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いつでも元気

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歴史の岐路で

文・新井健治(編集部) 写真・亀井正樹

7月の参院選は戦前の天皇制国家を掲げ国民主権を否定する参政党が躍進しました。
選挙結果と現在の日本の状況について、作家の雨宮処凛さんに聞きました。

雨宮 処凛(あまみや かりん) 1975年、北海道生まれ。作家・反貧困活動家。2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ!難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞受賞。『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)など著書多数

雨宮 処凛(あまみや かりん)
1975年、北海道生まれ。作家・反貧困活動家。2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ!難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞受賞。『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)など著書多数

―参院選の結果をどうみますか。
 大きなショックを受けました。 参政党の大幅な議席増もそうですが、外国人問題が唯一の争点かのようになってしまったことに唖然としました。物価高への対応や米不足、非正規雇用問題など、争点はいくつもあったはずですが…。

―なぜでしょうか?
 「外国人の脅威」を主張する参政党が支持率を伸ばすなか、引きずられるように、日本維新の会や国民民主党、自民党までもが外国人に対する規制強化や権利縮小を掲げるようになりました。

―いつ頃から、争点がずれていったのでしょうか。
 都議選前の6月初め頃から、世の中の空気が変わり始めたと思っています。突然、「日本がこんなふうになったのは、外国人のせい」という言説が出てきて、わずか1カ月で世論がガラッと変わった。「戦争は、こんなふうにして始まるんだな」と感じました。

―世の中の空気が変わったことに気付いたきっかけは?
 私がよく見ている、ネット上の「キラキラ女子アカウント」がこの頃、参政党支持を表明し始めた。普段は美容やファッションのことしか語らない層が、「日本が外国人に乗っ取られる。投票に行こう」と言い始めたのです。

―テレビではこの間、外国人が軽装で富士山に登る様子が何度も放映されました。こうしたことも影響しているのでしょうか?
 日本人が物価高騰であえいでいる時に、訪日外国人が5000円の昼食を楽しむ様子もよく見ますよね。なかでも世論にインパクトを与えたのは、中国系オーナーが東京・板橋のマンションの家賃を2・5倍にして民泊に転用か、と報じられたことだと思います。ワイドショーで再三放映されたことで、「中国人に乗っ取られる」と危機感を抱く人が増えた。漠然とした不安を抱えている時に、「日本人ファースト」という言葉が飛び込んできたのでしょう。

―参政党に投票したのは、これまで選挙に無関心だった有権者との分析もあります。実際、投票率は58・51%と前回から6%以上も上昇しました。
 〝ロスジェネ世代〟で参政党に投票した人も多いようですね。「自民党に犠牲にされ、野党は何もしてくれない。自分たちはずっと苦労してきたのに、政治は無策だった」と感じているから、既成政党に対する不信感が非常に強い。そういう人にとって参政党は新しく映ったのだと思います。

―1975年生まれの雨宮さんも、ロスジェネ世代です。
 バブルが崩壊した就職氷河期にまともな職に就けず、非正規労働者のまま50代に差し掛かった人が、周囲にたくさんいる。「将来は餓死か、自殺か、ホームレスか、刑務所か」と口にしますが、最悪、そうなる可能性があります。

―外国人問題が投票に結び付いた理由は?
 この世代に限らず〝自己責任論〟に苦しんできた人は多い。そんな中、「苦しいのは外国人のせい」という言説に、初めて自己責任から解放されたのでは。言語化できなかった苦しみや怒りが、日本人ファーストで一気に顕在化しました。

―雨宮さんは22歳で右翼団体に入会、2年間活動しました。
 30年近く前ですが、中学時代にいじめを受け、大学受験にも失敗し右翼団体しか行き場がなかった。右翼の意味も知らずに宗教にすがるような気持ちで入りました。所属した団体でさまざまな社会問題について学ぶなかで、日本国憲法前文を読んで感動し、視野が広がって右翼を離れました。生きづらさの背景に何があるのか考えるうちに、社会の構造的な問題に目が向いたのです。

―雨宮さんは「反貧困ネットワーク」の世話人も務めています。
 この20年ほど生活困窮者の支援の現場にいますが、状況は悪化の一途を辿っています。以前は「ネットカフェ難民」が衝撃を持って受け止められましたが、今はごく当たり前の光景。労働の現場はますます無権利状態になり、最近は単発バイトがはやっています。さらにSNS経由で、闇バイトに手を出す若者も増えている。

―参政党に投票した人たちの思いを、どのように理解すればよいのでしょうか。
 対話が必要です。参政党に投票した人は、既存の政治への大きな不信感があるし、今後の日本にも自分にも不安を抱えている。それは誰でも共感できること。まずは共感する部分から対話を始めることが重要だと思います。

―対話の際に気を付けることはありますか。
 彼らが傷ついているのは〝プライド〟だと思います。だから日本人ファーストの言葉がフィットした。困窮者支援の現場には、「日本人の自分は生活保護を受けられないのに、外国人は優遇されている」と事実ではないことを言う人もいます。そういう時は、やんわりと間違いは指摘しつつも、まずは相談に乗り伴走する。それは民医連の病院でも同じだと思います。どんな患者も無条件に助けている。対話の際は相手を頭ごなしに批判しないことが大切。「この人なら受け入れてくれる」という〝安心の回路〟が必要です。
 生活の不安や漠然としたもやもやを外国人をはじめ少数派にぶつけるのか、それとも社会構造に目を向けまっとうな政治を実現するのか、ともに考えればいいのではないでしょうか。このままでは近い将来、戦前のような息苦しい社会が到来するかもしれない。私たちはいま、歴史の大きな岐路に立っています。

天皇制国家 
参政党は「新日本憲法」(構想案)で「日本は天皇がしらす国」「国は主権を有し」と国民主権を否定している
ロスジェネ世代 
おおまかに就職氷河期に社会に出た1975~84年生まれの人をさす。「失われた世代」のことで不安定な雇用が多い
反貧困ネットワーク 
2007年にできた貧困問題解決を目指す一般社団法人。多様な個人や団体が連携する

いつでも元気 2025.10 No.407