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いつでも元気

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スラヴ放浪記 真のクラクフ住民に 洗礼を受ける

文・写真 丸山美和(ルポライター、クラクフ在住。ポーランド国立ヤギェロン大学講師)

ヴァヴェル大聖堂の復活徹夜祭。右から3人目がリス大司教

ヴァヴェル大聖堂の復活徹夜祭。右から3人目がリス大司教

 4月4日、筆者はポーランドのクラクフにあるカトリック教会で洗礼を受けた。入信の理由はいくつかある。
 ポーランドは世界屈指のカトリック信仰国で、教会の習わしや信仰にまつわる文化は、社会と住民の生活に密接に結びついている。ポーランドの人々の精神性をもっと深く感じたいと願うと同時に、〝真のクラクフの住民〟になりたかった。
 筆者の歩んできた道のりは少なからず重い歳月だった。聖書のある言葉「疲れた者、重荷を負う者は誰でもわたしのもとに来なさい」(マタイによる福音書)が、私の心をとらえたのも理由のひとつだ。
 4月4日は、十字架にかけられ処刑されたイエスが復活する前日にあたる。キリスト教の年間行事で重要な「聖土曜日」とされており、ポーランドでは日没後から盛大な式典「復活徹夜祭」が行われる。
 昨年、クラクフ大司教に就任したグジェゴシュ・リス氏が、復活徹夜祭で洗礼式を行うと決めた。場所はなんと、世界で最初に世界文化遺産に登録されたヴァヴェル大聖堂だ。ここはポーランド歴代の王の戴冠式と葬儀が行われ、国の歴史において主要な人物が眠る、とても特別な場所だ。
 筆者は街角のありふれた教会で、ひっそりと洗礼を受けるものと思っていた。国を挙げての式典に受洗が組み込まれることに、深い感謝とともに軽い恐怖を覚えた。
 洗礼への道のりは長く、1年間教会に通い個人授業で教義を学んだ。折々のミサで、さまざまな「秘跡」を授かった。復活祭(イースター)の1カ月前からは、頻繁に教会に通い儀式を行っていただいた。
 イースター期間に入るとイエス受難の日が刻々と近づく。祭壇にある大きなイエス像が布で隠された。同時に一日に行われるミサの数と時間が長くなる。司祭から普段は聞くことができない話があり、信者による聖歌が礼拝堂に響く。参列する信者の数はイースターに向かってどんどん増えていき、しまいには立ったままの人でいっぱいになった。

 復活徹夜祭の数日前、親友のダレクから連絡があった。「洗礼の開始時刻を教えてください。私も参列して、あなたと一緒にいたいと思います」。
 ダレクは筆者の博士論文の指導教官で、クラクフ教区司祭の立場にある高僧。筆者が順調に受洗の道を歩むことができたのは、ダレクが推薦状をクラクフ教区に提出し、指導を受けるための適切な教会を選んでくれたからだ。
 復活徹夜祭は4月5日午前1時に終わると聞いていた。ダレクは午前8時から自身の教会でミサを執り行わねばならない。それなのに来てくれることがとてもありがたく、嬉しかった。
 いよいよ祭典の時が来た。開始30分前にヴァヴェル大聖堂に入ると、既に多くの信者でごったがえしていた。ウクライナ人道支援の仲間や、大学の教え子もいる。筆者を見つけるとみな駆け寄ってきたが、ダレクの姿がない。開始時刻が近づいても現れる気配がない。
 式典の開始前、受洗者は大聖堂の庭に出るよう促がされた。日はとっぷりと暮れており、高台には大きな焚火がたかれていた。焚火の周囲を美しい法衣姿の高僧が取り囲み、最初の儀式が始まった。筆者をはじめ、受洗者は一様に緊張に包まれた。
 ふと、一人の高僧が振り向き、ニコニコと微笑みながら筆者にスマホを向けている。驚いて目を凝らすと、ダレクだった。
 やがて高僧が高台から降りて受洗者に近づく。ダレクは筆者の前に来ると「ありがとう、ございまーす」と覚えたての日本語で話しかけ、周囲が笑いに包まれた。

秘跡 キリストの神秘を目に見える形で現在化する特別な儀礼

いつでも元気 2026.6 No.415