MIN-IRENトピックス

2017年11月29日

【新連載】35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤

~スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症、全身症状を伴う薬剤過敏症症候群~

 アロプリノール(ザイロリック錠など)、ラモトリギン(ラミクタール錠など)、カルバマゼピン(テグレトール錠など)、アセトアミノフェン(カロナール錠など)、ロキソプロフェンナトリウム水和物(ロキソニンなど)、メシル酸ガレノキサシン水和物(ジェニナックなど)、レボフロキサシン水和物(クラビット錠など)、メチレンジサリチル酸塩(ピレチア錠など)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン錠など)、セレコキシブ(セレコックス錠など)

 薬剤の副作用としての皮疹はしばしば遭遇します。重篤なものとして,スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群:Stevens-JohnsonSyndrome,以下「SJS」)及び中毒性表皮壊死症(ToxicEpidermalNecrolysis,以下「TEN」)があります。
 また皮疹だけでなく発熱などの全身症状を伴う薬剤過敏症症候群(Drug-induced hypersensitivity syndrome:以下「DIHS」)も重篤な皮膚障害といえます。

1.皮膚障害の鑑別

2.皮膚障害を起こす薬剤
SJS、TENの報告が多かった薬剤 厚労省の医薬品安全性情報No.290より

 当モニターにも直近の5年間でグレード3に分類される皮膚症状を呈する副作用が38症例報告されています。1症例で複数の薬剤が被疑薬となっていますが、アロプリノール(6件)、カルバマゼピン(7件)、ラモトリギン(3件)と厚生労働省の報告と同様の傾向でした。

●アリプリノール
 記事ではアロプリノールの皮膚症状が、用量や血中濃度上昇の原因となる腎機能障害との関連を示唆しています。最近では構造がプリン体(核酸を構成する物質)と類似しており、多彩な副作用症状の原因ではないかと考えられています。

副作用モニター情報〈357〉 アロプリノールによる薬剤過敏症症候群 重篤な副作用に注意 
 アロプリノール(高尿酸血症治療剤)による副作用については、2009年5月に腎機能低下時の投与と、副作用症状の関連で取り上げています。その後もこ の薬剤による副作用報告は多く、昨年度も薬剤過敏症症候群(DIHS)が疑われる症例が4件、また過敏による皮膚症状が16件、そのほか腎機能障害、急性 間質性腎炎などが当モニターに報告されています。注意喚起の意味で、このコーナーで改めて取り上げることにしました。
 特に、DIHSとして報告された症例の共通点として、投与量が1日100mg、服用開始から副作用発現までが約1カ月、また薬剤中止から皮疹の消退まで 2週から1カ月を要していることなどがありました。もともと腎機能低下がみられた症例も1件ありました。DIHSについては本年2月に取り上げておりますが、高熱と臓器障害を伴う薬疹で、限られた原因薬剤として、抗てんかん薬などとともに、アロプリノールもあげられています。
 アロプリノールの薬剤自体の構造がプリン体に類似していることが、多くの副作用発現に関わっていると指摘されています。基本的には、服薬開始後の紅斑、高熱、咽頭痛などの初期症状に注意が必要です。
 なお、2010年度、医薬品副作用被害救済制度における、アロプリノールによるDIHSでの医療費・医療手当支給決定は10件でした。
(民医連新聞 第1506号 2011年8月15日)

●カルバマゼピン
副作用モニター情報〈456〉 抗てんかん薬カルバマゼピンによる皮膚障害
 部分てんかん発作に対して新規抗てんかん薬の使用が拡大しています。しかし、日本神経学会のてんかん治療ガイドラインでは、カルバマゼピン(商品名:テグレトールなど)が第一選択薬とされています。この薬剤は三叉神経痛をはじめとする神経障害性疼痛にも古くから使用されてきました。
 カルバマゼピンによる皮膚障害は当モニターにも多く報告されています。周知の副作用ですが、重症薬疹に進展する場合もあります。厚労省の副作用報告数でも、カルバマゼピンは、中毒性皮膚壊死症、皮膚粘膜眼症候群、薬剤過敏症候群などの重症皮膚障害の報告がアロプリノールと並んで多い薬剤です。
症例)女性。耳下腺腫瘍切除後の神経痛に対して、星状神経節ブロックを行い、カルバマゼピン200mg/日、アミトリプチン10mg/日投与。開始11日目に発熱あり、13日目には39℃に上昇。14日目に中止し一旦解熱するも、20日目に再度発熱し腰部に掻痒感を伴った皮疹が出現。24日目、皮疹が全身に広がり入院。内服薬は全て中止し、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム注40mg/日、ファモチジン注20mg/日、ステロイド外用剤にて治療開始。25日目、体幹部にはほとんど正常皮膚が見られないほど全身に癒合した紅斑が出現し、熱感あり。水疱なし。体温は36~37℃台前半。軟口蓋に発疹。咽頭発赤軽度。その後、ステロイド薬ベタメサゾンを投与し一進一退がありながら、紅斑にやや改善が見られた38日目、クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏を追加処方。薬剤によるリンパ球刺激試験を施行すると、カルバマゼピンが陽性であった。その後、ベタメサゾン漸減し症状は徐々に軽快。66日目、ベタメサゾン内服終了(一部省略。商品名は一般名に変更しています)。
 これは薬剤過敏症候群が疑われる症例でした。発症すると死亡や、障害が残る場合もあり、長期にステロイド治療が必要です。初期の対応も重要で、発熱や皮疹の訴えがあれば原因が明確な場合を除き、すぐ薬剤を中止し適切な処置を行うことが必要です。
(民医連新聞 第1618号 2016年4月18日)


●ラモトリギン
副作用モニター情報〈376〉 ラモトリギン錠(商品名ラミクタール錠®)による皮膚障害について
 ラモトリギン錠(商品名:ラミクタール錠)は、2008年10月にてんかん治療剤として承認され、2011年7月に双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制の効能・効果が追加になった薬剤です。
 添付文書では、販売開始時から「警告」をはじめ「重要な基本的注意」「重大な副作用」で、皮膚粘膜眼症候群及び中毒性表皮壊死融解症などの重篤な皮膚障 害に関する注意喚起がされています。とくに皮膚障害の発現率は、投与8週間以内が高く、バルプロ酸ナトリウムと併用した場合や、小児に定められた用法・用 量を超えて投与した場合に高いことが報告されています。バルプロ酸ナトリウムとの併用では、ラモトリギン錠のグルクロン酸転移酵素による代謝が競合され、 半減期が約2倍に延長することが知られています。
 これまで全日本民医連副作用モニターに報告されたラモトリギン錠による副作用は6件で、発疹の副作用は4件でした(皮膚粘膜眼症候群グレード3の症例1 例を含む)。いずれも投与1カ月以内での発現で、3例はバルプロ酸ナトリウムとの併用でした。中には、過量投与により疑義照会したにも関わらず、用量が変 更されず、皮膚障害が発現した症例もありました。
 また、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に、08年12月~11年11月までに報告された副作用は、重篤な皮膚障害が397例で、用法・用量が確認された251例のうち6割を占める152例で、承認された用法・用量から逸脱した使用での重篤な皮膚障害が発現していました。このため、厚生労働省は、今年1月に「医薬品・医療機器等安全性情報・第287号」を出し、医療従事者への注意喚起の徹底を求めました。メーカーも昨年12月から、注意喚起の文書を直接配布しています。
 ラモトリギン錠を投与する場合は、併用薬剤に注意しながら、用法・用量を順守し、増量時でも用量超過にならないよう、とくに皮膚障害に注意しながら投与 することが必要です。あわせて、患者への皮膚障害に関する服薬指導の徹底もお願いしたい。
(民医連新聞 第1528号 2012年7月16日)

●総合感冒剤
 厚生労働省には、一般用医薬品でも総合感冒薬においてSJS,TENが多く報告されています。頻度が高いとされるNSAIDsを含有しています。またウイルス感染が発症の原因との一つとされており、単独、相互に関連した発症なども考えられます。当モニターにも報告があり記事として掲載されています。

副作用モニター情報〈386〉 総合感冒剤と薬疹
 総合感冒剤の医療用製剤は、抗ヒスタミン剤に加え、いずれも2種類の解熱鎮痛剤、NSAIDsのサリチルアミド(アスピリン類似)と非NSAIDsのアセトアミノフェンが9:5の比率で配合されています。市販薬では、ACE処方と銘打って、サリチルアミドの代わりに、その前駆体であるエ テンザミドを配合した商品もあります。
 2002年からの10年間で、総合感冒剤を使用した後のじんま疹や湿疹などの皮膚症状が、当モニターに98件報告されています。抗生物質やNSAIDs と併用されているなど他の薬物も被疑薬と考えられる症例、ウイルス感染との鑑別が難しいとされる服用当日の発症例が目立つのですが、抗ヒスタミン剤も配合 されているため一定のアレルギー反応は抑えられることを考えると、総合感冒剤を唯一の被疑薬とするには判断に迷うケースです。
 この1年間の総合感冒剤使用後の皮膚障害は14件と発生割合は大きく変わりませんが、抗菌剤との併用は3例、NSAIDsとの併用は0例、と圧倒的に少 なくなりました。処方検討がすすんだ結果でしょう。Ⅳ型アレルギーでT細胞関与が多いとされる服用開始後3日目くらいに発症した症例は、手のひらの湿疹、 顔面銭型固定疹、紫斑型薬疹、口腔咽頭粘膜障害、の4例でした。
*     *
 配合剤である総合感冒剤はアセトアミノフェン単独製剤に比べれば、ウイルス感染時にはスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)をはじめとする皮膚関連の有害作用に遭遇するリスクが高くなります。

(民医連新聞 第1540号 2013年1月21日)抜粋

 ウイルス感染自体が発症原因となることもあるとされていますが、薬剤の相加作用を示唆した記事も掲載されています。ピボキシル基は薬品の吸収をよくするためにつけられる構造ですが、小児において重篤な低カルニチン血症に伴う低血糖症,痙攣,脳症等の原因になるとして近年話題となっています。当モニターでは皮膚症状への関与も示唆しているのではと指摘しました。

副作用モニター情報〈345〉 手足口病後のスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と薬剤の関与
 ウイルス性疾患に対する非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の投与、および二次感染予防のための抗生物
質投与の是非を、次の症例を通じて考えてみたいと思います。
【症例】30代男性。咽頭痛、手足の発疹、左頸部のしこりが出現。4日後にA皮膚科を受診、手足口病と診断されPL顆粒を処方された。その2日後にまた発疹が出現し、 B耳鼻科を受診、抗生物質セフジトレンピボキシル(CDTR-PI)錠とメチルプレドニゾロン錠を処方された。その日の午後に、今度はC病院を受診、ウイ ルス感染による発疹と診断され、d-クロルフェニラミン錠とロキソプロフェン錠(NSAID)の追加処方をうけて帰宅した。
  翌日15時ごろから呼吸困難と発疹増悪にてC病院を受診、入院。CDTR-PI錠はこの日の朝までに3錠を服用していた。口腔粘膜浮腫、びらんによる痛みがあり、眼球は充血。顔面と頭部以外の全身に強いかゆみを伴う発疹あり。CDTR-PI服用によるSJSと診断された。
  SJSの発症機序は確定していませんが、ウイルス感染のほか、薬剤の投与、特に、NSAIDsや抗生物質、抗てんかん薬が原因として挙げられています。 手足口病は、主にコクサッキーウイルスA16型に感染して発症するウイルス性疾患です。当モニターでは以前、ピボキシル基を持つ抗生物質に皮膚障害を起こす症例が目立つことを取り上げましたが、本症例もこれにあてはまります。また、ロキソプロフェンの関与も否定できません。
  本症例は、SJSの原因とされる条件が3つ揃いました(ウイルス感染、NSAID、ピボキシル基を持つ抗生物質)。筆者は以前、18歳男性が手足口病で アスピリンとセフテラムピボキシル錠を服用し、SJSを発症したケースに遭遇しています。15歳以下では、ライ症候群の危険があるため感冒に対してアスピリンなどNSAIDsは処方できませんし、インフルエンザに対してもジクロフェナクやメフェナム酸は原則禁忌です。ウイルス性疾患に抗生物質は不要です。
  本症例を検討すると、手足口病にもNSAIDsを使うべきではないと考えられます。同様の症例が埋もれていないかも気がかりです。
(民医連新聞 第1492号 2011年1月24日)

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 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

 

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