健康・病気・薬
2018年2月27日
【新連載】48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
イベルメクチン(ストロメクトール錠など)、フェノトリン(スミスリンローションなど)
疥癬診療ガイドライン(第3版)では、第一選択薬としてフェノトリン・イベルメクチンが本邦では位置づけられています。通常疥癬は、フェノトリンを第一優先順位としイベルメクチンを次に位置づけています。角化型疥癬(ノルウェー疥癬)では、フェノトリン・イベルメクチンのいずれかあるいは併用が位置づけられていますが、爪疥癬ではフェノトリンの塗布が必要です。なお、欧米では、ペルメトリンが第一選択薬としてなっておりイベルメクチンは第2選択薬(米国)あるいは角化型疥癬のみの適応(英国)などとなっています。疥癬の集団発生では、通常疥癬は感染力が弱いため、施設内での特別な予防策は必要ではなくフェノトリンの塗布での対応を行います。角化型疥癬では個室管理としてフェノトリン・イベルメクチンのいずれかあるいは併用となりますが医師の指示に従って対応します。集団的な予防治療については、治療のメリット(集団発生を収束できる可能性、潜伏期の場合に治癒する可能性など)とデメリット(費用負担、過剰治療、副作用の可能性など)について検討が必要です。
副作用モニター情報〈266〉 (寄生虫駆除剤)による貧血
イベルメクチン製剤「ストロメクトール錠」による貧血の副作用が報告されました。
報告では、6mgを1回目から2週間おいて2回目を投与。その2日後の血清ヘモグロビン値は10.0g/dLでした。12日後には5.8g/dLまでに 低下。輸血を行うと11.4g/dLに回復しました。BUN値が35g/dL、血清クレアチニン値が2.1g/dLなので腎性貧血もあったと考えられますが、出血・溶血がなく、進行が急激であり、本剤の副作用と考えるのが妥当だと思います。
動物実験で肝クッパー細胞の色素沈着と脾臓肥大が認められています。ここに鉄が取り込まれたため造血器への鉄の供給が減少、腎性貧血も加わり貧血が表面化したと推測します。10日間に溶血性貧血を起こした可能性も否定できません。
脂溶性で、体内に長くとどまるため、1回目の投与ですでに影響が出ていたようです。ほかにプロトロンビン時間延長の副作用も知られて、4週間持続したとの報告があります。
適応症に疥癬が追加されたので、病院だけでなく、老人保健施設などの高齢者施設で使用されると予想されます。本剤を投与される際は、血液検査を意識的にして下さい。
(民医連新聞 第1402号 2007年4月16日)
副作用モニター情報〈467〉 イベルメクチンと薬物性肝障害
イベルメクチン(商品名:ストロメクトール錠)は、寄生虫を駆除する薬です。2015年のノーベル賞で話題になりました。日本では疥癬(かいせん)の治療にも使われ、1回ないし2回服用します。肝障害の副作用が当モニターに報告されています。
症例)40代男性。体重68kg。開頭術後。アレンドロン酸、アムロジピン、ST合剤、プレドニゾロン、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、ラモトリギンを服用中。回復期リハビリ病棟で通常型疥癬と診断され、オイラックスクリームとスミスリンローションで治療開始。1回目、ストロメクトール錠3mgを5錠服用。2回目は7日後、同量服用。その3日後、倦怠感、食欲不振、吐き気が出現。血液検査でASTが465IU/L、ALTが791IU/Lで、薬物性肝障害と判明。8日後には改善傾向になり、26日後には回復、疥癬の治療も成功した。
この症例を含め、当モニターに報告されているのは薬物性肝障害2件、発疹2件、貧血(溶血性ではない)と血小板減少が各1件でした。いずれも、初回か2回目の服用から2~3日後に発症し、回復まで3~4週間かかっています。
なお、2016年9月までに医薬品医療機器総合機構に集積された副作用報告は合計122例。薬物性肝障害は31例でしたが、原因によらない死亡41例のうち、何らかの肝障害を発症していたのは10例でした。ひとたび薬物性肝障害を起こすと、死亡に至る危険が非常に高いことがうかがえます。また、食欲減退や痩せが進行したケースでは3例が死亡。栄養状態が予後を左右する可能性もあるので、食欲不振や全身状態の悪い患者にも慎重な観察が求められます。
高齢者の場合は特に注意が必要です。高齢者の入所施設で疥癬の発生が判明した際は、すでに施設内にまん延しており、コントロールが困難な場合があります。同剤を一度に多数の高齢者に投与せざるを得ない状況になる恐れがあります。
投与は、肝機能の評価や患者の状態に基づき実施するなどの工夫が必要でしょう。
(民医連新聞 第1630号 2016年10月17日)
■画像提供 山梨民医連
http://www.yamanashi-min.jp/2016_yakuzaishi-bosyu/HTML5/pc.html#/page/1
■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/
■「いつでも元気」くすりの話し一覧
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■薬学生の部屋
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**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み *タイトルをクリックすると記事に飛びます>
1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
40.抗結核治療剤の副作用
41.抗インフルエンザ薬の副作用
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
44.薬剤性肝障害の鑑別
45.ST合剤の使用をめぐる問題点
46.抗真菌剤の副作用
47.メトロニダゾールの副作用
■掲載過去履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28
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