青の森 緑の海

2025年7月、沖縄県本部町
憧れの生きものというのか、子どもの頃から勝手に「見られない」と決めつけていた生物が何種類かいた。ホッキョクグマ、クジラ、ジュゴン。アマミノクロウサギやヤンバルクイナもそうだ。
だが生きものの世界に身を置いているうちに、いつの間にか彼らは身近な存在になっていた。10歳の頃、夢でクジラと泳ぐことはあったが、本当に実現するとは思ってもみなかった。この仕事をできて幸せだと思う。
写真は水族館の人気者、チンアナゴ。砂から身を乗り出し、流れてくるプランクトンを食べる姿が大好きで、何度水槽ごしに見つめたことだろう。でもどこか遠い存在で、不勉強な僕はまさか近くの海にいるとは考えもしなかった。この写真は地元沖縄の海で、ガイドの案内なしに見つけた。「チンアナゴは実在した!」と、いたく感動したものだ。
チンアナゴは人間や大きな魚が近づくと、スーッと砂中の穴に隠れる。水族館では目の前で観察できるが、海ではそうはいかない。だいたい5mほど近づくと体が半分になり、3mではもう頭だけ出している状態になる。なかなか撮影が難しい相手であった。
自然を知ることの良さのひとつが、せわしい日常とは別次元で流れる世界を感じられること。悩んでいる時、辛い時、チンアナゴが今この時も、海底でゆらゆらと揺れている光景を思い浮かべてみてはどうだろう。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学生の時、顔見知りのホームレス男性が同世代の少年に殺害されたことから 「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。写真集に『神人の祝う森』『SEDI/ セヂ』など。
いつでも元気 2025.11 No.408
