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いつでも元気

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スラヴ放浪記 「足らない分はまけてあげる」 支払いあれこれ

文・写真 丸山美和(ルポライター、クラクフ在住。ポーランド国立ヤギェロン大学講師)

日本から届いたカレンダーをウクライナの子どもにプレゼントするサンタさん

日本から届いたカレンダーをウクライナの子どもにプレゼントするサンタさん

 ポーランドで暮らしていると、よくも悪くも「日本では、こうはならないだろうな」と驚くことの連続である。今回はそんなエピソードを紹介したい。
 筆者は3年前からウクライナの難民支援を続けている。先日、日本の慈善団体から難民の子どもたちに渡す小包を5つ、4回にわたって受け取る機会があった。小包の大きさと重さは全て同じだ。
 初回は配達員のおじいさんがやって来て関税は無料。おじいさんはタブレットとタッチペンを差しだし、受け取り確認の署名を求めた。記入しようとすると「ちょっと待って。ローマ字で書かないで。日本語で大きく書いてください」と言う。不思議に思い尋ねると「日本人に配達をしたのは初めて。あなたのサインを記念にとっておきたいんです」と言い、ほほ笑んだ。
 翌日の夕方、勤務先の大学から帰宅するとポストに不在通知が入っていた。小包が保管されている郵便局へ行くと、「関税が必要」と言われた。「昨日は無料だったのに」と不思議に思ったが、黙って約800円を支払い、荷物を2つ受け取った。
 数日後、初回と同じおじいさんが配達に来た。小包は1つだが、2つ分の関税を払えという。「先日の荷物と同じですが、なぜ料金がかかるのですか」と尋ねると、笑みを浮かべて「分かんないや」。硬貨では足りずに紙幣を渡そうとしたら、「足らない分はまけてあげる」と言い、あるだけの小銭を受け取り去って行った。ポーランドの郵便局では、集金の金額を確認しないのだろうか。
 数日後、不在中に最後の小包が届いており、アパートの管理人が保管してくれていた。関税は無料だった。

 夜明け前、ウクライナへの支援に向かう仲間の集合場所へ行くため、自宅近くに停車していたタクシーに乗った。道中ではよもやま話に花が咲き、あっという間に目的地に着いた。
 運転手に運賃を聞き、「ありがとう」と言いながら紙幣を渡そうとすると、「あら、財布を忘れちゃった。おつりがない」と言う。黙って運転手を見ていると、笑顔で「ただでいいや!」。私は「いつかビールをごちそうしますね」と約束し下車した。

 ある日、取材先へ行こうとクラクフ中央駅に向かった。駅構内のスーパーで、取材先に渡す手土産を買った。欧州では支払いはカード決済が主流。ところがカード決済のレジが混んでいたため、現金決済のレジで支払った。数円程度のおつりがあるはずだったが、レジの店員は渡さず、「早く行け」とばかりに片手で屋外を指さす。時間もないので、あきらめた。
 それから市営の循環バスに乗り、車内の券売機でカード決済をしようとした。最近のポーランドの公共交通機関は、クレジットカードをかざすだけで支払いが完了し、切符は出ない券売機もある。ところが珍しく、その市営バスの券売機では硬貨しか使えなかった。
 先ほどスーパーで手持ちの硬貨を使ってしまったため、券売機で切符が買えない。車掌に「カードと紙幣しか持ち合わせていません。切符を買うほかの方法はありますか」と尋ねた。車掌は露骨に不機嫌な表情になり、「次の停留所で降りろ!」と命令する。下車してしまうと、取材の時間に間に合わない。筆者は困り果てた。
 すると、話を聞いていた女性の運転手が自分のバッグから財布を取り出し、5ズロチ(約200円)の硬貨を私に渡してくれた。「これで切符を買ってね」。思わず涙が出た。
 ポーランド社会で起きる出来事には驚きとユーモア、そして感謝があり、筆者は彩り豊かな生活を送っている。

関税 海外から郵送物を受け取る際、課税価格が1万円を超えると配達員に関税を支払う必要がある

いつでも元気 2025.9 No.406