翻弄される人々 JVCのガザ報告㊤

昨年9月の空爆で破壊された
パレスチナ医療救援協会のクリニック
2023年10月、イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区に無差別爆撃を開始してから2年と8カ月。
2002年からガザの支援を続けるJVC(日本国際ボランティアセンター)の大澤みずほさん(看護師)の記事を2回に分けて掲載します。1回目はガザの現状です。
ガザはもともと2007年からイスラエルによって陸海空を完全に封鎖され、逃げる場所も隠れる場所もないなか、たびたび軍事攻撃を受けてきました。しかし、今回は従来と比較にならない大規模な爆撃で、報告されているだけで7万2000人以上が死亡、17万人以上が負傷し、1万人以上が行方不明になっています。
また建物の8割以上が破壊され、瓦礫の撤去に最低でも7年 、不発弾の撤去には20~30年かかるとされます。道路や上下水道なども破壊され、多くの人が半壊した家やテント、混み合う避難所での生活を強いられています。
処理が追い付かない山積みのゴミにより衛生環境は劣悪で、特に避難所など多くの人が密集する場では、呼吸器感染症、下痢症、疥癬、A型肝炎などが蔓延しています。テント生活は避難所よりプライバシーを確保できますが、夏は蒸し暑く、雨季の秋から冬にかけては暴風で吹き飛ばされたり、洪水でテントが浸水するなど、年間を通して困難が絶えません。
イスラエル軍は食料や物資のガザへの搬入を厳しく制限。一部の地域で飢饉が発生し、停戦後も人口の77%が深刻な食料不安の状態です。飢えから雑草を食べたり、ゴミの山から食べられるものを探さざるを得ない人もいます。
栄養状態の悪化は出生にも影響を及ぼしています。国連の調査によると、出産の3分の1がハイリスクで、新生児の70%が低体重で生まれます。
2月にイスラエルと米国がイランへの攻撃を始めました。これをきっかけにイスラエルは再びガザの検問所の機能を限定的にし、飢餓の悪化が懸念されています。
治療が受けられない
ガザの病院は半数が部分的に稼働していますが、それ以外はテントなど野戦病院のような施設です。建物の破壊に加え、医薬品や医療物資・機器も不足。現場は常に逼迫した状態で、十分な治療を受けることができません。現在1万
8500人以上がガザの外での治療を必要としていますが、医療目的であってもガザから出るにはイスラエルの許可が必要で、治療を受けることは容易ではありません。
昨年10月、全面侵攻から2年を経て、ようやく停戦しました。しかし、イスラエル軍は一方的にガザ地区に「イエローライン」と呼ばれる境界線を引き、地区の58%を支配しています(地図)。
イエローラインのイスラエル側に残された人々には物資が届かないばかりか、境界に近づくだけでも銃撃され死者が出ています。停戦後も爆撃や銃撃が一部で続き、停戦開始から5カ月間の死者は640人に上ります。
また、住民の心理的ダメージも多大で、ガザの子どもの54%、成人の41%がPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されています。その多くが不安症やうつ症状を伴っており、心理ケアの必要性がより高くなっています。
栄養と医療で支援
JVCがガザで支援活動を始めたのは2002年。幼児用のミルクや高栄養ビスケットなどを配布したことがきっかけでした。
不安定な情勢が長期化するなか、物資による一時的な支援だけでなく、各家庭で栄養状態を改善し子どもたちの成長と健康を守れるよう、栄養や発達などの知識を広げる活動に移行しました。
活動に力を貸してくれたのは、現地のパートナー団体「AEI」(アルデルインサーン、日本語で人間の大地)と、ボランティアの女性でした。ボランティアは子どもと妊産婦の栄養などについての知識を深め、活動終了後も地域で子育ての相談にのり、何か問題がある子どもを見つけたらAEIにつなぐ役割を果たしました。
この2年8カ月、JVCは遠隔で支援を継続。最近は3歳以下の子どもを対象とした栄養スクリーニングと栄養補助食品の配布、並行して保護者や妊産婦への個別カウンセリングや啓発活動を行っています。停戦後は以前実施していた子ども用のおもちゃ作りや、調理講習も再開しています。
栄養支援と並行して、もう一つの現地パートナー団体「PMRS」(パレスチナ医療救援協会)と医療支援を実施しています。
PMRSの拠点で配布する乳児用の粉ミルクと医薬品を支援し、クリニックの運営も補助します。PMRSはクリニックやテント型の簡易拠点の他に、モバイルチームが避難所などを巡回しながら診療します。JVCの粉ミルクは各診療ポイントで栄養スクリーニングを受けた子どもに配布し、医薬品は医師の診断に基づき必要な患者に処方しています。
(つづく)
1980年発足。アジア、アフリカ、中東、日本で活動する国際協力NGO。紛争地での人道支援や、環境保全型の農業を通した暮らしの改善に協力。現場の声を政府や社会に届ける政策提言も。寄付等はホームページから
いつでも元気 2026.6 No.415
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