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いつでも元気

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けんこう教室 認知症が気になるあなたへ(上)

『認知症が気になるあなたへ』(新日本出版社)を著した坂総合クリニック(宮城県多賀城市)の今田隆一医師に認知症とは何か、治療法や家族の対応方法などについて3回にわたりお聞きします。 

認知機能とは

坂総合クリニック 宮城県認知症疾患医療センター長 日本脳神経外科学会認定専門医 今田 隆一

坂総合クリニック
宮城県認知症疾患医療センター長
日本脳神経外科学会認定専門医
今田 隆一

 認知機能のコアとなる「記憶」とは、一体何でしょうか。一言でいえば脳の神経細胞ネットワークに刻まれた、生まれてから現在までの人生の痕跡といえるでしょう。
 このような「記憶」を使ったさまざまな神経細胞ネットワークの機能のうち、「外から入った感覚情報を区別して分類する」「その情報が自分にとってどんな意味を持つのか価値づけをする」「どう対処するのが良いか判断する」ことを総じて、私は認知機能と呼んでいます。
 目や耳、皮膚など外から入った感覚情報が「どんな種類のものなのか」ということを明らかにするためには、過去の経験・記憶に照らして解釈する作業が必須となります。
 自分にとってのその情報の意味を捉えるためには、快・不快や怒り・悲哀など喜怒哀楽に通じる情動、励みになる・やる気が出る・嫌になる・うれしくなるなどの感情の記憶に関連した価値付けが必要になります。
 さらに「どう対処すべきなのか」を決めるためには、優先順位を決め、意思決定するための必要な情報(例えばエネルギーのもとの血糖情報や心臓の拍動などの内臓情報)を収集し、頑張れる範囲の決定や行為・行動の段取りなどを判断することになります。
 こうして認知機能には神経ネットワークに記憶された体外・体内情報を通じて、歩んできた人生=個人史が色濃く反映することになります。神経ネットワークの一部が壊れる、弱まることによって認知機能の低下が起こる認知症に、その人それぞれの個性がある所以です。
 一方、住んでいる地域コミュニティーの文化、医療・介護事情、政治や政策の影響など、社会のあり方によって個人史にはさまざまな変容がもたらされます。認知症を持っている人の日常の様子には、その人の個人史と取り巻く社会のあり方が強く影響することになります。

認知症の種類

 認知機能に障害をもたらす病気にはたくさんのものが知られています。パーキンソン病などの神経難病もそのうちのひとつですが、私たちが認知症と言っているのは通常、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症に若年性認知症を加えた5つです。
 なお認知症では認知機能の一部が障害されるのであって、「何も分からなくなる」 「何もできなくなる」わけではありません。しかも障害された機能の一部は残された機能で補われる可能性もあります。このことは認知症と認知症を持っている人のことを考えるときに、とても大事なポイントです。
 なお、加齢に伴う生理的健忘と認知症による病的健忘は違います。資料1にまとめたので、参考にしてください。

アルツハイマー型認知症

 認知症で最も多いのがアルツハイマー型認知症です。症状では新しい記憶の障害が特徴的で、患者さんの人柄や人格の変化はあまり目立ちません。その後、入浴や着替えなどの日常のさまざまな行為が面倒に感じられるようになります。見えているものを正しく認識できなかったり、やり方を忘れて適切に行動できないため、生活上の困りごとが増えていきます。
 アルツハイマー型認知症の名称は、アルツハイマー病の発見にさかのぼります。そこでは神経細胞内に老人斑(ベータ・アミロイド蛋白の塊)と神経線維のもつれが多数認められており、この変化が初老期に発病するアルツハイマー病の本態とされてきました。
 その後、老年期に起こり、臨床的にアルツハイマー病に似た経過をたどる認知症が「アルツハイマー型認知症」と呼ばれるようになったのです。

レビー小体型認知症

 2番目に多いのがレビー小体型認知症です。レビー小体という異常なたんぱく質が、脳の中の神経細胞ネットワークに広く沈着し、さまざまな症状を起こします。
 代表的な症状としては記憶障害のほか、リアルな幻視、現実のものを見間違える錯視、家人が他人とすり替わっているような感覚が生じます。また誰か階上にいるように思う「幻の同居人」、睡眠中に起こる寝言や多動などの症状、大きく変動する気分や感情、パーキンソン病に似た歩き方などです。さらに立ち眩み、うつ病なども起こります。

血管性認知症

 血管性認知症とは脳卒中の後遺症として認知症の症状を持っているものです。脳卒中とは脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血など脳の血管が詰まったり、逆に破れて出血を起こしたりする病気の総称です。
 脳卒中は通常、手や足のまひや言語障害などを後遺症として残します。しかし脳卒中の起こる場所やその大きさによって典型的な症状を起こさず、代わって認知障害が残ることがあります。
 脳卒中が神経細胞ネットワークの部分的な崩壊をきたし、それが認知機能の障害をもたらすためです。血管性認知症とはこうしたものを指します。

前頭側頭型認知症

 前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)は、認知症の中でも10%以下と少ないものです。前頭葉・側頭葉に限った変性と萎縮が起こる認知症です。
 前頭葉は脳全体の統合的機能と人格・性格の形成、言語発出に関係した脳です。また側頭葉は人格や性格に関係しているほか、言葉の理解にも関係した場所です。この型の認知症は、そうした機能に関係した障害が起こります。

若年性認知症

 64歳以下で発症した認知症を若年性認知症と呼んでいます。若年性認知症の多くは「アルツハイマー型認知症」の若年発症版と理解されていますが、実際にはそう簡単ではないようです。
 もともと遺伝子変化が多いことや、進行が速いことが指摘されていました。しかし中には進行が遅く、支援があれば長い間、就労も含め自立した生活が可能な人もいること、また症状も高齢期の発症の場合とはやや異なっていることなどが指摘されています。
 次回は認知症の診断・治療・予防と備えについて述べます。


筆者の書籍紹介

認知症が気になるあなたへ

今田隆一、阿部育実、吉田真理 編著
新日本出版社
1500円(税別)

いつでも元気 2025.8 No.405