まちのチカラ 佐賀県有田町 手のぬくもりと焼きものの里
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

JR有田駅近く、東の前橋にある有田焼のオブジェ
佐賀県西部に位置する有田町は
400年の伝統を誇る有田焼のふるさとです。
「トンバイ塀」に囲まれた町並みや
伝統を繋ぐ窯元、優しい味わいの「ごどうふ」、
棚田や竜門峡などを訪ねました。
博多駅から特急で約1時間半、JR佐世保線の有田駅に降り立ちました。駅舎の時計や手すりにさりげなく有田焼の装飾が施されており、早くも焼きものの里に来たことを実感します。
ひと駅隣の上有田駅近くにある皿山通りは両側に有田焼の窯元やギャラリー、直売店がひしめき合い、白と黒を基調とした風情漂う約700mの町並みです。ここが有田焼発祥の地。国は、この通りを含む内山地区を「重要伝統的建造物群保存地区」に選定しました。毎年ゴールデンウィークには日本最大級の陶器市である有田陶器市が開催され、全国から陶磁器を求めてやって来る約100万人のファンが通りを埋め尽くします。
中心部の小高い場所には陶山神社が鎮座し、有田焼の窯元や商人を守る神様として町の人々に親しまれています。境内には磁器製の大鳥居や狛犬、大水瓶などたくさんの見どころがあります。
裏通りに入ると、トンバイ塀という有田町を象徴する独特の景色が続いています。登り窯を築くために用いた耐火レンガ(トンバイ)の廃材や使い捨ての窯道具を、赤土で塗り固めて作った塀のことです。手触りを確かめると、不規則に焼き付いた釉薬が輝き、町の歴史が伝わってきます。今も陶工たちの手によって美しい器が生み出され続ける息づかいを感じながら、じっくりお気に入りの一品を探してみるのもいいでしょう。
有田焼 白磁のジュエリー
有田焼の歴史は約400年と言われています。16世紀末に豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に連れてきた陶工たちが磁器づくりの技術を伝え、日本初の磁器生産がこの地で始まりました。長らく日本産の磁器を生み出す唯一の場所として白磁の原料となる陶石を産出した泉山磁石場は、現在多くの観光客が訪れる奇観スポットです。
有田焼は、硬く透明感のある白い生地に、シンプルな藍色の染付や華やかな上絵付けが映えるのが特徴。そんな伝統の技術を受け継ぎながら、新しい表現に挑む作り手たちも増えてきました。
そのひとつが高麗庵清六窯。ろくろの名手と称された故・中村清六さんが開窯し、現在は長女のゑ美こさん、孫の清吾さん、清吾さんの妻・美穂さんが日々作陶に励んでいます。
「この白はどんな料理もおいしく盛り付けてくれますし、どんな肌にも馴染むんですよ」と明るく迎えてくれた美穂さんの耳には、白磁のピアスがきらりと光っていました。
若い世帯の工芸離れを感じていた美穂さんは、子育てに余裕が出てきた2019年に有田焼を現代のスタイルに合わせたジュエリーづくりをスタート。ジュエリーブランド「6・kiln」と「ROKUTO」を立ち上げました。伝統とモダンが調和したデザインのネックレスやブローチ、リングなどは、工芸の入り口として楽しく日常使いすることができます。その柔らかな発想が、有田焼の未来を照らしています。
ふるさとの味 ごどうふ
有田駅前に戻り歩いていると、「とうふのたかはし」の店にかかるごどうふと染め抜かれた青いのれんの下から明るい声が聞こえてきました。
ごどうふとは、豆乳に馬鈴薯デンプンを混ぜ、ゆっくりと加熱しながら、にがりを加えずに練り上げて固めたもの。早朝4時前から前田淳一さんが、ひとすくい3㎏もあるごどうふを持ち上げてじっくりと練り上げます。
出来立てのごどうふを一口いただくと、弾力のある噛みごたえが舌の上でとろりと溶け、不思議な食感。後にはほんのりとやさしい豆乳の甘みが広がります。擦りおろした生姜と濃厚な特製ゴマだれをかけたごどうふは滋味深い味わいです。
最近はきな粉と黒蜜をかけたりスイーツとしても人気が出ています。前田さんのお孫さんの紡生くんも、おやつに食べてタンパク質をしっかり取っています。「健康でないと明日の豆腐は作れないから、明るく1日でも長く店を続けていきたい」と、店頭に立つのは妻の久美子さんと娘の裕子さん。親子で息を合わせて店を支えています。このお二人の朗らかな笑顔に、また会いに来たくなります。
山里の棚田と竜門峡
町の中心から車で20分ほど。旧西有田町エリアまで足を伸ばすと、自然の美しさに心を奪われるような棚田と渓谷の風景が広がります。
北西部に位置する山谷地区や岳地区には棚田が多く見られ、傾斜した山肌に水田の曲線美が続きます。なかでも岳の棚田は、日本の棚田百選に選ばれた絶景スポット。稲刈りの終わる11月から3月末までは、棚田でキャンプができるそうです。
さらに南へ進み、竜門峡へ。竜門ダムの上流に位置する渓谷で、遊歩道が整備されており、四季折々の自然を感じながら黒髪山方面へのハイキングも楽しめます。大小の滝や自然のアーチ岩など、歩くたびに違った表情を見せてくれる景勝地です。三十三体の観音様が祀られた龍門洞や大蛇退治伝説などもあり、山岳信仰や歴史ロマンを感じます。
白磁の輝きの奥に、人の手と心のぬくもりが息づく有田町。冬の澄んだ空気のなかで、器と人と自然が織りなす風景に、そっと心を預けてみませんか。
■次回は愛媛県愛南町です。
まちのデータ
人口
1万8275人(2025年11月1日現在)
おすすめの特産品
有田焼、ごどうふ、佐賀牛、ありたどり
アクセス
博多駅から特急で約1時間半。車で長崎空港から波佐見有田ICまで約1時間。
問い合わせ
有田観光協会
0955–43–2121
いつでも元気 2026.1 No.410
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