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いつでも元気

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いのちの水が危ない 熊本

文・八田 大輔(編集部) 

2024年に台湾の半導体企業TSMCが進出した熊本県菊陽町。
地域の宝とも言える地下水がいま、ある危機にさらされています。

 「世界に誇る地下水都市」を掲げる熊本市は、市民約74万人の水道水を100%地下水でまかなっています。人口50万人以上の都市では日本で唯一、世界でも希少な都市です。さらに熊本地域11市町村(地図)約100万人の水道水も、ほぼ全てが地下水。豊富な貯水量の秘密は、阿蘇山の大噴火と戦国武将・加藤清正にあります。
 熊本地域には、地下水の受け皿となる基盤岩の上に火砕流が堆積。大小さまざまな岩石が積み重なったためすきまが多く、、雨が浸透しやすい地質です。その土地に加藤清正が大規模な水田開発を行ったのが約430年前。通常の5~10倍も水が浸透するため「ざる田」と呼ばれました。
 同地域には年間約20億4千万㎥の雨が降り、そのうち3分の2は大気中に蒸発したり、河川を経て有明海に注がれます。残りの3分の1、約6億4千万㎥もの水が、地下水として蓄えられるのです。
 地域住民の生活といのちを支える地下水。その水資源を目当てに、台湾の世界的な半導体企業TSMCが菊陽町に進出しました。

町ひとつ分の水を使用

松岡 徹さん

松岡 徹さん

 「この地域の地下水はいま、『枯渇』と『汚染』の2つの問題に直面している」と語るのは、くまもと地下水政策研究会の松岡徹さん。元熊本県議で、長年にわたって地下水の問題を見つめてきました。
 「2024年12月にJASM(TSMCの子会社)の第1工場が操業を開始しました。半導体の製造には大量の水を要するため、現在建設中の第2工場が稼働すれば、合わせて年間803万トンの地下水を取水する。これは、人口4万4千人の菊陽町の1年分の取水量とほぼ同じです」。
 さらに、約80社の関連企業が工場周辺に進出し、取水量は大幅に増加。道路拡張と宅地開発の影響もあり、水を地下に取り込む水田は急速に減少しています。
 「JASMは水の再利用率75%を目指すと言いますが、あまりにも低すぎる。100%の再利用を求め、実行させたい」と松岡さん。
 住民が不安視する地下水の枯渇。そして、もう一つの問題がPFAS(別項参照)汚染です。

水俣病との共通点

 熊本地域の水は「蛇口をひねればミネラルウォーター」と称されるほどのおいしい水。しかし、その「いのちの水」が汚染の危機にさらされています。
 昨年3月、熊本市を流れる川でPFBSとPFBA(いずれもPFASの一種)の濃度増加が確認されたと、熊本県が報告しました。この2つは日本では規制されていませんが、アメリカや欧州では規制対象物質。今回検出された濃度はドイツの規制範囲を超えるものでした。
 この2物質はJASM第1工場で使用されていましたが、県は「工場との因果関係はわからない」と曖昧な回答。しかし、その後の記者会見でJASM社長が「排水に微量含まれる」ことを認めました。大企業への忖度を疑わざるを得ません。
 元民医連職員で「地下水と農業と環境を守る住民の会」(以下、守る会)事務局の近藤敬一郎さんは、「いまの状況は水俣病と共通する点が多い」と指摘。
 「有機水銀と有機フッ素化合物、チッソとTSMC、そしてどちらの企業も国策に大きく関わっている。水俣病を経験した熊本で、あの過ちをくり返してはならない」と強調します。
 大企業におもねった結果、被害の拡大を招いた水俣病。健康への影響が懸念されるPFASについても、予防原則に基づいた規制が必要です。

「いのちの水」を守る

 「子や孫に安心安全の宝の水を残したい」と、守る会は学習会や県知事への要請、署名行動を開始。会の共同代表には、熊本民医連芳和会の積豪英理事長が名を連ねます。
 毎週金曜日には菊陽町の交差点でスタンディング宣伝。取材当日も小雨がちらつくなか、守る会のメンバーや民医連の菊陽病院(菊陽町)職員が地下水問題を訴えました。
 スタンディングに参加したメンバーの深田秀美さんは、「最近町に引っ越してきた小さな子が『ここの水道水はそのまま飲めるんだよね!』って言うんです。ミネラルウォーターを買ったり浄水器を使わなくても良い、安全な水を守りたい」と語ります。
 世界中で問題になっているPFAS。大阪のダイキン工業や沖縄の米軍基地周辺など、日本各地でも深刻な汚染が明らかになっています。大企業や国の利益のために、住民の健康といのちをないがしろにしても良いのでしょうか。全国的に広がる運動と連帯することが必要です。
 守る会が取り組む署名はオンラインでも賛同できます。あなたの声を、「いのちの水」を守るちからに変えてください。

熊本地域:熊本市、菊池市、宇土市、合志市、大津町、菊陽町、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町の11市町村


PFAS(ピーファス)とは
 有機フッ素化合物の総称で、その種類は1万を超える。水や油をはじき熱に強いため、防水スプレーや化粧品などの生活用品から、軍事基地で使用される泡消火剤までさまざまな製品に使われている。
 環境や生態系への悪影響があり、PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)、PFHxS(ピーエフヘクスエス)の3種類については、製造・輸入が原則禁止。自然界で分解されにくく、体内に蓄積しやすいため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。

オンライン署名はこちらから

いつでも元気 2026.2 No.411