健康・病気・薬

2017年11月24日

【新連載】34.アナフィラキシーショックと薬剤

 造影剤、抗生剤(抗生物質、抗菌剤、抗ウイルス剤、ピロリ除菌合剤含む)、非ステロイド鎮痛消炎剤、抗がん剤によるアナフィラキシーショック

 アナフィラキシーは、アレルギー反応のうちで全身に激しく症状がでるものをいいます。その中でもアナフィラキシーショックは大きく血圧が低下し生命にかかわるものです。
 当副作用モニターにも多くのアナフィラキシー、アナフィラキシーショックが報告されています。直近の5年間では、アナフラキシー、アナフィラキシーショックの報告は126症例に上っています。
 報告数で多い薬剤は抗生剤(抗生物質、抗菌剤、抗ウイルス剤、ピロリ除菌合剤含む)(37件)、造影剤(21件)、非ステロイド鎮痛消炎剤(13件)、抗がん剤(16件)でした。
 この項ではアナフィラキシーショックを中心に検討していきたいと思います。

■造影剤
 造影剤のアナフラキシーショックは経験することが多く、医療機関内で発症する場合がほとんどですので速やかに対応が行われますが命を落とした報告もありました。
 症例1
 60歳代男性。胆嚢内結石症の術前検査のためイオトロクス酸メグルミン注射液(商品名ビリスコピン)施行。投与開始3秒後、気分不快(症状出現)となり医師による診察。その最中に眼球上転し、心肺停止となったため心肺蘇生開始。6回目の蘇生で心停止となり電気的除細動。その後PCPSを挿入し、冠動脈(心臓)カテーテル検査施行。心停止に至る所見は無し。ICU入室し低体温療法を開始。高度の循環血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)のため生食、アルブミン大量投与。血圧維持にアドレナリン、ピトレシン、ノルアドリナリン使用。その後も血圧保てず、大量補液により貧血進行、凝固異常も認める。消化管出血も出現。徐脈進行。PEAとなり呼吸停止確認、対光反射消失確認、心停止確認。
 この症例は心筋梗塞後で、βブロッカーを少量投与されていました。アドレナリン投与に対して反応が悪かった一因と考えられます。
 初回投与時よりも重篤な反応が出現することも特徴です。毎回少しの有害事象も見落とさずチェックしておく必要があります。
 症例2
 80歳代女性。前回、オイパロミン施行時注入約30秒後からクシャミ頻発の経過あり。
 10:15 CT撮影のため造影剤(オイパロミン300、2.5mL/秒、80mL)注入。30秒ほどしてくしゃみあり。意識クリア、呼吸苦、気分不快なしのため撮影実施。終了後の血圧110/触mmHg。車椅子でCT室に来たが、念のため横になったまま戻ることとしベット移乗。この時会話はできたが、ベッドに移乗した時から呼吸状態変化あり、意識レベルIII-3、泡沫状の流涎、四肢チアノーゼ。呼名に反応無し、開眼無し。
 10:26 直ちに、下肢挙上し、アンビューにて換気、口腔内分泌吸引。ソルラクト500ml点滴前回、サクシゾン400mg静注施行。このとき、鼠径動脈・内頚動脈とも蝕知、血圧50/33mmHg。
 10:28 呼名に反応あり、指示動作も出来る。血圧83/49mmHg
 10:40 意識清明。吐気無し、無呼吸無し。血圧104/72mmHg 11:30 気分不快なし、呼吸苦なし。意識清明。下肢~下腹部に発赤・かゆみあり。翌日には消失。

○副作用モニター情報〈218〉 造影剤によるショック・過敏症に注意 問診で過去履歴の確認を

 検査で使われた薬剤の副作用報告が10例あがりました。うち非イオン性造影剤が関与するものが6例です。下記3例は、アレルギー・副作用の履歴がありました。
(症例1)50歳代女性、オイパミロンによるアナフィラキシー
(症例2)70歳代男性、モイオパークによる全身紅潮・掻痒感
(症例3)60歳代男性、オイパミロンによる薬疹
 このうち症例1は問診でアレルギー歴がありましたが、検査の重要性と処置の対策を説明し、患者も同意して使用した症例です。症例2、3は過去に造影剤の副作用歴がありました。
 造影剤の副作用は皮内テストで確実に予防できない、判断できない、という理由でテストアンプルが添付されなくなって約10年たちます。(1)問診による リスクの把握、(2)必要な場合は少量注入し十分な経過観察を行ったのち、検査を実施、(3)救急時の対策を講じて施行する、ようになりました。
 問診でアレルギー歴・喘息の有無を確認するのはこれらの患者がハイリスク群だからです。しかし患者がそれを認識していなければ、危険は回避できません。 情報は医療者間だけでなく患者とともに共有しましょう。また、造影剤を使用する検査について上記にそった安全確保ができているか再度点検をすすめましょう。

(民医連新聞 第1351号 2005年3月7日)

■抗菌剤・抗ウイルス剤
 ニューキノロン頻度も高く(9件、うちレボフロキサシン6件)また、セフェム系薬剤(18件)ではセファクロル(商品名ケフラールなど)が6件(4例が歯科からの処方)あり、目につきました。医療機関間での連携でより安全な抗菌剤への変更が望まれます。
 症例1
 歯科にて抜歯。ケフラールカプセル処方される。
 20
時頃 帰宅後ケフラール1カプセル服用した後、10~20分程度で全身かゆみ。嘔吐・めまい・熱感など出現し救急要請
 20
時40分頃 病院到着、JCS-Ⅱ、BP132/80。リンデロン注、ラニチジン注、ポララミン注にて治療開始
 22
時30分頃 HCUへ入院、JCS-I、BP122/66 2012/12/24 全身の発赤・痒みなし。BP124/63 2012/12/25 酸素・モニターoff SpO2 94%  BP110台
 3
日後 軽快退院
 症例2
 歯科の薬ボルタレン、ケフラールを昼食後内服、40分後、全身蕁麻疹、嘔気、意識消失
 S
大病院に救急搬送、薬剤アレルギー(アナフィラキシ-ショック)と診断。搬送時 血圧54/20。
 症例3
 歯茎腫れ、歯科医受診。被疑薬処方となる。(以前にも服用歴ある方。一ヶ月前に3日間、3週間前に3日間) 同日13時、被疑薬内服。14時ごろトイレで意識消失しているところを発見され救急搬送。救急車到着時脈触れず。全身発疹あり、血 圧110/80.アナフィラキシーショックではないか疑い、点滴、注射投与。 15時30分、落ち着く。
 症例4
 前日に歯科医で処方されたケフラール250mg1CP服用1時間後、悪寒、嘔吐、下痢、顔面発赤の症状をきたし救急搬送される。 生食500ml、ポララミン5mg投与後も2時間経過時点で症状おさまらず、アドレナリン0.1%3cc筋注。 生食500ml、ソルラクトを追加、ファモチジン20mg、リンデロン8mg静注。症状回復。WBC:7800 中止1日後:WBC:16000 ファモチジン、リンデロン、ポララミン継続。 中止2日後:WBC:12900 退院される。※3年前も歯科医でケフラールを処方され服用後に嘔吐、中止した経緯あり。

 抗生剤でのアナフラキシーが多く報告されていますが、皮内テストでは予防できないとして2004年に皮内テストが廃止となりました。皮内テストで陽性となり他剤へ変更する事例もあったことから当時廃止を危惧する声も上がりました。十分な問診と施行中、施行後の観察が最も重要であることは言うまでもありません。

○副作用モニター情報〈251〉 抗生剤による重大なアレルギー反応を予防するために
 抗生剤のアナフィラキシーショック対策に関して、添付文書が改訂されて2年が経過しました。十分な問診と開始後の観察、ショック対策が重要視され、皮内反応テストは廃止になりました。この間に副作用モニターに寄せられた、抗生剤によるショックおよびアナフィラキシー様症状の症例から再度、安全対策を考えてみました。04~05年度の2年間にこれに関して全部で7件のモニター報告がありました。
 中には問診で防ぐことができたと考えられる事例もありました。しかし、数回の使用歴があっても発現した事例もあります。初回から感作に必要な期間 (5~7日以上)をおいての2回目使用は、いっそう注意が必要です。内服の場合は、医療者のいない時間や場所で服用する機会が多いため、服用開始が1人の 時間帯にならないようタイミングも含めて、十分な説明をする必要があります。

〔事例1〕クラビット錠(経口)
 眼瞼浮腫・呼吸困難。帰宅後に内服し、10分後に発現する。酸素吸入で改善する。4カ月前に近医で同薬を処方され服用後、眼瞼浮腫・咽頭浮腫症状あり。
〔事例2〕ミノマイシンCap(経口)
 顔面腫脹・息苦しさ。服用後に就寝。3時間後に症状に気づく、救急外来受診。2時間後に改善。ケニセフ点滴注射6時間後に服用した。
〔事例3〕クリレールCap(経口)

 アナフィラキシー。服用した1時間後に発現。救急外来受診し、処置を受け改善。1カ月前に処方されたものを服用した。
〔事例4〕バナン錠(経口)
 アナフィラキシー。内服した10分後に発現。入院治療を受け、翌日退院。7年前に他医にて処方されたロセフィンでショック歴があった。
〔事例5〕スルペラゾン注(点静)
 アナフィラキシー。30分かけて点滴静注。5~10分後に発現。2時間半後に回復。使用歴は不明。
〔事例6〕セファメジンα注(静注)
 ショック。静注の直後は異常なし。5分後、意識消失状態で発見される。昇圧剤、ステロイドにて20分後に回復。数回の使用歴があった。
〔事例7〕塩酸バンコマイシン注(点静)
 ショック。静注開始5分後、ショック状態になり挿管、ICU管理。翌日に回復。長期間、使用していなかったが2回目の使用だった。

(民医連新聞 第1386号 2006年8月21日)

■抗がん剤
 当モニター報告では、オキサリプラチンの報告が目につきました。添加物でタキサン系の薬剤の可溶化剤によるアナフラキシーショックが有名ですが、複数回施行後に発現する事もあり注意が必要です。

○副作用モニター情報〈385〉オキサリプラチンによるアナフィラキシーショックの副作用について
症例)50代男性。下行結腸がんにて左半結腸切除術後、 局所高度進行がんのため、FOLFOX療法開始(全6回施行)。血小板減少、末梢神経障害出現のため、FOLFIRI療法(エルプラットのかわりにカンプト注Ⓡ使用)に変更し、13回施行。再度、FOLFOX療法開始(累計8回目)。前処置として、ステロイド剤、H1・H2ブロッカー投与。エルプラット注Ⓡ投与開始15分後、「気持ち悪い」と訴え、全身冷汗、嘔吐(+)、血圧低下(70台)、体温低下(35.5℃)、脈拍60回/分、 SpO290%のため、投与を中止し、補液・乳酸リンゲル液(ソルラクトⓇ)を開始し、ステロイド(ソルメルコートⓇ)200mg投与。15分後 症状改善した。

 過敏症状を起こした症例はいずれも、FOLFOX療法→FOLFIRI療法→FOLFOX療法・XELOX療法(ゼローダⓇとの併用)・SOX療法(TS-1Ⓡとの併用)に切り替えた際に発現していました。
 エルプラット注Ⓡのアナフィラキシーの発現の特徴として、5回目以降(中央値7回目)に発現しやすく、繰り返し投与することで、発現が増加することが知られています。アレルギー防止目的の前処置を行っていても発現することがあるため、投与中の観察を十分に行う事が重要です。エルプラット注の再投与時は、前回療法で何もなかったからと過信せず、とくに注意してください。

(民医連新聞 第1537号 2012年12月3日)

■その他
 アナフラキシーショックに対しては、昇圧や気道の拡張などを目的としてアドレナリンの筋注が用いられます。血圧上昇、循環血液量の確保を目的として補液(生食や細胞外液補液)が行われます。遅発性の反応防止のためステロイド注射液が使用されることがありますが、コハク酸エステル型のステロイド注射液(商品名 サクシゾン、ソル・メドロールなど)はアレルギー反応を誘発する場合があるので注意が必要です。

○副作用モニター情報〈406〉 アレルギー素因のある患者へのステロイド注射薬投与の注意点
 コハク酸エステル型のステロイド注射薬(サクシゾンⓇ、水様性プレドニンⓇ、ソル・メドロールⓇなど)は、アスピリン喘息をはじめ、 アレルギー素因のある患者に投与すると、過敏反応を誘発することがあります。17員環のCOONa(⇒COO-)が体内のタンパク質と結合することにより、抗原として作用してしまうことが原因と考えられています。
 副作用モニターには次のような報告が上がっています。
【症例】10歳前後 男児
 学校給食を食べた後に運動し、食後1時間頃からアレルギー症状出現。膨疹および軽度の眼瞼浮腫を認めた。受診し、注射用ソル・メルコートⓇを静注 し、10分後には咳、呼吸苦が出現。酸素投与と吸入により症状消失したが、経過観察のため入院。

  アレルギーのある患者にステロイドを投与する場合には、リン酸エステル型の薬剤(デカドロンⓇ、リンデロンⓇなど)を使用し、コハク酸エステル型の薬剤は使わないようにしましょう。

(民医連新聞 第1560号 2013年11月18日)

 総合感冒剤やアセトアミノフェンでもアナフィラキシーショックが報告されています。市販の総合感冒剤にも同様の成分が含有されています。市販薬で命を落とすこともあるので、販売する薬剤師は販売前に問診をしっかり行い、患者も購入する際はアレルギー歴や副作用歴を申告することが大切です。

■画像提供 山梨民医連
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山梨勤労者医療協会 甲府共立病院 薬局
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**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

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