡しましたが見つかりません。仕方なく警察に捜索願いを出しました。
昼過ぎになって、ようやく近くの幼稚園から電話が入りました。Aさんが散歩をする幼児の列の最後尾についてきて、幼稚園の中まで一緒に歩いて入ってきたということでした。
認知症の方は、にぎやかな場所や明るいところに行く傾向があるそうです。いつも履いている靴にGPSをつけることもありますが、そもそも靴を間違えたら意味がありません。ケアマネでも靴を間違えるのだから、仕方がないかな。
石田美恵
全日本民医連「ケアマネジメント委員会」委員長
いつでも元気 2025.6 No.403
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