映画 ウナイ
文 八田大輔(編集部)

写真提供 ⓒ2025 GODOM沖縄
いま、世界各地で環境汚染が問題となっているPFAS(ピーファス)。
その実態に迫るドキュメンタリー映画「ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう」が
8月16日から公開される。監督の平良いずみさんに話を聞いた。
平良いずみ(たいら・いずみ)
沖縄県出身。GODOM沖縄ディレクター。元沖縄テレビキャスター。医療・福祉・基地問題などをテーマにドキュメンタリーを制作。『水どぅ宝』(2022)で民間放送連盟賞テレビ報道部門優秀賞。『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』(2020)で初監督を務めた。
水の惑星、地球。
地球上の水の97・5%は海水で、淡水はわずか2・5%。その淡水の大部分は南極などの氷や氷河であるため、地下水や河川に存在する淡水は地球全体の水の0・8%に過ぎない。
その貴重な水資源を頼りに、人間は生命を維持している。成人の水分量は体重の50~60%、新生児は80%にもなる。
私たちが毎日口にする水。その中に、ある化学物質が含まれていたという事例が日本各地で、世界中で相次いでいる。
その物質の名は、PFAS。
絶対に許さない
2016年、沖縄県は水道水から高濃度のPFASを検出し、汚染源が米軍嘉手納基地と推測されると発表。県民約45万人が飲んできた水だった。
沖縄で暮らす平良いずみさんは、聞き慣れない化学物質を調べ、その有害性を知る。
「不安と怒りで目の前が真っ白になりました」。当時、生後間もない息子に与えたミルクは、産科で推奨された水道水で調乳していた。
「発がん性や胎児への悪影響を知るうちに、『わが子に毒を与えてしまったのでは』『絶対に許さない』と思いました」。
テレビ局に勤務していた平良さんは取材を始める。沖縄のみならず、東京や岡山など全国各地の水を追いかけた。さらにはアメリカ、ドイツ、イタリアのPFAS汚染も現地で目にしてきた。
そこで出会ったのは、知らぬ間に進んでいた汚染の事実を知り、悔しさに涙しながらも、課題解決のために立ち上がった女性たちだった。彼女たちは街頭で汚染の実態を訴え、自ら調査し、大企業や政府に対峙する。安全な水や空気を求める権利のために。そして、子どもたちの未来のために。
闇を照らす光
タイトルの「ウナイ」は、沖縄の言葉で〝女性たち〟を意味する。
「世界各地を取材すると、声を上げているのは圧倒的に女性が多い」と平良さん。地球環境や健康よりも企業や軍事の利益を優先する社会の中で、その構造に取り込まれている男性は声を上げづらいのではないかと考察する。
今年6月、イタリア・ベネト州のPFAS汚染に関して、日本人を含む三菱商事の現地関連会社幹部に有罪判決が下った。この訴訟の先頭に立ったのは、映画にも登場するミケーラ・ピッコリさんら母親たちの団体だった。
甲状腺疾患やがん、低出生体重児などの健康被害が確認され、世界ではPFASゼロへの潮流が起きている。一方、日本は欧米よりも格段にゆるい水質基準のままで、汚染源とみられる基地や大企業の立ち入り調査すら実現しない。
大気や水の中のPFASは目に見えない。においも味もしない。だが確実に存在する「透明な闇」だ。その闇を照らす光が、この映画にはある。ウナイは諦めない。
最後に、今後もPFAS問題を追い続けるのか聞いた。
「もちろん。私、執念深いので」と、平良さんは笑った。
永遠の化学物質
PFASとは、フッ素と炭素が結合した有機フッ素化合物の総称。1940年代に開発され、その種類は1万を超えると言われる。
水や油をはじき、熱に強い性質を持つ。防水スプレーや化粧品、ハンバーガーの包装紙やフライパンのコーティングなど生活用品から、軍事基地や空港で使用される泡消火剤までさまざまな製品に利用されてきた。
環境問題として注目されたのは2000年。アメリカの化学メーカー3M社が、環境や生態系への影響を理由に2種のPFASの製造を中止すると発表した。
それがPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)であり、それにPFHxS(ピーエフヘクスエス)を加えた3つが、ストックホルム国際条約の廃絶対象物質に指定。日本でも製造、輸入が原則禁止された。
規制は始まっても、汚染は消えない。PFASは化学的に結合力が非常に強く、自然界で分解されにくい。環境中に放出されると風に乗って拡散し、雨と混ざり大地に降り注ぐ。土壌を伝い地下水に溶け、海に流れる。そして、波しぶきによって再び大気に戻る。「永遠の化学物質」と呼ばれる所以だ。
さらに、体内に取り込まれると長期間排出されずに蓄積される。
PFASは今や地球全体へ広がり、北極のアザラシやホッキョクグマからも検出された。
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いつでも元気 2025.9 No.406
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