まちのチカラ 愛媛県愛南町 潮薫る南予 海と暮らす人々
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

愛媛県の最南端に位置する愛南町。
絶景が広がる高茂岬、石垣に守られた独特の集落、鮮度抜群のカツオ、
そして海底からよみがえった戦闘機—。
ここにしかない自然と歴史が静かに息づく、
愛媛県最南端の町を訪ねました。
松山空港から南に車を走らせること約2時間。高知県との県境にある愛南町に到着しました。黒潮おどる太平洋や豊後水道に位置する足摺宇和海国立公園に面し、町全体が海の香りとやわらかな潮風に包まれています。
最初に向かったのは、町の南端に突き出したようにたたずむ高茂岬。車を降りると、海からの強風にのって花の甘い香りが吹き抜けました。岬全体に白や黄色、紫色の野路菊が咲いています。絶えず風が岬の草花を揺らし、波が下から響くように大自然の音を立てています。目の前には100mを超える断崖絶壁、見渡す限りの青い水平線が広がります。ここに立つと、まるで最果ての地に来たような、不思議な開放感に包まれます。
独特の家並み 石垣の里
高茂岬から町中心部へ戻る途中、入江に面した急斜面に石垣の里と呼ばれる独特の家並みが広がります。外泊地区の民家は台風や季節風から家や暮らしを守るため、高い石垣が整然と積み上げられています。
その独特の景観から「日本の美しいむら農林水産大臣賞」や「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産百選」などに選ばれ、日本を代表する石垣文化の景観地となっています。
案内をしてくれたのは、東京から4年前に移住し、現在は一般社団法人「Umidas」で働く関根麻里さん。「地元の人には当たり前の景色や生活が、外から見たらとても魅力的で価値があるということを知ってもらいたい」と、町の海産業を教育や観光の観点から体験してもらう取り組みを始めています。
民家の間を縫うように続く細い路地を歩くと、住民の手によって代々築かれた石垣の迫力に圧倒されます。家の中からでも海や港の様子がわかるように、台所の窓にあたる石垣には「遠見の窓」と呼ばれる小さな窪みが作られています。夫が海から帰ってくると、妻が魚を受け取りに行き、新鮮な魚が食卓に並ぶ。そんな光景を想像するだけで胸が高鳴りました。
新鮮 究極のカツオ
真鯛、ブリ、カキなど漁業が盛んな愛南町ですが、町の魚に指定されているのはカツオです。県内唯一の水揚げで、年間水揚げ取扱量は高知県を上回り四国最大です。
カツオの町ならではの味を求めて向かったのが、愛南漁協深浦本所の敷地内にある市場食堂。お目当ては愛南町でしか味わえない愛南日戻りびやカツオです。〝びや〟とは地元の言葉で新鮮を意味します。通常のカツオ漁は数日間の操業後に水揚げしますが、愛南町では出港したその日に帰港する日戻りのカツオが水揚げされるのです。
市場食堂では、運がよければ日戻りびやカツオの刺身定食に出会えます。刺身が運ばれてきた瞬間、赤身がほんのり輝いて、みずみずしさが一目でわかりました。箸でつまむだけで身の張りが感じられ、一口頬張ると脂のしつこさがありません。
もっちりとした食感とともに「これがカツオなのか?」と驚くほどの鮮度。南予地方(愛媛県南部)ならではの甘めの醤油と相性抜群です。市場食堂は漁業者が日常的に利用する食堂でもあり、ボリュームたっぷりで価格も手頃。満足感の高い定食として人気なのも納得です。
日本に唯一現存 紫電改
旅の締めくくりに訪れたのは、旧海軍戦闘機紫電改の展示館。紫電改は第二次世界大戦末期に開発された戦闘機で、愛南町沖の海底で偶然ダイバーが発見し、1979年に引き上げられました。
「日本人の共有財産。ご遺族や関係者の方から、様々な思いを聞くこともあるんですよ」と案内してくれたのは、展示館の永元一広館長。海に胴体着陸した際の衝撃で折れ曲がったままのプロペラが、当時の緊迫した瞬間を物語っています。
終戦3週間前の7月24日。長崎県の大村基地から飛び立った紫電改は豊後水道で米軍と交戦し、20歳前後の青年6人が搭乗した6機が帰還しませんでした。
展示されている紫電改は、未帰還の機体のひとつ。搭乗員の記録や資料に目を通していると、命の尊さに向き合う大切さを改めて感じます。
紫電改展示館は建物の老朽化により隣接地に建て替え工事が進められ、来年度のリニューアルオープンを目指しています。原型を保ったままの機体の移動には多額の費用がかかるため、県はクラウドファンディングを実施。目標の倍以上の8000万円の寄付が3000人から集まりました。
町には四国八十八カ所の第四十番札所である観自在寺があり、お遍路さんが全国から訪れます。第一番札所から最も離れているので、「四国霊場の裏関所」とも呼ばれています。
紺碧の海と胸に刻まれる風景が広がる愛南町。どれもここにしかないものに巡り逢えます。
■次回は島根県奥出雲町です。
まちのデータ
人口
1万8123人(2025年12月1日現在)
おすすめの特産品
カツオ、真鯛、ブリ、カキ、愛南ゴールド(柑橘)
アクセス
松山空港から車で約2時間
問い合わせ
愛南町商工観光課
0895-72-7315
いつでも元気 2026.2 No.411
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