けんこう教室 胃がんの内視鏡治療
日本人の死因のトップである〝がん〟。
その中でも、胃がんに罹患する人は年間で11万人以上と言われています。
胃がんの治療方法や早期発見、原因について、
大阪国際がんセンター・消化管内科の上堂文也医師にご寄稿いただきました。
胃がんとは

大阪国際がんセンター・消化管内科
日本消化器内視鏡学会専門医
上堂 文也
胃は食べ物をいれる袋状の構造をしています。外側は胃を動かす筋肉の層(固有筋層)でおおわれ、内側には粘膜が張られています。固有筋層と粘膜の間には、粘膜下層と言うゼリー状の軟らかい組織がはさみこまれています。がんは、いちばん内側の粘膜から発生します(資料1)。
粘膜を構成する細胞には寿命があるため、寿命がきて表面からはがれ落ちていく細胞は、常に新しく増殖した細胞によって置き換えられます。正常な組織では、一定の量の細胞が決められた役割を果たして働くよう制御されています。しかし、がんはこの正常な秩序から外れて役割を果たさずにただ過剰に増殖し、出血や狭窄をきたし体に悪影響を与えます。
また、がんは表面に増殖するだけでなく本来の粘膜よりも外側の粘膜下層や固有筋層にまで入り込み(浸潤)、もとの臓器から離れたところに飛び(転移)、さらにそこで過剰に増殖して正常な組織の働きを妨げることで身体に害を及ぼします。

早期胃がんの内視鏡治療
胃がんが粘膜下層や固有筋層まで入り込むと、胃の周りのリンパ節にがんが転移している可能性があります。そのため、がんを完全に取り除く(根治する)には胃を切除して、周りのリンパ節も切除する必要があります。
がんが粘膜にとどまっている間はリンパ節や周りの臓器に転移していないため、がんを含む粘膜の部分をきれいに取りきることで、がんを根治できます(資料2)。
昔はこのような粘膜がんであっても、がんを取り除くには胃を切除する外科的手術しかありませんでした。しかし、胃を切除すると胃が小さくなって食事が十分にとれなくなり、体重が減って体力が低下するという問題がありました。
2000年ごろになると、粘膜がんを内視鏡を用いて周囲の粘膜・粘膜下層とともに完全に切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が開発されました(資料3)。現在、この方法は全国で広く行われるようになり、2016年以降は日本全国の胃がんの治療のうち、ESDの件数は外科手術数よりも多くなっています。


胃粘膜がんを発見するには
内視鏡で治療できる粘膜がんは、それだけでは症状がありません。多くの患者さんは健康診断や、がんとは関係のない胃痛や胃もたれ、胸やけなどの症状をもとに検査を受けて発見されています。
胃がんの発見はバリウムでのレントゲン検査や内視鏡検査でできますが、診断の精度は内視鏡検査の方が優れているとされています。現在の胃がん検診では、50歳以上の方に2年ごとの内視鏡での検診が勧められています。
胃がんの原因は?
胃がんの最も大きな原因はピロリ菌の感染です。ピロリ菌は井戸水や土から感染するとも言われていますが、衛生環境の整った国では家族内での感染が主な経路と考えられています。家族にピロリ菌感染がある場合は、一度ご自身でも調べてみるといいかもしれません。
検査は血液や便の検査のほか、尿素呼気試験という息を調べる方法で行うことができます。ピロリ菌の家族間での感染は、離乳食を口移しで赤ちゃんに与える一昔前の習慣などによるもので、普通に生活をしているだけでは家族間で感染することはありません。
また、ピロリ菌に感染しているだけでは、胃がんの発生リスクはあまり高くありません。ピロリ菌に感染している人のなかで胃粘膜に萎縮性胃炎という変化が起こった場合、特に胃がんが発生しやすいことが分かっています。
そのため、胃粘膜の変化があると言われた人は積極的な内視鏡による検診が勧められています。萎縮性胃炎のある人はピロリ菌の除菌治療の対象で、抗生物質を1週間服用します。
除菌治療を受けることで胃がんのリスクが約半分になると言われています。しかし、ピロリ菌が除菌されてもがんができやすい粘膜変化は残りますので、胃がんのリスクはゼロにはなりません(資料4)。
萎縮性胃炎のある人は、除菌後も引き続き内視鏡での検診が勧められています。

進歩する内視鏡治療
以前は内視鏡で切除できる胃がんは小さな病変に限られていました。最近では非常に大きな病変や潰瘍を伴うものでも、いくつかの条件(適応基準)を満たす場合には内視鏡治療で根治が可能なことが分かっています。見つかった胃がんに対して内視鏡治療が可能かどうかは、専門機関で診てもらうことをお勧めします。
最近では粘膜からできる胃がんだけでなく、固有筋層から発生する粘膜下腫瘍という病変も内視鏡治療ができるようになってきています。
いつでも元気 2025.11 No.408
