けんこう教室 ギャンブル依存症
パチンコや競馬など、身近な娯楽“ギャンブル”。
しかし、その裏にはやめたくてもやめられず、
苦しむ人も少なくありません。
土庫病院(奈良)の塩尻祐哉医師が、
総合診療医の立場から解説します。

社会医療法人健生会土庫病院
総合診療科
塩尻 祐哉
ギャンブル依存症とは、医学的に「臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行為」と定義されています。
2023年度に厚生労働省が行った「ギャンブル障害及びギャンブル関連問題実態調査」では、回答者の1・7%にギャンブル依存症が疑われました。ギャンブルの種類はパチンコ、パチスロ、競馬の順で多く、近年ではオンラインギャンブルも話題に。ギャンブル行動に問題のある人は、オンラインギャンブルを利用する割合が高いことも分かっています。
カジノでのポーカーやテーブルゲームなども依存症のリスクが高いとされており、今後日本に導入が予定されているカジノについては慎重な判断が必要です。
ギャンブル依存症の症状
ギャンブル依存症では他の依存症と共通した症状が見られます(資料1)。
多くの依存症は、脳の「報酬系」と呼ばれる部位が関係しています。脳の中心部にある報酬系は、うれしいことや楽しいことが起きた時に働き、ドパミンという物質を分泌し快感を感じます。
ギャンブルでもドパミンが分泌されるため、同様の快感を得ることができます。ギャンブル依存症では、快感を得ようとギャンブルを繰り返すうちに刺激に慣れてしまい、次第に反応が鈍くなる報酬欠乏と呼ばれる状態になります。すると、さらに強い刺激で快感を得ようとギャンブル行動がエスカレートし、その過程でさまざまな症状が出現します。
認知の偏り
ギャンブル依存症の特徴として認知の偏り(資料2)があり、生まれつきの特性や幼少期の体験が影響しています。またギャンブル依存症はさまざまな病気を合併しやすく、ニコチン依存症、アルコール依存症、気分障害(うつ病など)、不安障害の順で合併が多いと報告されています。
このように、脳の機能的変化や生まれつきの特性、その他の精神科疾患を抱えている例も多く、経過が非常に複雑になりやすい病気です。
この状況をさらに複雑にするのは、本人の病識(自分がギャンブル障害であるという意識)が乏しい点です。ギャンブル依存症の治療を目的に自ら来院することがそもそも少ないため、気づいた時には依存症が深刻化しているケースがあります。
ギャンブル依存症の治療
ギャンブル依存症の治療では、認知行動療法がよく使われています。人の「考え方(認知)」と「行動」は深くつながっており、考え方のクセや思い込みが行動に影響を与えることがあります。認知行動療法ではこの関係に気づき、より現実的で前向きな考え方や行動に変えていくことを目指します。
例えば、「次こそ勝てるはず」「もう少しやれば取り返せる」という認知の偏りに気づき、「勝てる確率は低い」「続けると損が大きくなる」と現実的に考え直す練習をしていきます。
また、ギャンブルをしたくなる状況(ストレス、退屈、誘いなど)を一緒に整理し、代わりにできる行動(運動、趣味、誰かに相談するなど)を見つけていくことも大切なステップです。
つまり、認知の偏りを是正しギャンブルという行動から別の行動に切り替えていく、考え方と行動の両面から依存の悪循環を断ち切る練習をする治療法です。

総合診療医とは
ここで、総合診療医について説明します。現在、日本には日本専門医機構によって認定された19の基本領域(内科や外科、耳鼻咽喉科など)があります。総合診療科は基本領域の一つとして、2018年に新設されたばかりです。最も新しい基本領域のため、知らない人も多いのではないでしょうか?
総合診療医は、いわゆる町医者としての役割を担うだけでなく、大学病院など大きな病院のどこの科でも診断がつかなかった病気を見つける「診断のスペシャリスト」として活躍することもあります。その役割を表す5つの理念ACCCAを紹介します。
① Accessibility(近接性)
地理的、経済的、精神的にかかりやすい
② Comprehensiveness(包括性)
予防から治療、小児から老人まで
③ Coordination(協調性)
専門医との連携、住民との協調
④ Continuity(継続性)
ゆりかごから墓場まで
⑤ Accountability(責任性)
十分な説明、医療内容の向上
総合診療医の役割
前述したように、ギャンブル依存症の治療を目的に来院する方は少なく、併存疾患を治療するための他科受診で偶然に見つかる場合が多いです。その後の継続的な治療や支援を総合診療医が担うことがあります。
ニコチン依存症やアルコール依存症を併存している場合は、呼吸器や循環器、消化器、肝胆膵などに疾患を抱える方も少なくなく、そういった方にこそ総合診療医の出番となるわけです。併存疾患がない場合でも、健康診断や健康相談の際に生活背景にまで目を向けることで、ギャンブル依存症をはじめとした問題にいち早く気づくことができます。
ギャンブル依存症の治療は簡単ではありません。その理由は、有効性が確認された薬物治療がなく、認知行動療法をはじめとした心理社会的治療が必要となる点が一つ。
もう一つは、病識が乏しいことや脳の構造的な変化を伴う場合があり、生まれつきの特性も関連しているため、家族や周囲の人々の協力が不可欠である点です。
こうした心理的・社会的な背景をふまえ、家族も含めて包括的に診察できる総合診療医が大きな役割を果たします。
ギャンブル依存症は治る
ギャンブル依存症に困っている方や、家族がギャンブル依存症ではないかと不安を感じている方はいませんか。
周りに相談することは、なかなか難しいかと思います。「相談する場所がない」「相談ができると思っていなかった」など、さまざまな要因があるからです。
知っていただきたいのは、「ギャンブル依存症は治る」ということです。その道のりは長く険しいかもしれませんが、一人で抱え込まず、まずは近くの総合診療医やかかりつけ医に相談してみてください。一人でも多くの人が救われることを期待しています。
いつでも元気 2026.1 No.410
