支援者をケアする JVCのガザ報告㊦

母親や妊産婦を支援するAEIのスタッフとボランティア
JVC(日本国際ボランティアセンター)は2002年から、パレスチナ・ガザ地区の支援を続けています。前号に続き、JVCの大澤みずほさん(看護師)の報告です。
2回目は支援をする人のケアに焦点をあてます。
ガザはイスラエルによる陸海空の封鎖で、人と物の移動や経済活動が厳しく制限され、国際支援なしには立ち行かない状況でした。JVCを含む国際NGO、国連の各機関、赤十字国際委員会や各国の赤十字・赤新月社などさまざまな支援組織が入っていました。
ガザの悲惨な状況はニュース等で目にしても、支援活動の最前線はほとんど知られていません。現地で実際に支援を届けているのは、自らも被災した住民です。2023年10月から始まったイスラエルの無差別爆撃では、医療機関や救急車、救出活動の現場、学校、支援物資の配布場所なども攻撃対象になりました。
支援者は停戦(昨年10月)までの2年間、「次は自分が死ぬ番かもしれない」「帰ったら家族はいないかもしれない」という不安を抱えながら、命がけで活動を続けてきたのです。
JVCの現地パートナー団体のスタッフやボランティアも、想像を絶する困難に直面しながら活動してきました。幸い関係者に死者や重症を負った人はいませんでしたが、何度も避難を強いられ、家族や親戚、友人、同僚など大切な人を亡くしています。
夫がイスラエル軍に拘束され行方不明の人、戦車が迫るなか自宅の床に伏せて生き延びた人、戦火の最中にがんを宣告され苦悩する人、皆それぞれに困難をくぐり抜け悲しみを乗り越えてきました。
現地パートナー団体「PMRS」(パレスチナ医療救援協会)看護師のランダさんは、自宅周辺が空爆され避難所へ。避難所に医療ポイントを設置しましたが、数日後には攻撃対象になりました。その後も避難を繰り返し、爆撃音で左耳が聞こえなくなりました。
ある時、家族全員がイスラエル軍に拘束され、雨の中で夜通しイスラエル兵から暴力を受ける夫と息子を見ていることしかできなかった体験もしました。それでも「私は支援が必要な人々のために働き続ける」と言います。
グループでの心理ケア
見落とされがちなのが、支援をする側の人の心のケアです。支援者は命が危険にさらされるリスクが高いうえ、住民から物資不足などでクレームを受けることもあります。特に栄養支援の現場では、母親や妊産婦から不安の声を数多く聞きます。子どものことだけでなく、家族や今後の生活など、気持ちを吐露する人が後を絶たず、それを受け止めることで心労も重なります。
JVCは栄養支援に従事する現地パートナー団体「AEI」のスタッフとボランティア、JVC現地スタッフに対し、グループでの心理ケアを実施しました。
グループセッションを通してストレスの軽減、感情のコントロール、モチベーションの向上を図ります。セッションが終わった後も自分自身で、そして家族や身近な人と一緒に実践できるものを選択しました。
本来なら一人当たり複数回のセッションが必要ですが、支援活動を優先し、今回は一回だけとなりました。当日の会場は参加者の笑顔があふれ、開催した甲斐があったと感じました。過酷な避難生活で個人の時間を持つこともままならないなか、ひと時だけでも活動をともにした友人と再会し、ともに時間を過ごすことが参加者の心の癒やしとなったのです。
セッション後、参加者から「私たちのことを忘れないでくれてありがとう」という声を多く聞き ました。嬉しいと感じる一方、いかにガザの人々が孤立し、世界から見放されているように感じているのかを改めて痛感しました。
現地の住民は、支援を待っているだけではありません。より困難な人々に支援を届けようと力を尽くしている人たちがいます。JVCは今後も、最前線で支援者を支えます。
人間として生きたい
JVCは支援活動と並行し、他の国際NGO団体と協力して日本政府に政策提言もしています。日本が国際社会の一員として、ガザ地区の恒久的な停戦と、イスラエルの占領終結に向けた外交的な努力をすることを求めています。
以前、JVC現地スタッフがこんなことを言っていました。「私が感じていることを表現するには言葉が足りません。でも、私たちが緊急に、切実に平和を必要としていることは確かです。ただ平穏に暮らしたいだけです。世界中の人々と出会って、自分の興味や情熱のあることができる生活に戻りたいだけです。私は人間です。人間として生きたいのです」。
「ただ、平和に暮らしたい、普通の暮らしがしたい」―。私たちが当たり前のようにできていること、手にしている権利がガザの人々にとっては夢であり、言葉にして叫び続けても、いまだ手に入らないものなのです。
世界の秩序は崩壊しかけています。各国の政府は自国の利益や〝自衛〟のためなら何をしてもよいという風潮です。どうしたらこの現状を変えられるのか…。唯一の希望は市民の力です。私たち市民が関心を持ち続け連帯して声を上げることで、少しでも状況が変わることを願って、今後も活動を継続します。
JVC(日本国際ボランティアセンター)
1980年発足。アジア、アフリカ、中東、日本で活動する国際協力NGO。紛争地での人道支援や、環境保全型の農業を通した暮らしの改善に協力。現場の声を政府や社会に届ける政策提言も。寄付等はホームページから
いつでも元気 2026.7 No.416
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