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いつでも元気

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ある日、病院がなくなる 民医連が緊急署名

文 八田大輔(編集部)

診察室で患者に署名の説明をする赤路所長

診察室で患者に署名の説明をする赤路所長

全国で約7割もの病院が赤字に苦しんでいる。
日本医師会と6病院団体は、医療崩壊の危機を訴える声明を発表。
全日本民医連も緊急行動を提起した。

 いま、全国の医療機関が深刻な経営危機に直面している。2024年の医療機関の倒産件数は64件。休廃業・解散は722件で、それぞれ過去最高。今年はそれをさらに上回るペースで推移している。
 6病院団体の調査では約7割の病院が赤字経営。その原因の一つは、費用と収益の不均衡にある。
 費用については、光熱費や医療材料費などの経費と人件費が大幅に増加。物価の高騰は全産業に共通する問題だが、医療機関は費用の増加分を価格に上乗せすることができない。診察料や検査料などの診療報酬は、国が定める公定価格だからだ。
 診療報酬は小泉内閣の「骨太方針」以降、20年以上も抑制政策が続く。物価上昇に診療報酬が全く追いついていないため(資料)、費用増大が経営を圧迫。職員の給与を他産業並みに上げることができず、医療介護の専門職が離職し、そのことがさらに経営危機に拍車をかけている。
 このままでは、ある日突然、病院がなくなる。国民皆保険制度の危機ともいえる状況のなか、全日本民医連は「緊急行動」を提起した。医療従事者のみならず、全ての地域住民を対象に署名をスタート。地域の医療機関と住民の受療権を守るため、かつてない規模の国民署名と位置づけた。2026年1月末までの目標は、100万筆だ。

ピンチをチャンスに 大阪

 6月中旬の緊急行動提起を受け、いち早く推進本部を設置したのが大阪民医連。7月から発行した「緊急行動提起おおさかニュース」は、4カ月で54号を数える。
 のざと診療所(淀川勤労者厚生協会・大阪市)は、赤路英世所長を先頭に署名に取り組む。署名のお願いを所内で1時間に1回アナウンスし、4カ所のモニターには赤路所長の顔写真入りビラを掲示。署名しやすい雰囲気を作った。
 「外来や往診で協力をお願いすると、『病院が大変だってテレビで見たよ』と、みなさん快く応じてくれます」と赤路所長。診療の合間には街頭にも立ち、医療崩壊の危機を訴えた。他の署名よりも興味を示す人が多く、高校生も協力。診療所の目標は1000筆だが、西淀川・淀川健康友の会とのタッグで、すでに800筆も集めた。
 「患者さんの『この診療所がなくなったら困る』という声はありがたい。ただ、社会保障を抑制する政策に対峙しなくては、地域医療は守れません。署名を通してそのことを伝え、さまざまな立場の人が一つになる契機になれば。このピンチを、社会を転換するチャンスにしたい」。
 大阪民医連は10月中旬までに35000筆の署名を集め、取り組みのギアをさらに上げている。

95歳、自作ビラで訴え 東京

 東京都北区の柴田桂馬さん(95歳)は、地域の王子生協病院を運営する東京ほくと医療生協の組合員。また、家族が代々木病院(渋谷区)に通院していた関係で代々木健康友の会の会員でもある。
 柴田さんは今年2月に外出中に転倒し、大腿骨を骨折。手術後のリハビリで王子生協病院に1カ月以上入院した。
 「もともと大きなけがや病気もなく健康だったので、改めて医療機関や介護施設の重要な役割を身をもって感じました」と柴田さん。同時に医療機関の危機的な状況をニュースで知り、不安と怒りを感じたという。
 退院後しばらくして、友の会から緊急署名の呼びかけが届いた。
 「私の住む団地には多くの高齢者がいます。老老介護で生活する人、病気を患っている人もたくさんいる。この署名用紙を見た時、私と妻の2人だけの署名で終わらせてはいけないと思いました」。
 柴田さんは署名用紙をコピーして団地の80世帯に配布。高齢者も読みやすいよう、請願趣旨に沿った独自の呼びかけ文を添付し、1週間で43筆も集めた。
 15歳で終戦を迎えた柴田さん。東京大空襲の時は地方の親族宅に身を寄せていたが、生まれ育った北区の自宅を焼失した。
 「ひとたび戦争が始まれば、兵士以上に多くの民間人が虐殺される。戦争の準備を許すことはできない。軍拡に費やす予算があるのなら、医療福祉に使ってほしい」。
 民医連が100万筆を目標にしていると伝えると、「それなら私も、1000筆目指して頑張ります!」と笑った。

100万の声を国会へ

 10月に発足した高市政権は、OTC類似薬の保険適用外しや病床11万床削減で、医療費を4兆円削減する方針を掲げる。
 人はみな、年を重ね、病を得る。医療と介護が〝崩壊”した未来を生きるのか。誰もが安心して医療と介護を受けられる社会を実現するのか。署名には、私たち一人ひとりの選択が込められている。

 

日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会

お近くの民医連事業所で署名にご協力ください。
署名用紙は全日本民医連のホームページでダウンロードできます。

いつでも元気 2025.12 No.409