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いつでも元気

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まちのチカラ 神奈川県湯河原町 万葉のこころと湯けむりのまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

湯河原の夜をやさしく包む万葉の竹あかり

湯河原の夜をやさしく包む万葉の竹あかり

神奈川県の西南端に位置する湯河原町。
万葉集に詠まれた関東随一の古湯では、
小さな盆栽づくりや
柑橘香る地ビール、湯かけまつりも。
やすらぎの温泉場を訪ねました。

 東京駅から東海道線で約1時間半。湯河原駅からバスに揺られて温泉街へ向かうと、藤木川沿いに湯けむりが立ちのぼり老舗旅館や土産物店が軒を連ねます。
 湯河原のまち歩きを楽しむなら、湯探歩がおすすめ。湯探歩は偶数月の第1土、日曜日に行われ、まち歩きや老舗旅館の内覧・入浴など多彩な企画が魅力です。
 最初に立ち寄ったのは万葉公園です。滝や木橋、せせらぎに沿った遊歩道が続き、自然の美しさを描いた一枚の絵の中を歩いているよう。公園入口付近で買った「湯河原温泉まんじゅう」でひと休み。蒸したての甘い香りと、湯けむりの混じる空気に心までほぐれていきます。
 レトロな旅館街では、有形文化財の老舗旅館を見学。格子戸や欄間細工、磨き上げられた廊下に、明治・大正期に栄えた温泉場文化を感じます。この日は「藤田屋」と300年以上の歴史がある「源泉上野屋」を見学し、続いて待ちに待った温泉へ。散策で疲れた足を湯に沈めると、心地よい開放感が広がります。
 「歩いた後だから、温泉がいっそう沁みるでしょ」と源泉上野屋の若女将、室伏和子さん。その素敵な笑顔に心も癒やされました。
 取材した10月に、万葉公園でライトアップイベント万葉の竹あかり(温泉場商店会主催)も開催されていました。夕暮れとともに園内のあちこちに無数の竹灯籠が灯され、緑に囲まれた小径がやわらかな光に包まれます。
 竹をくり抜いた模様からこぼれる光は、まるで星が地上に降りてきたかのよう。川のせせらぎが響く中、ゆったりと歩いていると自然と心が静まり日常の喧騒を忘れさせてくれます。

小さな盆栽と癒やしの時間

 植物を通して、大人が心をリセットできる豊かな時間を提供しているのが万葉子ぼんさいです。子ぼんさいとは、手のひらに乗る小さな盆栽のこと。日本の伝統文化である盆栽をもっと身近に、そして家族の一員のように育ててほしいという思いから生まれました。
 両親の移住をきっかけに湯河原町に通うようになった五島かりやさんが、3年前に樹翠菴をオープン。万葉子ぼんさいの体験ワークショップを定期的に開いています。体験会では妹の内田ひかるさんが講師を務め、初心者にも扱いやすい盆栽づくりを丁寧に教えてくれます。
 この日は観光に訪れた家族が体験に参加。個性豊かな作品を見せ合い、写真を撮りながら感想を交わす姿が楽しそうです。「子ぼんさいは子どもやペットのように手をかけ、愛情を注げば応えてくれます」と五島さん。完成した盆栽は持ち帰ることができ、自宅で育てながら、湯河原で過ごしたひとときを思い出すことができます。

湘南ゴールドエール
湯×ビール

 海と山に抱かれたこの地は、古くから柑橘栽培が盛ん。みかん農家が「みかんで町を盛り上げたい」と立ち上げたのが、一般社団法人湯河原みかん俱楽部です。手がけたのは、地元産の高級柑橘「湘南ゴールド」を使ったクラフトビール「果実香る 湘南ゴールドエール」。
 幻の柑橘とも呼ばれる湘南ゴールドは、爽やかな香りと上品な甘みで知られる「かながわブランド」の品種。皮が薄く香りが飛びやすいため加工が難しく、ビール造りでも香りを引き出すのに苦労したそうです。試行錯誤の末、醸造過程の後半でビールに果汁を再び加える「追い果汁製法」に辿り着きました。
 広報の杉本優さんが手渡してくれたボトルのキャップを開けると、ふわりと爽やかな香りが立ちのぼりました。グラスに注げば、透明感のある淡い黄金色がきらめきます。「いつか『湯河原で乾杯といえば湘南ゴールドエール』と言われるような存在にしたいんです」と杉本さん。湯河原ならではの「湯×ビール」の組み合わせを、ぜひ味わってください。

熱気と湯気湯かけまつり

 初夏の夜、温泉街が湯けむりと歓声に包まれます。5月の第4土曜日に行われる湯かけまつりは、湯河原温泉に感謝を捧げる豪快なお祭りです。
 鎌倉時代に武将たちがこの湯で傷を癒やし、江戸時代には万病に効く名湯として知られました。当時、温泉の湯を樽に詰めて御用邸や大名屋敷に献上し、その際に道中の安全を祈願して「湯」をかける儀式が行われていたといいます。湯かけまつりは、その伝統を現代に蘇らせたものです。
 夜7時半、町立湯河原美術館前を出発した3基の神輿が、万葉公園入口広場を経て泉公園まで約1㎞を練り歩きます。「湯量がすごい。お肌がツルツルになるくらい体感してもらえます」と語るのは、観光協会企画主任の富岡毅さん。「町をあげて気合いを入れて準備していますので、ぜひ楽しんでほしい」と話します。
 会場には、2m×3mのビニールプールを使った「湯かけ放題コーナー」や、散水車から集中的にお湯を浴びられる「お湯かぶりエリア」も登場。
 湯のぬくもりに包まれた湯河原町。心と身体をゆっくりと解きほぐす、やすらぎの旅にお出かけください。

■次回は佐賀県有田町です。

まちのデータ

人口
2万1733人(9月1日現在)
おすすめの特産品
湘南ゴールド、みかん
湯河原温泉まんじゅう
アクセス
東京駅からJR特急で約80分
東京ICから車で約1時間40分
問い合わせ
湯河原温泉観光協会
0465–64–1234

いつでも元気 2025.12 No.409