けんこう教室 直腸肛門奇形
直腸肛門奇形 当事者の会で支え合う
消化管の先天異常の中で最も多い直腸肛門奇形(鎖肛)。
その診断や治療のほか、社会的支援が極めて貧弱な中で支え合う
当事者の会の活動を紹介します。

社会医療法人健生会(奈良) 名誉理事長 土庫病院大腸肛門病センター顧問医 稲次 直樹
直腸肛門奇形(鎖肛)は、直腸および肛門の形成異常で、肛門が生まれつきうまく作られない病気です。お尻に肛門がなかったり、瘻孔という小さな穴がみられたり、肛門の位置がずれていたりします。
出生児約5000人に1人の割合で発生し、消化管の先天異常の中で最も多い病気です。男女比は3:2で、男児にやや多くみられます。また心臓や脊椎、仙骨、泌尿生殖器などの奇形を合併する頻度が高いことが分かっています。
診断
直腸肛門奇形は直腸末端の位置によって、低位型、中間位型、高位型に分けられます(資料)。病型によって治療方法が大きく異なるので、できるだけ速やかに検査・診断する必要があります。
診断のためには、生後12時間以上経ってから腹部のX線撮影を行います。赤ちゃんの頭を下にして横から腹部を撮影し、直腸がどの位置にあるかを確認します。
肛門の異常が外から分からず、瘻孔という小さな穴がみられることもあります。男児は直腸と膀胱・尿道との間に、女児は直腸と子宮・膣との間に開口します。
生後すぐに病気が発見されない場合、お腹の張りや嘔吐、尿に便が混じる、腸閉塞などの症状から診断につながることが多くあります。
治療
治療は低位型、中間位型、高位型の診断にもとづいて行います。
低位型の場合は、新生児期に人工肛門を作ることなく、直腸肛門形成術を行うことが可能です。直腸末端を確実に外肛門括約筋の中央に配置することができるので、手術後の肛門機能の向上が期待できます。
中間位型や高位型の場合は、新生児期にまず人工肛門を作り、生後3カ月または体重が6㎏以上になった頃に根治手術を行います。根治手術の最終目標は良好な排便機能を獲得することであり、そのために多くの術式が考案されています。
近年、臓器を支える骨盤底筋群の損傷を極力少なくし、腹部に大きな傷を作ることのない腹腔鏡下手術が多くの施設で行われています。その有用性が報告されており、今後ますます増えると予想されます。
人工肛門の閉鎖は新たに造設した肛門が安定するのを待ち、原則として根治手術から数カ月後に行います。
排便トレーニング
根治手術などの治療を終えたあと、排便トレーニングに取り組むことになります。直腸肛門奇形の場合、直腸肛門周囲の筋肉や神経がもともと少ないため、便がたまったと感じる力が弱かったり、排便時に十分にいきむことができなかったりします。
そのためにグリセリン浣腸や坐薬による刺激で朝か夜にすっきり便を出し切り、日中に便が漏れることがない状態を目指します。毎日、同じ時間帯に排便する習慣を継続すると、自力での排便が可能になりやすいようです。小学校へ上がる頃までに、トイレで排便し、パンツで生活することを目標にします。運動する時や体調不良時には、パッドを用いることもあります。
貧弱な社会的支援
先日、「鎖肛当事者の会※」で講演する機会がありました。私自身、以前は小児外科で直腸肛門奇形の治療に携わっていましたが、医師人生の後半は成人の大腸肛門疾患を中心に診療してきました。
講演を機会に改めて直腸肛門奇形について学んだところ、近年の診断や治療の進歩は目覚ましいものの、患者さんは未だに多くの悩みを抱えながら生活している実態が明らかになりました。
排便が安定しないために就労が困難であったり、度重なる手術を経験していたり、なかなか人工肛門を閉鎖できない方もいます。悩みに適切に答えてくれる医療機関や診療科も見つからず、社会的支援は極めて貧弱な中に置かれています。
私が講演に伺った「鎖肛当事者の会」は、同じ悩みを持つ当事者が相談や情報交換をしながら支え合う場として立ち上げられました。講演会でみなさんとの交流を通して、私自身が学ばされることが多くありました。病気を正しく知り、アドバイスし合い、励まし合いながら活動を続けておられます。当事者のみなさんが生きやすい社会になるよう、私たちも一緒にできることをしていきたいと思います。
※ 正式名は「地域で一緒に支え合う会(鎖肛当事者の会)」
当事者の会の活動
地域で一緒に支え合う会(鎖肛当事者の会)
代表・大川 久夫
当会は直腸肛門奇形の当事者の清水辰馬氏が2012年2月に設立しました。現在、会員は約20人。年に1~2回のリアル相談会や、2カ月に1度を目安にオンライン近況報告会(悩み相談会)などの活動を行っています。
会員はLINEグループを活用して、毎日情報交換をしています。Facebook やInstagram、ホームページでの情報発信などにも挑戦し、まだまだ作成途中ながらも数人の方から「探したらここにたどり着きました」と、コメントをいただけるようになりました。
直腸肛門奇形は病気の性質上、なかなか周りの人に相談できず、また完治することも難しいため、孤独に一人で悩んでおられる方も多いのが現状ではないかと思います。そこで同じような悩みを持つ当事者の体験談を共有したり、保護者のみなさんが相談し合える場を作り、話すことで少しでも不安な気持ちをやわらげることができたらと思いながら運営しています。
失禁した時のみじめな気持ち。まちを歩くときも仕事中も、失禁を恐れて他人の反応を気にしながらの生活。友人にも配偶者にも言いづらく、理解してもらえる医療機関にも出会えない。そんな悩みを当事者仲間で話し合いながら、アドバイスし合い、心を支え合っていければと思っています。
いつでも元気 2025.7 No.404