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いつでも元気

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けんこう教室 おとなの発達障害

みさと協立診療所(埼玉県三郷市) 精神科 梁取 慧

みさと協立診療所(埼玉県三郷市) 精神科 梁取 慧

「その場の空気が読めない」
「人とのコミュニケーションが苦手」―。
多くの人が抱える〝生きづらさ〟。
その原因は発達障害(神経発達症)なのかもしれません。
子どもの頃には気づかれず、社会に出てから表面化することも。
精神科医の梁取慧さんの解説です。

 ある事例を紹介します(複数の事例を組み合わせて構成したものです)。
 Aさん(28歳男性)は、大学を卒業後に製造業に就職しました。1年前から製造ラインの管理を任され、スタッフの勤怠管理や顧客とのやり取りも担うようになりました。しかし、業務をスムーズにこなすことができませんでした。はじめは「慣れない業務なので仕方ない」と思っていましたが、半年経っても改善しませんでした。
 分からないことを上司や同僚に聞くこともできず、期限内に仕事が終わらない状況が続きました。残業が多くなり、自身では疲れを自覚していなくても、突然の熱で仕事を休むことも増えました。上司や産業医との面談で勧められ、メンタルクリニックを受診しました。

誰もが持っている特性

 精神科や心療内科の外来には、働き盛りや子育て世代の方々が多く受診されます。それぞれ仕事や育児、家庭内での行き詰まりがあり、抑うつ症状や不安症状、現状への悩みを訴えて来られます。こうした中に、〝おとなの発達障害〟を背景に持つ方が一定割合見られます。
 最近、発達障害は神経発達症と呼ばれるようになりました。その中には自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習障害(SLD)などが含まれます。(資料1

【ASDの特性】
・非言語的コミュニケーションが苦手
・情緒的交流が苦手
・融通の利かないこだわり
・物事に過度に集中する
・感覚の過敏さ、または鈍感さ など
【ADHDの特性】
・忘れ物や約束を忘れることが多い
・整理整頓が苦手
・落ち着いて話を聞けない
・衝動的に行動する など
 SLDは全体的な知的発達には問題がないのに、読み書きや計算、数字などに限って極端に苦手さを持つ状態を言います。自分自身も周囲も気づくことが少なく、あまり世間に知られていないのが現状です。
 このような特性は、濃淡がありながら誰しもが持っているものです。その色合いが濃いことで日常生活への支障が大きくなると、子ども時代に診断がつけられます。
一方、特性の色合いが淡く、学童期や学生時代に「なんとなく周囲と違う子」として育ち、社会人になってから社会生活への適応困難が目立つようになると、〝おとなの発達障害〟として気づかれることになります。

「助けて!」が言えない

 Aさんの事例に戻ります。Aさんは学生時代から課題の優先順位をつけられず、複数の作業を並行して進めることが苦手でしたが、周りのサポートもあって大きな支障もなく過ごしていました。
 学生時代は、バンド仲間と行動を共にすることが多かったそうです。その仲間たちはAさんに気さくに声をかけ、困りごとがあれば相談に乗り、疲れに応じて活動を調整するなどしていました。
 就職後、決まった手順で繰り返し行う作業には対処できていたAさん。しかし、複雑な管理業務で臨機応変さが求められ、自ら助けを求めることもできず、疲弊してしまったのです。「できない自分が悪い」と思ってしまい、「助けて!」と言えない方は少なくありません。

困ったときはどうする?

 自分自身や周囲が「困った!」と感じた時が相談を始めるタイミングです。Aさんは職場の上司や産業医が気づいてくれました。体調を崩した時には家族が気づいてくれることもあります。気づいた時点で精神科や心療内科の外来を受診するとよいでしょう。
 一般的には「心理検査を受け、診断してもらい、対処を考える」と思われがちですが、診断が全てではありません。先述したように、神経発達症に見られる特性は、濃淡がありながら誰しもが持っているもの。本人や周囲が困っていることを互いに共有できれば、対処と工夫しだいで社会生活を送ることができます。
 Aさんの場合は、業務の進捗を週2回部署内で共有し、行き詰まっている箇所を確認。細かい段階に分けて助言してもらうことで、業務の滞りをかなり減らすことができました。このような相互理解と工夫が重要です。
 こうした工夫で対処しきれないほどの苦手さがあると、その職場で働き続けることは、本人と周囲の人々の双方にとって苦しいものになると思います。その場合は部署異動や配置転換、転職などの方法も選択肢の一つとなるでしょう。
 それでも対処しきれない生きづらさがある場合には、医師の診断を受けて精神保健福祉手帳を取得することで、障害者雇用や就労継続支援といった福祉的就労につながることができます。また、各地のピアグループ(障害や境遇などの同じ悩みを共有する当事者の会)の活動やコミュニティー誌、SNSから学べることがたくさんあります。インターネットで検索したり、自治体や医療機関の窓口で相談してみましょう。

ケアと対話を続けること

 近年、ケアや対話が注目されています。ケアとは、〝する側〟から〝される側〟への一方通行ではなく、双方向であると同時に円環的なものでもあるはずです。(資料2

 Aさんがケアを〝受ける〟場面をお伝えしてきましたが、実はAさんは職場内でバンド活動を続けており、そのメンバーとの交流、社内行事での演奏などでケアを〝提供する〟側でもあったのです。
 物事は多面的、多層的になっています。自分が気づいていない部分や、自己と他者の違いについて対話を繰り返すこと。そのことが、多くの人の生きづらさを軽くし、生きやすい地域社会をつくると信じています。わたしも微力ながらその一端を担えるよう、日々の対話を続けています。

いつでも元気 2026.9 No.418