まちのチカラ 長野県上田市 地域愛とチャレンジ精神
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

太郎山登山競走のスタートを盛り上げる地元の子どもたち(UEDA VERTICAL RACE提供)
長野県の東部に位置する上田市。
雄大な山々に抱かれて実る果物や、
勇壮なスカイランニングが魅力です。
チャレンジ精神に満ちた人々による、
新しいまちづくりが始まっています。
海外編に続き、今回は日本のコミュニティラジオを紹介します。特定の狭い地域を対象とするコミュニティFM放送は、1992年に制度化され全国で345局が運営。地域の防災メディアとして注目され、被災者に必要な情報を届けるツールとしても活躍しています。
95年に起きた阪神・淡路大震災では、被災した在日外国人コミュニティへの多言語での情報提供の必要性から、神戸市長田区にFMわぃわぃが誕生しました。
「まちは一つの色だけではなく、数えきれないほどの違いを持った人々で構成されている。震災から30年たった今も、多文化共生社会へ向けて活動を続けています」と、代表の金千秋さんは語ります。
FMわぃわぃは2016年にネットラジオに移行。いまもまちの人々がラジオで被災体験を語り継ぎ、国籍を問わず地域のつながりをつくっています。
FMわぃわぃの活動に関わって20年の私。学んできたことを地元でも活かそうと、長野県上田市でコミュニティラジオ開局にチャレンジしました。
地域に寄り添う草の根ラジオ
長野県東部の上田市。北は菅平高原、南は美ヶ原高原など2000m級の山々に囲まれ、中央を千曲川が流れます。
県内にコミュニティラジオのある自治体は10市町。上田市にもまちづくりの拠点となるコミュニティラジオがあったらと、有志でうえだFM開局準備室を立ち上げました。
ネットで情報を得られる時代、ラジオは古いと思うかもしれません。でもラジオには、人の声から伝わる温かみがあります。放送を聞いたらすぐに役立つ、生活圏内の情報があります。スタジオが人の集まる場となり、新しいコミュニケーションが生まれます。
うえだFM開局準備室は今年4月に実験放送をスタート。現在は毎週水曜夜7時から、ミニFMとネットラジオで番組づくりをしています。地元のミュージシャン、消防団に所属する大学生、小学生パーソナリティーなど、幅広い世代のメンバーに共通するのは「上田をもっと盛り上げたい」という地元愛。
開局するためには総務省の免許が必要で、放送に必要な電波(周波数)の確保や、多くの市民や地元企業からの協力を得る必要も。新たなまちづくりの挑戦が始まっています。
信州果実のドライフルーツ
うえだFM設立に賛同し、スタジオスペースを提供してくれた玉井フルーツ店。明治期の醤油蔵を改装した店内には、信州の多彩なドライフルーツが並びます。
りんご、あんず、ぶどうにプルーン…。社長の町田和幸さんが〝作品〟と呼ぶドライフルーツは宝石のように輝き、果物本来の甘み、酸味、香りがギュギュっと濃縮されています。
そのまま食べるだけでなく、アレンジしてもおいしいドライフルーツ。マシュマロとチョコをレンジで溶かし、シリアルとドライフルーツに混ぜ合わせれば簡単シリアルバーに早変わり。手軽に食べられて、エネルギー補給や子どものおやつにもぴったりです。
「信州の文化は〝隣三尺〟。雪が積もれば隣の家の敷地もちょっと多めに雪をかく。田舎コミュニティを円滑にする秘訣です」と語る町田さん。囲炉裏で焼いているのはドライフルーツ入りのおやきです。長野の郷土食おやきの中に、野沢菜とドライ生姜、あんこと干し巨峰などを組み合わせています。フルーツと情熱がつまった逸品を、ぜひご賞味ください。
世界のUEDAへ 太郎山登山競走
コミュニティラジオのスローガンは「10%が放送、90%がまちづくり」。上田を盛り上げるため、毎年ゴールデンウイークに開催される太郎山登山競走の運営にも関わっています。私は司会として、他のメンバーも会場の草刈りや自治会との調整など、地域のつながりを活かして大会に協力。今年、11回目にして初めて、山岳地帯を走るスカイランニングの世界大会を兼ねることになりました。
スカイランニングは急峻な山岳地帯を駆け登るスポーツ。上田のシンボル、太郎山を舞台に、市民ランナーから世界のトップ選手まで約900人が出場しました。
太郎山登山競走を世界大会にまで育てたのが、スカイランナーの松本大さん。里山を守る自治会の人たちの協力を得て山を整備し、世界基準のスカイランニングコースを作りました。上田駅の北2㎞にある大星神社をスタートし、標高1164mの太郎山山頂を目指します。
「上田駅から大星神社、山頂までほぼ一直線のルート。これは世界に誇る上田のメインストリートです」と松本さん。「世界のUEDAにしていきたい!」という夢に、地域のみならず海外にも共感の輪が広がっています。
脈々と紡がれてきた歴史を大事にしながら、新しいことにチャレンジする若者が輝くまち、上田市。ぜひお気軽に足を運んでください。
■次回は宮城県南三陸町です。
まちのデータ
人口
151,033人(7月1日現在)
おすすめの特産品
りんご、松茸、うえだみどり大根
アクセス
東京駅から上田駅まで北陸新幹線で90分
問い合わせ
(一社)信州上田観光協会
0268-71-6074
いつでも元気 2025.9 No.406
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