旅するわらべうた 色濃く映す女性差別
文・写真 片岡伸行

東京・湯島天満宮に咲く可憐な梅の花
〈あの子がほしい あの子じゃわからん〉と歌われるわらべうた花いちもんめ。
美しい印象のタイトルですが、実は女性差別を色濃く映す唄です。
花いちもんめ (作者不詳)
勝ってうれしい 花いちもんめ
負けて口惜しい 花いちもんめ
(中略、地方によって歌詞が違う)
あの子がほしい
あの子じゃわからん
この子がほしい
この子じゃわからん
相談しましょ そうしましょ
欲しや欲しや (作者不詳)
欲しや 欲しや どの子が欲しや
○○さんが欲しいよ
何匁で買わいしゃ
一匁で買おうよ 一匁じゃ安いよ
二匁で買おうよ 二匁じゃ安いよ
三匁で買おうよ それじゃまだ安いよ
百匁で買おうよ まだまだ安いよ
千円万円蔵添えて買おうぞ
それなら売ろうぞ
往んだら何を食わさいしゃ
びいびいたいたい米の飯
毬が喉へかかろうぞ
乳をかっぷり飲ましょうよ
よかろうよ
往んだら何を着せさいしょ
金襴緞子に繻子の帯 よかろうよ
花いちもんめは2組に分かれた子どもが手をつなぎ、横一列になり向かい合って歌います。中ほどの歌詞は各地でさまざまなバージョンがありますが、共通するのは〈あの子がほしい〉以降の掛け合いです。「花いちもんめ」という言葉は昭和の初め頃に京都地方で使われ、全国に広まったとされます。
女性を「もとめる」
京都地方ではこう歌われたようです。
〈ふるさともとめて花いちもんめ
もんめ もんめ 花いちもんめ
○○ちゃんもとめて花いちもんめ
△△ちゃんもとめて花いちもんめ
勝ってうれしき 花いちもんめ
負けてくやしき 花いちもんめ〉
〈ふるさともとめて〉とは「故郷へ帰りたい」という意味でしょうか。同じく京都をはじめ西日本には〈たんす長持どの子がほしい あの子がほしい あの子じゃわからん〉と歌われる子取り遊び唄もあります。「箪笥・長持」は昔の嫁入り道具のこと。歌詞の内容は異なりますが、いずれも女性を「もとめる」という点で共通しています。
「もとめる(求める)」というのは「欲しい(欲しがる)」だけでなく、現在でも「買う」という意味で使われます。
子買いと子売り
〈勝って〉を「買って」に、〈負けて〉を値引きの意味に解すると、「子買い・子売りの唄」になるという解釈が古くからありました。「花」は女性を表す隠語で、貧困下の口減らしで娘を身売りする際のやり取りが遊び唄に転化したとの説です。広島県山県郡加計地方に伝わるわらべうた欲しや欲しや(別掲)を紹介しましょう。
〈一匁で買おうよ 一匁じゃ安いよ〉という価格交渉から始まり、二匁、三匁、百匁と値段が吊り上がります。最後は〈千円万円蔵添えて買おうぞ それなら売ろうぞ〉となり、米の飯を食わせ、高価な着物(金襴緞子に繻子の帯)も着せてやるという〝特典〟が示されると、〈よかろうよ〉と応じて取引が成立します。
歌詞にある〈びいびいたいたい〉とは、方言で魚のこと。「円」は明治時代初めにできた貨幣の単位ですから、明治以降もこの唄は歌われていたのでしょう。
〈いちもんめ〉とは
そもそも「いちもんめ」とは何でしょう。「匁」は江戸時代最少額の通貨・一文銭「寛永通宝」の重さのことで、一匁は3・75g。現在の5円玉と同じ重さです。主に銀貨の単位として使われ、銀1匁は現在の2000円ほど。江戸の尻取り唄がルーツとされる博多どんたくの歌ぼんち可愛いやの歌詞に〈品川女郎衆は十匁〉とありますが、銀十匁(約2万円)が遊女を買う相場ということでしょうか。
つまり、いちもんめとは、一文銭のように軽く安いもの(弱小な存在)を比喩的に表した言葉で、「一寸の虫にも五分の魂」の一寸と同じ。「花いちもんめ」というのは、女性が軽く安く売られ、買われた時代を投影した言葉なのです。遊郭への人身売買は昭和期に入っても続きました。その不条理な情況を、子どもたちは象徴的な言葉に託し、時代を超えて歌い継いでいったのでしょう。
これは過去のことでしょうか? 日本では性風俗産業に形を変え、今も性売買が続いています。
(つづく)
かたおか・のぶゆき
ジャーナリスト、作家。著書に本誌で連載した『神々のルーツ—「祈りの場」から見た古代日本』、近著に『神々のクロニクル—神社と天皇の内実』(いずれも新日本出版社)がある
いつでも元気 2026.5 No.414
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