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いつでも元気

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まちのチカラ 香川県土庄町 凪が包む瀬戸内の島

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

瀬戸内国際芸術祭2025の作品「国境を越えて・祈り」台湾出身のリン・シュンロン制作(豊島甲生浜海岸)

瀬戸内国際芸術祭2025の作品「国境を越えて・祈り」台湾出身のリン・シュンロン制作(豊島甲生浜海岸)

瀬戸内海に浮かぶ土庄町。
小豆島の西北部を中心に、豊島などの島々を含むまち。
潮の満ち引きが道をつくる神秘の景勝地、
迷路のような路地、受け継がれてきた素麺づくり、
そして海を越えて広がる現代アートと
多彩な表情を持っています。

 岡山県の宇野港から旅客船に乗って約50分、小豆島の玄関口として海上交通が活発な土庄港に到着しました。1908年にヨーロッパの地中海から持ち込まれたオリーブの木が唯一、小豆島だけに根付いたように、四季を通じて温和な瀬戸内式気候です。

恋人たちの聖地

 まずは小豆島を代表する景勝地エンジェルロードへ。1日に2回、干潮の前後だけ姿を現す砂の道が、沖合に浮かぶ4つの島(弁天島–中余島–小余島–大余島)を繋ぎます。その幻想的な光景は「天使の散歩道」とも呼ばれ、古くから島の人々に親しまれてきました。
 道が現れるのは、わずか数時間。潮が引くにつれて少しずつ姿を現す白い砂浜を歩くと、両側から静かに海が迫り、自然のリズムの中に身を置いていることを実感します。大切な人と手をつないで渡ると、願いが叶うと言われるロマンチックなスポットで、恋人たちや家族連れの姿が絶えません。

迷路のまちへ

 港からほど近い土庄本町地区は、〝迷路のまち〟と呼ばれる歴史的な集落です。地元をよく知るボランティアガイド協会の三枝公明さんの案内で、迷路のまちを歩きました。
 出発地点は、町でちょっと変わった世界一を誇る土渕海峡。幅は最小9・93mで、ギネスブックから「世界一狭い海峡」として認定されています。そこから一歩路地に足を踏み入れると、道は細く複雑に入り組んでいます。この個性的な町並みは、海賊の襲来や南北朝の動乱に備え、外敵を迷わせるために作られたとも、強い海風から家々を守るためとも言われています。
 「子どもの頃はよくここで鬼ごっこをしたんですよ。迷い込むと、もう見つからないんです」と三枝さん。細い路地には、昭和の面影を残す家屋、新しく建て替えられた家、そして静かに時を止めた廃屋が混在し、暮らしの歴史が折り重なっています。
 象徴的な風景が、小豆島八十八ヶ所霊場第五十八番札所の西光寺。石積みの塀と朱色の三重塔が、迷路のまちの中に姿を現します。西光寺の高台からは、入り組んだまちの様子を見下ろすことができ、その先には瀬戸内の海。穏やかな潮風が、ふわりと頬をなでました。

四百年の歴史
素麺づくり

 町にはおいしいものが数多くありますが、今回は約400年の歴史を持つ手延べ素麺をご紹介します。小豆島素麺の独特の味わいは多くの人を魅了し、今では全国三大産地の一つに数えられるようになりました。
 銀四郎麺業では昔ながらの手延べ製法を守り続け、早朝の3~4時に仕込みが始まります。その日の気温や湿度を見極めながら、小麦粉に塩と水を合わせて生地を練り上げます。特徴は、ごま油を使うこと。生地の表面に塗り込みながら熟成させ、二日がかりで直径1ミリまで細く長く延ばします。ハタと呼ばれる木製の道具に掛けられた、背丈ほどある素麺を一本一本丁寧に分けていきます。
 雨が少なく乾燥した気候、良質な水、そして受け継がれてきた職人の技。これらが小豆島素麺ならではのコシとやわらかな口当たりを生み出しています。
 銀四郎麺業の工場横のお食事処で、かがわ県産品コンクール知事賞(最優秀賞)受賞のオリーブ素麺をいただきました。小豆島の老舗農園「東洋オリーブ」で収穫された果実をたっぷり練り込み、麺は爽やかな緑色。つるりとした喉ごしの中に、ほのかに広がるオリーブの香りが印象的です。
 社長の三枝純さんにお勧めの食べ方を伺うと、「麺つゆもいいですが、オリーブオイルをかけて塩でどうぞ」とのこと。シンプルだからこそ、風味がわかりやすく際立ちます。
 腹ごしらえのあとは、大坂城築城のための石を切り出した石丁場跡や、樹齢1600年を超える宝生院のシンパク、映画「二十四の瞳」にちなんだ平和の群像など、歴史と文化を感じるスポットへ。歩くほどに小豆島の奥深さに触れることができます。

豊島に溶け込む
アートの世界

 最後に、土庄港から船で豊島に渡りました。瀬戸内国際芸術祭をきっかけに世界的な注目を集める、アートの島です。自然や集落に溶け込む作品群は、鑑賞するというより体験するアートといえるでしょう。
 豊島美術館は地元住民とともに再生した棚田が広がる丘の上に、水滴のようなフォルムでたたずみます。小さな入り口から足を踏み入れると、天井の開口部から風や光、音が入り込み、自然と建築とアートが一体となった別世界が広がります。床から湧き出す水滴が静かに流れ続け、一日を通して泉が誕生しています。
 潮に道を委ね、路地に歴史を刻み、食と表現を育んできた土庄町。瀬戸内の時間がゆっくりと流れるこの町は、何度でも足を運びたくなります。

■次回は大阪府和泉市です。

まちのデータ

人口
1万1376人(1月1日現在)
おすすめの特産品
オリーブ、手延べ素麺、醤油、島鱧
アクセス
高松港からフェリーで約60分、高速船で約35分。宇野港から旅客船で約50分。新岡山港からフェリーで約70分
問い合わせ
土庄町商工観光課 
0879–62–7004

いつでも元気 2026.4 No.413