MIN-IRENトピックス
2019年2月12日
【新連載改訂】43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
バラシクロビル塩酸塩(バルトレックス錠など)、アシクロビル(ゾビラックス錠など)、ファムシクロビル(ファムビル錠など)
2018年2月13日掲載記事を、引き続く重篤な副作用報告を受けて2019年2月12日に更新
帯状疱疹に対して消化管吸収を向上させたバラシクロビルが使用されるようになって当モニターに重篤な腎障害が多数報告され、全日本民医連としてもメーカーに用法用量変更を要請し、その後変更された経過があります。腎機能による用量調節の添付文書改定、当モニターでの警鐘にもかかわらず直近5年間でも、バラシクロビル内服 16件、アシクロビル内服 6件、アシクロビル注射 6件、ファムビル内服 3件の報告が当モニターに寄せられています。
内容は、腎機能障害8件(うち腎不全6件)、中枢神経系の事象(頭痛・発熱含む)8件でした。腎障害はバラシクロビルとアシクロビル点滴に集中(8件/8件)しており、高濃度のアシクロビルの腎機能への影響が示唆されます。バラシクロビルはアシクロビルの吸収をよくするためにアミノ酸のバリンを結合させた構造をしています。消化管から吸収されたあとアシクロビルとなり腎臓から排泄されます。もともと腎機能が低下している場合や、高齢者、低体重、腎血流を低下させる薬剤(NSAIDs、利尿剤など)の服用症例では、用量調節を行う必要があります。重篤な腎障害の報告を受けて、バラシクロビルの用量設定自体が多すぎる可能性があると指摘しました。
◆副作用モニター情報〈415〉 抗ウイルス剤バラシクロビルによる急性腎不全
症例) 80代、女性、体重36kg ヘルペスのため他院でバルトレックス錠500mg6錠・分3、ロキソプロフェンNa錠60mg3錠・分3で内服開始。SCr(血清クレアチニン):0.69、BUN:9.8。
投与4日目に急激な腎機能低下を起こし、紹介入院されてきた。SCr:6.19、BUN:45.7。尿蛋白(+)。CTで腎委縮なしと確認。内服薬はすべて中止。その後透析を2回実施し腎不全、意識障害改善
バラシクロビルは、体内でアシクロビルに変換されるプロドラッグです。経口ではアシクロビルに比べ吸収率が非常に高く、服用量の約54%が体内でアシクロビルに変換されます。
アシクロビルを静脈内投与する場合、体重50kgでは常用量750mg/日となります。バラシクロビル1日3000mgの服用では、変換量50%で換算すると、約930mg/日のアシクロビルを静脈内投与したのと同じになり、そもそもの投与設計が多すぎました。
アシクロビルによる腎障害は、腎尿細管内でアシクロビル濃度が溶解度を超えたときに結晶化することで起こると考えられています。バラシクロビルを処方する場合は、必ず用量を調節してください。特に高齢者では、血清クレアチニンが低くても体格や年齢を考慮して減量し、腎血流をさせ尿量を減らす恐れのある鎮痛剤を併用する場合は腎血流低下作用が少ないアセトアミノフェンを使用してください。また、血中濃度の急激な上昇を抑えために水分摂取を促しましょう。(一部省略)
(民医連新聞 第1572号 2014年5月19日https://www.min-iren.gr.jp/?p=19526)より改変
腎機能を見る場合eGFR(ml/分/1.73m2)や血清クレアチニンから算出したクレアチニンクリアランスを用いますが、薬剤の排泄能力を見る場合前者は体表面積補正を外す必要があり、どちらも筋肉量が少ない高齢者などの場合は補正が必要です。
上記記事ではバラシクロビルの一日用量3000mgは吸収率とアシクロビルへの変換量からアシクロビル注約930mgに相当すると記しましたが、それぞれの薬物動態※を比較すると、常用量のバラシクロビル3000mgはアシクロビル注射液1500mgに換算されると推定されます。いずれにしてもかなりの用量であることを念頭に置くべきです。
※ゾビラックスR点滴静注用のインタビューフォームでは健康成人に5mg/kg、10mg/kg点滴投与した場合のAUC0→∞は16.1±1.4、29.7±3.6μg.hr/mLであったのに対して、バルトレックスR錠のインタビューフォームでは成人男性500mg、1000mg単回投与時のAUC0→∞は12.74±2.77、22.26±5.73μg・hr/mLと記載有。成人男性の体重を60kgとしてゾビラックス点滴静注用の投与量は300mg、600mgとみなして換算
◆アシクロビル脳症
アシクロビルの中枢神経症状は血中のアシクロビル濃度との関連が示唆されています。また代謝物のCMMG(9Carboxymethomethylguanine)が関与しているとの報告もあります。呂律困難、振戦、幻聴、幻視などの症状が出ます。上記の症例も意識障害が出ておりアシクロビルの関与が考えられます。
ヘルペス脳炎でも同様の症状が出るので用量を増やし、継続してしまう場合もあるので鑑別することが必要です。アシクロビル脳症の特徴は突然発症であること,発熱あるいは頭痛が見られないこと,神経巣症状を欠くこと,髄液所見が正常であることが多い( Rashiq S, Briewa L, Mooney M, Giancarlo T, KhatibR, Wilson FM:Distinguishing acyclovir neurotoxicityfrom encephalomyelitis. J Intern Med 234:507-511,1993)とされています。
添付文書では500mg24時間毎(腎機能、体重又は臨床症状に応じ、クレアチニンクリアランス10mL/min未満の目安よりさらに減量:250mgを24時間毎等考慮となっていますが、日本腎臓病薬物療法学会の指針ではクレアチニンクリアランスが<10ml/分以下では1回投与量を250mg/日にすることが推奨されています。透析中の患者は特に中枢症状に注意が必要です。下記症例は添付文書通りの投与を行ったにもかかわらず中枢神経症状が発現しました。
症例) 80歳代女性 慢性腎不全で透析施行中。
帯状疱疹と診断 バルトレックス錠250mg24時間毎処方
3日後 CKDガイドラインに従い、250mg12時間毎に増量
4日後 AM4時 ろれつ回らず他院へ救急搬送 バルトレックスの影響を疑われた
当院にて通常の透析施行、傾眠傾向、両上肢の脱力、構音障害あり入院
バルトレックスは中止以後通常の透析行い退院となる。
当モニターではバラシクロビルの用量や腎不全患者への投与について再三警鐘を鳴らしてきましたが、2018年度においても報告が続き透析患者に慎重に使用したにもかかわらず重篤症状の発現があり添付文書通りの使用量でも危険であることを再度訴えました。
◆副作用モニター情報〈510〉 くりかえされるバラシクロビルの重篤な副作用~添付文書の記載は適正か?
-前文略-
当モニターに寄せられた109件もの報告には、高齢でも減量されず投与され、急性腎不全や意識障害で緊急入院した事例が多数存在します。今回紹介するのは透析患者で注意深く処方したにもかかわらず意識障害を呈した事例です。
症例)70代男性、体重40kg台、糖尿病、慢性腎不全で週3回透析施行中。
開始日:前日から皮疹あり、帯状疱疹の診断。バラシクロビル250mg/日で開始。
3日目:意識レベル低下、ろれつ困難。頭部CT確認により、明らかな出血なく脳卒中再発は否定的。帯状疱疹は改善傾向。バラシクロビル継続の指示。
4日目:透析中に意識レベル低下、眼球上転、眼振、まつげ反射あり。バラシクロビル中止。随時血糖122mg/mL。食事量低下。糖注10%500mL補液。
中止1日目:食事量低下継続、意識レベル改善傾向。
中止2日目:意識レベル不安定。
中止3日目:意識レベルほぼ回復。
* * *
バラシクロビルの処方には、患者の状況に応じた細やかな用量の調整が必要であることを再度訴えます。調剤時、腎機能が不明の場合は、疑義照会でクレアチニンクリアランスを確認しましょう。同時に、比較的副作用報告が少ない(おそらく用量設定が適切な)ファムシクロビルに切り替える、腎不全の場合はアシクロビルへの変更も考慮すべきです。
(民医連新聞 第1685号 2019年2月4日https://www.min-iren.gr.jp/?p=37039)
◆ファムシクロビル
ファムシクロビルは、2008年に承認された抗ヘルペス薬で比較的新しく、当モニターへの報告数も少なく傾向はわかりませんが、バラシクロビル同様に吸収率を向上させたプロドラッグです(活性代謝物はペンシクロビル)。
ファムシクロビルの当モニターへの報告は痙攣、胃痛、嘔気でした。
症例)ファムシクロビルによる痙攣
90歳代女性 体重52kg 血清クレアチニン 0.74
もともと脳梗塞やてんかんなどの既往はなし。
帯状疱疹発症し、近医皮膚科にてファムビル500mg/日開始。
開始4日後 朝食後眼球上転、四肢痙攣様発作が30秒程出現、1分後に自然回復。発熱なし。痙攣は1回のみ。以後傾眠傾向。
開始5日後担当医が往診。もうろう状態が続くため紹介受診。痙攣精査のため入院。来院時JCSⅡ-10。開眼しているが、問いかけに対する返答遅い。頭部CT萎縮はあるが明らかな脳出血、巨大脳梗塞は否定的。ファムビルの処方量は概ね適正と考えられたが高齢でもあり過量服薬overdoseの可能性は否定できない。血中濃度測定を依頼。ファムビル中止。補液施行
中止1日目 脳波異常なし
中止2日目 反応良くなっており、普段通りに回復。
中止7日目 退院。
*血中濃度測定値 ファムシクロビル1.02μg/mL(活性体ペンシクロビルとしての値)
以前よりメマンチン服用。(メマンチンは痙攣を誘発するとして痙攣の既往には禁忌となっているため併用により痙攣が起こりやすくなっていた可能性)
アシクロビルが高濃度になると尿細管で結晶化し腎後性の腎不全の原因となることを考慮すると、用量が約半量であるファムシクロビルは、血中濃度も低く推移する可能性があり、当モニターに腎不全の報告がないのはこのためかもしれません。(下表参照)ただし、宿主細胞内(神経細胞)での半減期はアシクロビルに比し長いため精神神経症状などの副作用が発現しやすくなる可能性が考えられるので注意が必要です。
■画像提供 奈良民医連 一般社団法人奈良保健共同企画
http://www.aoba-pharmacy.com/
■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/
■「いつでも元気」くすりの話し一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=26
■薬学生の部屋
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/index.html
**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
*タイトルをクリックすると記事に飛びます
1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
40.抗結核治療剤の副作用
41.抗インフルエンザ薬の副作用
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
■掲載過去履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28
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