けんこう教室 睡眠時無呼吸症候群 見過ごされがちな病
日中の眠気や居眠り、集中力が続かずいつもお疲れ…。
そのお悩み、「睡眠時無呼吸症候群」かもしれません。
くわみず病院(熊本市)の睡眠医療センター長、
福原明医師に解説してもらいます。
睡眠時無呼吸症候群とは?

熊本・くわみず病院副院長
睡眠医療センター長
福原 明
睡眠は脳と身体の疲労回復、成長ホルモンの分泌、免疫機能の増加、記憶の固定など、生命維持に不可欠な役割を担います。しかし質の悪い睡眠は、生活習慣病のリスクを上昇させ、死亡率の増加にも関与することが明らかになっています。
睡眠の質を大きく損なう代表的な疾患が、睡眠時無呼吸症候群(SAS)。10秒以上続く無呼吸または低呼吸が1時間に起こる回数を無呼吸低呼吸指数(AHI)と呼び、AHIが5以上で症状を伴う病態をSASと定義します。
① 社会生活におけるリスク
SASによる昼間の眠気や集中力の低下は、交通事故や産業事故の誘因となります。SAS患者が交通事故に遭う確率は、健常人と比較して約6〜7倍に高まると報告されています。過去には、居眠り運転による重大な運輸事故が発生し、国土交通省がSAS対策に乗り出す契機となりました。
② 健康リスク
夜間に眠りの浅い状態が頻繁に起こると、アドレナリンの増加で交感神経が緊張し身体はストレス状態になります。その結果、次のようなさまざまな生活習慣病の発症・悪化を招きます。
【高血圧症】 SASは高血圧の原因となり、難治性高血圧の方の82・9%がSASを合併しているというデータがあります。
【脳心血管の障害】 SASは血栓形成リスクを高め、脳血管障害の発症リスクは10・8倍に。重症SAS患者は心筋梗塞や脳出血などによる死亡率が上がります。
【糖代謝異常(糖尿病)】 断続的な低酸素状態や交感神経の緊張でインスリンの効き目が低下し、血糖値を上昇させます。
【精神・認知機能の障害】 AHIが15以上の場合、うつ病になる確率が2・6倍になります。また、繰り返す低酸素血症は記憶を司る脳の海馬の神経細胞を障害し、認知機能の低下につながります。
SASを疑う症状と診断
① 症状とセルフチェック
【夜間の主な症状】 習慣性いびき、睡眠中の窒息感やあえぎ呼吸、頻繁な覚醒、熟眠感の欠如、夜間頻尿など。
【日中の主な症状】 日中傾眠、倦怠感、集中力の欠如、頭痛。
日中の眠気の程度は、エプワース眠気尺度(ESS)(資料1)で自己評価できます。点数が11点以上の場合、病的な眠気がある可能性が考えられます。ただし、多忙や慢性的な睡眠不足により、眠気を自覚しないケースもあるため注意が必要です。
日中の眠気の有無にかかわらず、次の項目に該当する方は、SASのスクリーニング検査を受けることが推奨されます。
・BMI(肥満度の指標)が25以上である
・習慣的にいびきをかく
・扁桃肥大がある
② 診断のための専門検査
診断には専門的な検査が必要です。終夜睡眠ポリグラフ検査は確定診断のために行われ、脳波、呼吸、心拍数などを一晩かけて詳細に記録します。検査結果に基づき、AHIを用いて重症度が判定されます。
③ SASの原因:肥満と構造的な問題
成人のSASの約7割は肥満が原因(資料2)。肥満によって舌根や軟口蓋が沈下したり(資料3)、周囲に脂肪がつくことで気道が圧迫され閉塞が起こります。肥満でなくても、扁桃肥大、アデノイド肥大、下顎が小さいなどの構造的な問題が原因となることもあります。


女性と小児のSAS
① 女性のSAS
女性は男性と比べて症状がイレギュラーで、見過ごされやすい傾向があります。日中の眠気を訴える女性でも、男性と同じESS点数を示さないことも。主な訴えは、不眠、うつ、動悸、倦怠感など多岐にわたり、閉経後に有病率が急激に増加します。
② 小児のSAS
小児のSASは発達障害や学業成績不振を引き起こす可能性があり、早期発見が重要。小児では肥満よりも扁桃肥大やアデノイド肥大が主な原因となることが多いです。成人とは異なり、日中の眠気は乏しく、朝の頭痛や日中の倦怠感、集中力低下などが見られます。また、AHIが高いほど身長の伸びに負の相関が認められます。激しいいびきや呼吸停止がないか、夜尿症がないかなどを確認することが重要です。
SASの治療法
① 生活習慣の改善
肥満がある場合は減量が必要です。アルコールは上気道筋を弛緩させSASを悪化させるため、寝る前の禁酒も勧められます。
② CPAP療法
中等症から重症の治療において第1選択とされます。鼻マスクを介して一定陽圧の空気を送り込み、睡眠中の気道の閉塞を防ぎます(資料3)。CPAP療法により、AHIが劇的に改善し、低酸素状態が解消されることが確認されています。
③ 口腔内装具(マウスピース)
下顎を前方に移動させて気道を確保する歯科装具は、軽症患者に選択されます。
④ 外科的手術
扁桃肥大やアデノイド肥大など、解剖学的な問題が原因の場合に検討されます。特に小児SASでは、扁桃・アデノイドの切除が有効な治療法となることが多いです。

良い睡眠のための生活習慣
日中の眠気や疲労感を予防するために、日頃から「良い睡眠」を意識した生活習慣を実践することが重要です。
【睡眠時間】 成人の適正睡眠時間は6~8時間が目安ですが、個人差があります。日中に眠気で困らないことが最も大切です。
【体内時計の調整】 毎朝日光を浴びることで体内時計がリセットされ、規則正しいリズムが刻まれます。
【光に注意】 夜間に強い光(特にブルーライト)を浴びると、入眠が妨げられます。寝る2時間前からはデジタル機器の使用を控えましょう。
【食事と運動】 朝食を食べない、就寝直前の食事、深夜の間食、運動習慣がないことは熟眠感低下の要因。昼間から夕方の適度な運動は深い睡眠を促します。ただし、寝る直前の激しい運動は避けましょう。
睡眠の不調は専門家へ相談を
生活習慣を改善しても症状が続き、日中の生活に支障をきたす場合は、睡眠障害が潜んでいる可能性があります。日本睡眠学会の専門医や認定技師が在籍する施設では、SAS以外にも不眠症やナルコレプシーなど、さまざまな睡眠障害に対する適切な診断と治療を提供しています。睡眠の質が気になったら専門施設に相談して、ご自身の健康を守りましょう。
いつでも元気 2025.12 No.409
