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いつでも元気

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けんこう教室 糖尿病の予防と治療

長野・松本協立病院 糖尿病内科診療部長 前田 実穂子

長野・松本協立病院
糖尿病内科診療部長
前田 実穂子

日本の成人のうち、約5人に1人が
糖尿病または糖尿病予備軍といわれます。
身近な病気ですが、重症化すると
さまざまな合併症を引き起こす恐れも。
松本協立病院(長野県松本市)の糖尿病内科診療部長、
前田実穂子医師に解説していただきます。

 糖尿病とは、インスリン(血糖値を下げるホルモン)が十分に作用せず血液中のブドウ糖が有効に使われないため、血糖値が普通より高くなっている状態をいいます。
 糖尿病が軽い場合の自覚症状は乏しいのですが、ひどい場合は口渇、多飲、多尿、体重減少などを生じ、これらは典型的な症状として診断基準にも含まれます。さらに重症化すると、意識障害や昏睡などを引き起こす急性合併症に至ることもあります。

1型糖尿病と2型糖尿病

 1型糖尿病は膵臓のランゲルハンス島に炎症が起こり、インスリンを作る膵β細胞が破壊される病気。1型糖尿病の多くは、膵β細胞を攻撃する自己免疫疾患と考えられ、生活習慣とは関係ありません。また、生まれつき発症する先天性の病気でもありません。発症には1週間前後で血糖値が288mg/dl以上の高血糖になる劇症型から、数年をかけてインスリンが作られなくなる緩徐進行型などがあります。
 2型糖尿病は、ブドウ糖を取り込む細胞(肝臓、筋肉、脂肪組織)でのインスリンの働きが悪い、もしくは体に必要十分な量が作られないなどの原因で発症します。2型糖尿病は加齢とともに増加し、糖尿病になりやすい体質に加え、環境要因(過食、運動不足、肥満、ストレスなど)が誘因となります。
 環境要因は糖尿病を発症した人だけの問題ではなく、日本を含めたアジア、さらには全世界的な問題。糖尿病の患者さんだけが過食や運動不足であり、自己管理ができないと考えるのは間違いです。

糖尿病の合併症

 糖尿病を適切に治療せずに高血糖状態が長く続くと、次のような症状や病気が起こる可能性が高くなります(資料1)。
・糖尿病に特徴的な細小血管合併症:神経障害、網膜症、腎症(3大合併症)
・糖尿病があると進行しやすい大血管合併症:脳卒中、心筋梗塞、足病変
・その他のかかりやすく治りにくい感染症:肺炎、膀胱炎、皮膚炎、歯肉炎、かぜ等
 3大合併症についてくわしく解説します。
①糖尿病神経障害
 2型糖尿病患者における有病率が35・8%と言われ、糖尿病罹病期間とHbA1c高値、高血圧などが危険因子と考えられます。
 神経は全身にくまなく張り巡らされ、さまざまな情報を伝えるネットワーク回路です。過剰なブドウ糖が神経内に蓄積、もしくは神経周囲の細い血管を傷つけると神経の働きが悪くなります。手足の感覚や運動を司る末梢神経と、胃腸や心臓といった内臓の動きを調節する自律神経などが主な障害を受けます。
 末梢神経障害では感覚鈍麻などから足病変の進行に気づきにくく、フットケア(やけどに注意する、足の清潔を保つ、爪を正しく切る)が必要です。自律神経障害では胃もたれ、頑固な便秘や下痢、立ちくらみ、勃起障害などさまざまな症状が起こります。
②糖尿病網膜症
 有病率は19・9%で、成人の主な失明原因の一つです。網膜は眼底にある薄い神経の膜。光や色を感じる神経細胞が敷きつめられ、無数の細かい血管が張り巡らされています。血糖値が高い状態が長く続くと、細い血管は変形や詰まりを起こし、網膜が酸欠状態に陥ります。
 その結果、新しい血管を生やして酸欠を補おうとしますが、新生血管はもろく、容易に出血を起こします。かなり進行するまで自覚症状がない場合もあり、「まだ見えるから」といった自己判断は危険です。
③糖尿病腎症
 有病率42・1%で透析原因の第1位です。腎臓は血液をろ過して体内の老廃物や余分な水分を尿として処理する、フィルターのような臓器です。糖尿病腎症では、血液をろ過する腎糸球体(細い血管の塊)が傷み、尿に蛋白質が漏れ出るなど腎臓の働きが悪くなります。
 現在は尿アルブミン(尿蛋白の1種)や尿蛋白を伴わない、非典型的な糖尿病関連腎症が増加しています。背景には高血圧や塩分過多、蛋白質の取りすぎ、肥満、喫煙などがあると考えられます。

糖尿病の最新治療

 1型糖尿病では、枯渇したインスリンの適切な補充が治療のポイント。これまでは自己注射が一般的でしたが、現在は注射回数が少なく簡単なボタン操作で注入できるインスリンポンプ療法があり、生活の質向上が期待できます。さらに、リアルタイム持続血糖モニターと併用することでインスリンの注入量を自動で増減(資料2)。血糖の変動が小さくなり、低血糖を起こすことなく良好な血糖コントロールが可能です。
 しかし、頻回注射療法(1日4回の皮下注射と3回の血糖測定)に比べ、保険診療では3倍ほどの費用がかかることが問題になっています。高額な費用負担が原因で多くの方が最先端の治療を選択できないという現実に対し、日本小児科学会や糖尿病学会は1型糖尿病を指定難病に認定し、患者負担を減らすよう厚生労働省へ申請しています。
 2型糖尿病の治療は、食事療法や運動療法から開始します。血糖値が改善しない場合、現在はインスリンを含む10種類の薬物療法が選択できます。その方の病態(肥満の有無)や低血糖、腎機能、心不全の合併など安全性へ配慮し、併存疾患や患者背景(服薬継続率や経済的問題)なども考慮して、適切な薬物療法が選択されるように提唱されています。

糖尿病の予防

 糖尿病の発症を予防するために、糖尿病境界型の方を対象にした研究がいくつか発表されています。フィンランドで行われた糖尿病予防研究では、生活習慣に介入した群と対照群のそれぞれを平均3・2年間観察。脂質摂取の抑制や食物繊維摂取の増加、身体活動度の増加などの介入・指導を受けた結果、58%の糖尿病発症が抑制されました。
 物価高と経済格差が広がる現代、安価な食品は高脂質であることが多く食物繊維は高価です。また、長時間労働で自由な時間のない方に身体活動の増加は安易に求められません。社会的・経済的な問題を抱える方は糖尿病発症リスクが高いと言えるでしょう。
 糖尿病はまさに社会的な疾患と言えます。糖尿病の発症が抑えられるよう、また糖尿病の方が合併症なく生涯を過ごされるよう、社会の変革が求められます。

いつでも元気 2026.2 No.411