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いつでも元気

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世界に医師を派遣 キューバの医療事情

文・写真 入江敬一(全日本民医連事務局次長)

1962年設立の神経学・脳神経外科研究所

1962年設立の神経学・脳神経外科研究所

6月に行われた「全日本民医連第8次キューバ訪問視察」。
アメリカの経済的圧力を受けながら
独自の医療制度を展開するキューバに、
日本は何を学ぶべきか。

 全日本民医連キューバ訪問視察の第1回は、キューバ革命から半世紀が経過した2009年。当時、映画「シッコ」(マイケル・ムーア監督)や『世界がキューバ医療を手本にするわけ』(吉田太郎著、築地書館)などで注目を集めていたキューバ医療に、「無差別・平等の医療と福祉」実現の糸口を求めた視察団派遣だった。コロナ禍の中断を乗り越え、今回が8回目の訪問となる。
 キューバの革命家の名前を冠したホセ・マルティ空港に降り立つと、雨季とは思えない強い日差し。首都ハバナには古い建物が立ち並び、クラシックカーや超満員の旧型バスが行き交う。
 在日キューバ大使の言葉を思い出した。「トランプ大統領が返り咲き、アメリカの経済封鎖がさらに酷くなった。その窮状に驚くでしょうが、覚悟して行ってください。ぜひ連帯してほしい」。

全住民の健康管理

 キューバ医療の特徴は
①病院、診療所、薬局、歯科、老人の家などの地域医療
②急性期・先進医療、製薬、ワクチンなどの専門医療
③研究施設
 以上の3層構造を、国が統合し運用していること。
 視察したファハルド国立大学病院は、241床、31診療科。医師数は231人で、海外からの169人を含む医学生269人が学んでいる。キューバ唯一のトランスジェンダーの外科手術を行う病院で、国際的な発信もしている。
 印象的なのは、大型診療所「ポリクリニコ」と、地域に密着した小規模診療所「コンサルトリオ」による「全住民の健康管理」が徹底されていること。ここにキューバ医療の精神が詰まっている。
 訪問したポリクリニコでは医師104人、看護師76人を含む336人のスタッフが、地域の約3万人の住民を担当。29のコンサルトリオから毎日情報が届き、診療は月曜日から金曜日まで。救急車で運ばれる患者には24時間対応していた。
 若手医師のラファ所長とベテランのディアス看護師から、コンサルトリオの話を聞く。2人体制で、平日の午前は健康相談、午後は住民宅を訪問しているという。半径300m以内の住民約1500人、716家族を担当しているが、これといった医療機器もなければ電子カルテもない。本当に管理できるのだろうかと思ったが、手書きのカルテにはびっしりと情報が記載されていた。ワクチンの案内が遅れると、住民が問い合わせに来ると言う。
 「住民は1961年に始まったこの保健システムを信頼している」。そう語る2人の言葉には、明るい説得力があった。

世界一の医師数

 キューバの平均寿命は78歳。10万人あたりの医師数は世界一の842人(半数以上は女性)で、日本(246人)の3倍以上である。
ワクチン11種で13疾病を予防、うち8種は国産ワクチンだ。医師ら医療従事者60万人が世界165カ国で活動し、治療を受けた人は20億人にのぼる。
 新型コロナが世界中に広がり始めた2020年3月、ヨーロッパの感染源となっていたイタリアのロンバルディアから支援要請が届くと、3日後には52人のキューバ医師団がイタリアに到着した。
 アメリカによる経済封鎖により培養液も薬品の情報も得られないなか、新型コロナワクチンを5種類開発。世界的感染が落ち着いた23年末までに、キューバが世界に派遣した医師団は42カ国、5千人以上、その多くは無償支援であった。

圧力に屈せず

 キューバ革命の起こりは、(偶然にも全日本民医連が結成された)1953年。25歳の青年弁護士フィデル・カストロらが蜂起し、59年にバチスタ独裁政権を倒した。以来、アメリカの不当な経済封鎖にも負けず、キューバ憲法の理念である「すべての人間の平等の実現」をめざした国づくりに一貫して取り組んでいる。
 医療と教育を国の骨格と位置付け、国民に無料で提供。国民もそれを支持している。2019年には、ジェンダー平等など社会の進歩に合わせた憲法改正を全国民的議論のうえで行った。
 マイアミまでわずか145㎞のキューバは、経済封鎖にも負けず民族自決を貫く。ワシントンまで1万㎞以上離れた日本が、属国的振る舞いをしているのとは大違いだ。「貧すれば鈍する」とならず、国民をケアし、平和と対話のメッセージを発し続けるキューバの姿勢に、日本は学ぶべきだろう。

いつでも元気 2025.10 No.407