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いつでも元気

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まちのチカラ 伝説の岬と震災の記憶 宮城県南三陸町

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

2つに割れた奇岩に伝説が宿る神割崎

2つに割れた奇岩に伝説が宿る神割崎

宮城県北部に位置する南三陸町。
神が割った伝説の岬と、豊かな海の幸。
震災の記憶を伝える語り部や、
継承される祈りの文化も。
復興の息吹があふれるまちを訪ねました。

 仙台駅から北東に車を走らせること約90分、南三陸町に到着しました。リアスの海岸線に漁港が点在し、牡蠣や銀鮭、わかめなどの養殖が盛ん。地元の人々が守ってきた豊かな漁場が広がります。
 まずは町の南端にある南三陸屈指の景勝地、神割崎へ。2つに割れた大岩の間に、荒波がしぶきを上げる様は圧巻です。
 白い砂浜と松原を有し、「白砂青松百選」にも選ばれたこの土地には、神割伝説が残ります。その昔、浜に打ち上げられた大クジラをめぐり村同士が争うと、岬の大岩とクジラがまっぷたつに割れてしまいました。人々は「神様が仲裁をしたのだ」と考えて争いを止め、岩の割れ目を村境としました。いまも、南三陸町と石巻市の境界になっています。
 2月中旬と10月下旬には、岩間から日の出を見ることができます。自然が織りなす神々しい絶景を、ご堪能ください。

19歳の語り部

 2011年の東日本大震災。震災の記憶と教訓を伝え、亡くなった人々への追悼の想いを捧げる場所が、町中心部にある南三陸町震災復興祈念公園です。
 防災無線で避難を呼びかけ続けた職員ら43人が犠牲になった旧防災対策庁舎が、震災遺構として保存されています。無惨に折れ曲がった赤い鉄骨を目の当たりにすると、写真やテレビでは伝わらない衝撃が心に突き刺さります。
 公園を案内してくれたのはまちあるき語り部の畠山興斗さん(19歳)。まだ5歳だったあの日、保育所から高台に避難して見た津波を鮮明に覚えています。
 「震災を経験していない世代も増えていく。自然の脅威を忘れないように伝えていきたい」と畠山さん。震災前の写真を手に、あの日に起きたことや、これまでの町の歩みを丁寧に伝えます。
 年齢も背景もさまざまな語り部ガイドが、それぞれの震災体験を語ってくれます。ぜひ、一人一人の言葉に耳を傾けてください。

南三陸の幸 キラキラ丼

 2022年にグランドオープンした道の駅さんさん南三陸は、観光や交通の拠点となる複合型施設。その中にあるさんさん商店街に、話題のご当地グルメを訪ねました。
 その名も南三陸キラキラ丼。地元の旬の食材をふんだんに使い、四季ごとに趣向を凝らした丼を提供。春(3〜4月)はホタテや春野菜の「春つげ丼」。夏(5〜8月)はダントツ一番人気「うに丼」。秋(9〜10月)は鮭やタコなど秋の味覚の「秋旨丼」。冬(11〜2月)は牡蠣やいくらの「冬のみかくづくし」と、豪華なラインアップです。
 震災後、仮設商店街を経て現在の店舗を構えた創菜旬魚はしもとの及川満さんは、「南三陸の海は魚種が豊富。おいしいものが一年中ある場所で、いつ来ても新鮮な海の幸が食べられます」と、お客さんを迎えます。
 目の前の海で獲れる新鮮な魚介を用いた丼は、彩り豊かで見た目も華やか。食べる人も作る人も笑顔になれる、キラキラとした復興の味です。季節ごとに異なる味わいを、お楽しみください。

祈りの風習 キリコ

 町の家々の神棚には、キリコと呼ばれる白い切り紙が飾られています。キリコとは、主に三陸沿岸部の神社が氏子のために半紙で作る神棚飾りのことです。
 上山八幡宮の禰宜、工藤真弓さんによると、模様や形は地域ごとに異なり、内陸では米俵や馬、沿岸部では網にかかった鯛が描かれるとのこと。土地の風土や歴史が反映され、災厄除けや豊漁祈願の意味を持ちます。氏子たちはお正月を前に感謝を込めて古いキリコを降ろし、新しいキリコを飾り直します。
 地域の神社で代々継承されるキリコ。上山八幡宮では奇跡的に津波を免れた伝承の型を使い、ひとつひとつに想いを宿して手作り。震災前は500組のキリコを作っていましたが、震災後は8組に減少。現在は300組まで戻りました。
 キリコには町の記憶を紡ぐ役割も。2010年にアートでまちおこしをしようと女性たちが中心となり、住民の思い出をモチーフにデザインしたキリコを作製。震災と津波ですべてが流されてしまった後、残っていた画像を元に大きな看板に作り直し、商店や家の跡地に設置しました。
 「切り抜いた〝無い〟部分の存在が、〝有る〟ことの大事さを教えてくれます」と工藤さん。風にひらひらと揺れるキリコを見ていると、神様の気配を感じて対話をしているかのようです。
 震災の記憶を語り継ぎ、再生への想いをつなぐ南三陸町。新たな息吹にあふれるまちへ、ぜひ足を運んでください。

■次回は群馬県下仁田町です。

まちのデータ

人口
1万1293人(7月末現在)
おすすめの特産品
わかめ、銀鮭、タコ、ウニ、牡蠣
アクセス
仙台駅から道の駅さんさん南三陸まで車で約90分。仙台駅から志津川駅まで電車やバスで2時間〜2時間半
問い合わせ
南三陸町観光協会
0226-47-2550