スラヴ放浪記 深刻な難民の現状 ウクライナ侵攻から4年
文・写真 丸山美和(ルポライター、クラクフ在住。ポーランド国立ヤギェロン大学講師)
昨年11月、ウクライナの首都キーウの団地にドローンが激突、数人の命が奪われた。団地はスヴェトラーナの自宅の隣にある(スヴェトラーナ撮影)
2022年2月24日に、ロシアがウクライナへ全面侵攻を開始してから4年。ウクライナの市民は常に不安と緊張を強いられ、耐えがたい苦境の中にある。ミサイルやドローンによる爆撃は激しさを増しており、自宅やふるさと、家族を失った人々が増え続けている。
ウクライナ国内から脱出した難民が、最も多く身を寄せるのは隣国ポーランド。その数は150〜200万人と推定される。筆者が住むクラクフの中心部に近いデンブニキという地区には、難民の生活を支援する慈善団体がある。団体の事務所前には時々、数十人の難民が自主的に集まる。ほぼ全員が年金受給者だ。
「この人たちは、食べ物や防寒具などをもらいに来ています」と慈善団体のスタッフ。「示し合わせたように集合し、黙ったまま事務所のほうを見つめている」。
ウクライナ本国で支給される年金は、日本円に換算して月額約9400円。長引く戦争の影響でウクライナもポーランドも物価の高騰が続くが、受給額が見直されることはない。
昨年6月、難民をさらなる苦難が襲った。 ポーランド大統領選挙で極右政党PiS(法と正義)のナヴロツキ氏が当選したのだ。選挙期間中、同氏は絶えずウクライナを攻撃し、国民の中に潜む反ウクライナ感情を刺激した。ナヴロツキ大統領就任後、就労していない難民世帯を児童手当の支給対象から除外する法案が成立した。
ポーランドでは、一般市民のウクライナ人に対する態度があからさまに変わった。街角ではヘイトデモが公然と行われ、難民を襲撃して逮捕される事件も。多くのウクライナ人が、戦火の絶えない祖国へ帰還することを検討している。
また100万人以上のウクライナ難民を受け入れるドイツも、昨年4月以降に入国した人に対し、市民手当(生活保護にあたる)を停止する方針を固めた。
同意なしに戦場送り
ウクライナ国内では戦時特有の問題が起きている。ウクライナには「TCK」という徴兵担当の組織がある。SNSではTCKが路上でいきなり男性を取り囲み、むりやり車に押し込んで連れ去る様子を撮影した動画がしばしばアップされる。
TCKに連れ去られようとする男性が「誰か助けて」と叫び声をあげると周囲の市民が止めに入り、家族が「連れていかないで!」と警察に助けを求める。しかし警察は連れ去りを阻止するどころか、TCKの任務を手伝う。
原因は慢性的な兵員不足にある。ロシアの侵攻が始まった直後は、多くの一般男性が志願兵となり前線へ向かった。現在、志願兵の大半は既に戦死したか、戦場で腕や足などを失っている。TCKは戦力補強を目的に、人権を完全に無視した動員業務を行っており、市民の間では「ウクライナのゲシュタポ」とも呼ばれている。
子どもたちは希望そのもの
ウクライナの首都キーウをはじめ、都市部ではロシアによるインフラ攻撃のために一日の約半分が停電している。昨冬、市中心部にある芸術大学の教室を訪れたら、学生たちが熱心に創作活動に取り組んでいた。電気がないので教室は暗い。暖房もなく、分厚い上着を着込んでいた。
「戦争に関係なく、子どもたちはノンストップで成長を続けている」と話すのは、大学教員で筆者の親友のスヴェトラーナ。2年前までクラクフで難民として生活していたが祖国に戻った。
スヴェトラーナの自宅周辺は毎晩、ミサイル攻撃が絶えない。しかし朝が来て大学へ行くと学生がいる。学生も夜間は爆撃から避難するため、ほとんど寝ていない。それでも大学へ来て学ぼうとする姿に、スヴェトラーナは言う。「子どもたちの存在は、私たちにとって希望そのもの。一日も早く戦争が終わり、平和で何の心配もない生活を過ごさせてあげたい」。
※ TCK(Territorial Center of Recruitment and Social Support)地域募兵・社会支援センター
いつでも元気 2026.2 No.411
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