スラヴ放浪記 盗まれた愛車 欧州自転車事情
文・写真 丸山美和(ルポライター、クラクフ在住。ポーランド国立ヤギェロン大学講師)

オフロードバイクと筆者
石畳を力強く疾走したが盗まれてしまった
欧州は自転車の移動が活発だ。全域を結ぶ自転車道路「ユーロヴェロ」は9万㎞に達する。代表的な国はオランダとデンマークで、両国とも平坦な地形のため通勤や通学には自動車より自転車が多い。専用の信号機や標識もあり、国内隅々まで自転車道が整備されている。
筆者が生活するポーランドも自転車の利用が多い。スロバキアやチェコと接する南部の山岳地帯を除けばほぼ平坦なので、自転車の移動に適している。
特に北部の都市、グダニスクはスマホで簡単に利用できる電動シェアサイクルが普及。今年6月には世界最大の自転車国際会議「Velo―city」(ヴェロ・シティ)が開催され、自転車を活用した街づくりや持続可能な都市開発、交通政策について議論した。
筆者が暮らすクラクフは欧州屈指の観光都市で、トラム(路面電車)やバスなど公共交通機関が充実。代わりに自動車の侵入や駐車が制限されている。普段は自転車を使い、雨天時は徒歩かトラムで移動している。
7年前にクラクフでの生活を始めた際、まず探したのは自転車店だった。ポーランドで流通する自転車のタイプは、日本のシティサイクルとは異なり、いたって頑丈なつくり。欧州の旧市街地の道路は歴史のある石畳が多いため、日本のホームセンターで売っているような自転車はすぐに壊れてしまうのだろう。
頑丈な自転車の値段は高く、新車は最低でも4万円以上。初めて行った自転車店で、「いいな」と思った自転車の値段をチラ見したら、日本円で10万円だった
「これはとても無理だ」と思い、中古の自転車店へ。店主によれば、隣国ドイツから仕入れているとのこと。悩んだ末、ドイツ製の中古自転車を約1万円で買った。
2年ほどその自転車を使ったが、乗り心地が悪かった。再び自転車店を回り、バーゲン品のオフロードバイクを約8万円で購入。太いタイヤがクラクフの石畳を力強く疾走し快適だった。
ところが、オフロードバイクを買って2年ほど経ったある日、アパート前の自転車置き場から何者かに盗まれてしまった。鍵は頑丈で重い鉄製だったが、それもなくなっていた。
昔、筆者が東京の大学生だった時も自転車が盗まれた。交番へ盗難届を出し、数週間後に数㎞離れた場所で見つかった。クラクフで同じ奇跡が起きるとは思わなかったが、万に一つの可能性を求めて警察署へ盗難届を出すことにした。
地元警察署で筆者の誕生日や国籍、盗まれた自転車のメーカーや色、価格、盗難を確認した日付や所在地などを説明したのち、自転車の画像提供を求められた。調書ができると署員は印刷し、筆者に「間違いがないか、確認してください」と言った。調書の最後に署名し手続きが終わった。
ポーランドの盗難届作成の流れは、日本とほとんど違いがないように感じた。グローバルスタンダード(世界基準)が存在しているのかもしれない。警察署を去る際、「見つかる可能性は」と尋ねたら、「半々、ケースバイケースですね。高価な自転車は組織的犯罪が多く、盗難後すぐに売り飛ばされてしまう」と話していた。
約1か月後、警察署から捜査結果を知らせる封書が。「発見には至りませんでしたので捜査を終了します」とのことだった。警察の対応は終始丁寧な印象を受けた。
新たな自転車を購入しなければならなくなった。市民同士が不要な所持品を販売・購入するSNSのグループを知人に教えてもらい、ほぼ新品同様のイタリア製自転車を格安で譲ってもらうことに成功。その自転車は現在も活躍中である。
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