スラヴ放浪記 追いかけてくる保健師 ポーランドの健康診断
文・写真 丸山美和(ルポライター、クラクフ在住。ポーランド国立ヤギェロン大学講師)

健診結果が5年後まで有効とのスタンプが押された健康診断書
筆者はポーランドの国立大学に勤務している。今から4年前、大学の雇用が始まるにあたり、秘書課から「健康診断を受けてください」と言われた。
毎年夏、日本へ一時帰国した際に自治体指定の特定健診を受けている。「日本の健康診断書でもいいですか」と聞くと「構いませんが、英語かポーランド語の診断書をもらってください。また検査項目も同じでなければなりません」と言う。さらに「万一、検査もれがあったら、あなたは雇用できません」と脅された。日本の診断書を早々にあきらめ、大学が指定する公立クリニックへ出向いた。日本以外での健診は初めてで、とても緊張した。
公立クリニックは、クラクフ市内の真新しい高層ビルの一角にあった。十以上の診察室があり、受診者は手順に従い廊下のいすに座って待つ。医療機関をはじめ、ポーランドの公的機関は始業が早く、多くは午前7時に始まり午後3時か4時には終了する。筆者は午前9時に訪れたが、廊下は受診者でごったがえしていた。
筆者の順番が来て診察室に入ると、老紳士風の医師が待っていた。持参した分厚い書類を渡すと、慣れた様子で目を通しながら会話が始まった。日本の患者に対する問診のようで、既往症や喫煙、飲酒などの生活習慣、睡眠時間、運動習慣などについて聞かれた。
続いて「だいたいでいいので、身長と体重を教えてください」と医師。答えると、なんとそのまま書類に書き込み、最後に血圧を測定した。上が128ほどだったが、「心配しないで。むしろ悪くない数字だよ」と言われ「これで終わりです」。持参した書類には、健診結果が5年後まで有効なスタンプが押され、筆者は放免された。
日本の健診はエックス線検査や血液検査、聴覚、視力、眼底検査、検尿などがあるが、ポーランドは全くない。ちなみに費用は無料だった。
昨冬、筆者は大きく体調を崩し、回復するまでに2カ月近くかかった。クラクフ市内の病院や診療所を受診したが、完全に回復して1年がたとうとする現在も、保健師によるフォローアップが続いている。
勤務先の大学で健康保険に加入しているため、無料で心電図と血液検査ができるが、忙しさにかまけて血液検査には行かなかった。すると昨年6月、保健師から「いま、予約をとるので必ず行ってください」と電話がかかってきた。「もうよくなったので、検査はしなくていいです。夏休みに日本に帰国した際に検査しますから」と答えると、「それはいけません。絶対に行ってください」と言う。
しかし、予約した日はウクライナへの人道支援に出掛け、検査のことはすっかり忘れていた。すると、すぐに電話とSMSにメッセージが入る。「また、あなたは行かなかったのですね。今週中に行ってください!」。
数カ月間にわたって保健師に追いかけられた筆者は、昨年11月、ついに検査を受けた。
12月29日、日本の家族と落ち合うため、ハンガリーへ向かう列車の車中でスマホが鳴った。画面を見ると、例の保健師の電話番号である。
日本の役所なら仕事納めの時期に、旅先まで追いかけてくる。おそらく検査終了の知らせだろうと思い、喜んで電話に出た。「こんにちは。もう検査をしたのでいいですよね」と私。
ところが違った。「悪玉コレステロールの値が少し高いので、本日から食事や生活習慣に気を付けてください。薬局で数値を改善する薬を買い求めてください。2カ月後くらいに再検査をお願いします」。
検査からは、いまだに逃れられないが、これを機に生活習慣を抜本的に見直そうと思っている。
いつでも元気 2026.3 No.412
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