けんこう教室 高血圧の新基準 10年後、20年後の体を守る

千葉・いちはら協立診療所
小林隆信
「血圧が高いと言われたけど、特に困ってないし…」と、見て見ぬふりをしていませんか?
自覚症状がほとんどない一方で、将来のさまざまな病気の原因になる〝高血圧〟。
高血圧とはどのような病気なのか、最近改訂されたガイドラインで何が変わったのか。
循環器内科医の小林隆信さんの解説です。
高血圧は日本人で成人の約3人に1人、60歳以上では男女ともに過半数の方にみられる身近な病気です。
血圧とは、心臓が送り出した血液が血管にかける圧力のこと。水道のホースに例えると分かりやすいでしょう。強い水圧が長くかかり続けるとホースが少しずつ傷んでいくように、高い血圧が続くと血管に負担がかかり、少しずつ硬く、もろくなります。これが動脈硬化です。動脈硬化が進むと脳卒中や心筋梗塞、心不全、腎臓病などのリスクが高まります(資料1)。
高血圧の治療は、今ある症状を治すための治療ではなく、10年後、20年後の脳や心臓、腎臓を守るための治療。薬を飲むことが目的ではなく、血管を守り、将来の大きな病気を防ぐことが目的なのです。

「140未満なら安心」ではない
高血圧の治療が必要と診断される基準は、診察室での収縮期血圧(上の血圧)が140以上、または拡張期血圧(下の血圧)が 90以上(140/90 mmHg)です。家庭で測った場合(家庭血圧)の診断基準値は、135/85 mmHgとされています。
「140/90 mmHg未満なら安心」と思われがちですが、実際にはそうではありません。140/90 mmHgを超えた瞬間に急に危険になるのではなく、血圧が高くなるにつれて、脳卒中や心臓病のリスクも少しずつ高まることが分かっています。この〝リスクは連続している〟という考え方が、最近改訂されたガイドラインの土台です。
診断基準値は今回の改訂でも変わっていませんが、大きく変わったのが「目標とする血圧(降圧目標)」です。
なぜガイドラインは変わったのか
2025年に日本高血圧学会が発表した「高血圧管理・治療ガイドライン2025」。最大の変更点は、原則として全年齢で「診察室血圧130/80 mmHg、家庭血圧125/75 mmHg」を、降圧目標の上限値としたことです(資料2)。
2019年版では、75歳以上の方などで140/90 mmHg未満を目標とする場合もあり、年齢や持病によって目標が分かれていました。しかし近年、十分に血圧を下げた方が脳卒中や心筋梗塞などをより確実に予防できること、薬の副作用よりも健康上のメリットが大きいことが、国内外の研究から明らかになってきました。
こうしたエビデンス(科学的根拠)を背景に、降圧目標はよりシンプルに、より十分な降圧を目指す形へ整理されました。
日本では血圧が十分にコントロールされている高血圧患者さんは3割に満たず、多くの患者さんが十分な降圧を達成できていません。今回の改訂には、この現状を変えたいという学会の強い意志を感じます。
さらに、ガイドラインの名称も「高血圧治療」から「高血圧管理・治療」へ変更されました。薬による治療だけでなく、家庭血圧の測定や生活習慣の改善も含めた〝管理〟を重視する姿勢を強調しています。治療は病院だけで完結するものではなく、日常生活も含めた取り組みが求められているのです。

「症状がないから大丈夫」の落とし穴
私は循環器内科医として、心筋梗塞や心不全などで入院された患者さんを長く担当してきました。その中で何度も、「もっと早く血圧を管理できていれば、病気を防げたかもしれない」と思う場面がありました。
外来では、「薬はこれ以上増やしたくありません」「もう何年もこのくらいの血圧です」「症状がないので困っていません」という声をよく耳にします。
その気持ちはよく分かります。高血圧は症状がない病気ですから、血圧を下げる必要性を実感しにくいのです。
一方で医療者も、「このまま様子をみましょう」と、治療強化を先送りしてしまうことがあります。患者さんも医療者も、今の血圧の数字に慣れてしまい、もう一歩踏み込むタイミングを逃しやすいのです。
今回のガイドラインには、患者さんだけでなく医療者に対しても、「目標に届いていないのであれば、もう一歩踏み込んで考えましょう」というメッセージが込められているように感じます。
もちろん、高齢の方や他の病気をお持ちの方は、一人ひとりの状態に合わせて無理なく降圧を進めることが大切です。
日常生活で心がけたいこと
治療の基本は生活習慣です。また、動脈硬化の進行を防ぐには、血圧だけでなくコレステロールなどの脂質や、血糖値の管理も重要です。高血圧とあわせて、これらもかかりつけ医に確認してみましょう。
減塩はもちろん、今回のガイドラインでは野菜や果物、豆類などに多く含まれるカリウムの積極的な摂取も推奨されています。ただし、カリウムの調節機能が低下する腎臓病のある方については、主治医によく相談してください。
適度な運動、体重管理、節酒、禁煙、十分な睡眠も重要です。また、家庭血圧を測る習慣も欠かせません(資料3)。家庭血圧は普段の血圧を最もよく反映し、治療方針を決める上で重要な情報になります。
生活習慣だけで降圧目標に届かない場合、内服治療も必要になります。薬を飲むことが目的ではなく、未来の脳や心臓、腎臓、そして血管を守るための手段です。

血圧と社会のつながり
高血圧の予防や改善には、健康的な食事、適度な運動、十分な休養、そしてストレスの少ない生活が理想です。
しかし現実には、それを続けることが簡単ではない人も少なくありません。忙しい毎日や不規則な生活、仕事や家庭でのストレスなど、私たちを取り巻く環境も血圧に大きく影響します。
健康は個人の努力だけで守れるものではなく、社会全体で支えていくものでもあります。政治がよくなって、少しでも血圧が上がりにくい社会になってくれるとよいですね。
いつでも元気 2026.11 No.420
