MIN-IRENトピックス

2018年2月16日

【新連載】44.薬剤性肝障害の鑑別

肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、混合型

 経口で服用する薬剤は、腸管から吸収され、肝臓に到達します。多くの場合肝臓を通って血流にのって全身に運ばれます。全身循環から回収された薬剤も肝臓で代謝され胆汁とともに腸管排泄されたり、腎蔵で濾過され尿中に排泄されたりします。このような役割を担う肝臓ですから薬剤の濃度も高くなり、薬剤の影響を受けやすくなります。
 肝細胞は代謝酵素をたくさん含んでいて障害を受けると血中に出てきます。肝障害の指標となるALT (アラニン・アミノトランスフェラーゼ)、AST(アスパレート・アミノトランスフェラーゼ)はそのような酵素なのです。以前はGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)、GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)と呼んでいました。また肝臓で産生された胆汁は胆管を通って消化管に排出されますが、薬剤によって胆管に障害が起き胆汁が通りにくくなったり漏れやすくなったりすると胆汁の成分であるALP(アルカリホスファターゼ)やγGTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)が血中に出てきます。薬剤性肝障害は自覚症状の他にこのような検査値異常で発見されることがあります。
 薬剤性肝障害は、中毒性のものと特異体質性のものがあります。前者は薬物自体、またはその代謝産物が肝毒性を持ち、用量が増えるほど障害が出やすくなります。抗がん剤の一部、アセトアミノフェンなどが代表的な薬剤です。後者は「アレルギー性特異体質」によるものと「代謝性特異体質」によるものに分類され、薬物性肝障害の多くはこれにあたります。
 アレルギー体質によるものは予測不可能ですが、1回目の投与では発症までに期間を要する場合があるので必ずしも直近に開始となった薬剤が被疑薬ということにならないので注意が必要です。中毒性のものでも過量投与だけでなく蓄積で起こる場合もあり発症に時間がかかる場合もあります。特異体質性のものは薬物を代謝する酵素の量や活性度が低い場合に起こるため常用量でも発症します。
 ALT/ASTが上昇する場合は肝細胞障害型で、ALP/γGTPが上昇する場合は胆汁うっ滞型とされます。これらの混合型も見られます。下記の式で分類を行い、鑑別にはDDW-J 2004薬物性肝障害ワークショップのスコアリングhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/5/104_991/_pdf
によって薬剤性肝障害の可能性を判定します(「日本内科学会雑誌」第104巻第5号)

 当モニターに報告された症例で検討してみましょう・
 症例1
 60才代女性 体重42kg
 帯状疱疹神経痛に対してリリカ75mg分2(朝50mg夕25mg)、カロナール1600mg分4、レバミピド300mg分3内服開始。
 投与14日後  リリカ100mg分2に増量。 投与35日後  痛み軽減されたが眠気の訴えあり。リリカ50mg分2、カロナール1200mg分3に減量。
 投与42日後  全身倦怠感、食欲不振あり外来受診。眼球結膜黄染あり。 (投与中止日) (AST:1773 ALT:1666 LDH:539 ALP:543 γ-GTP:339 t-Bil:5.9)と肝障害で入院。        内服薬すべて中止。HBe抗原、HBe抗体すべて陰性。ウイルス性は否定的。        ソルアセトF500ml点滴。 内服薬すべて中止。
 中止1日後   (AST:1444 ALT:1435 LDH:425 ALP:532 γ-GTP:315 t-Bil:6.8)
 中止2日後   5%ブドウ糖500ml点滴開始。
 中止3日後   (AST:627 ALT:903 LDH:279 ALP:463 γ-GTP:283 t-Bil:7.7)
 中止8日後   黄染軽減。 中止20日後  5%ブドウ糖500ml点滴終了。
 中止22日後  (AST:71 ALT:85 LDH:169 ALP:238 γ-GTP:147 t-Bil:2.0)
 中止23日後  退院。 中止28日後  肝生検(血小板低いためITPとの判別)

 ALTの基準値は測定法によっても若干のちがいがありますが、上限は35程度ですのでALT/Nは50程度、ALP/Nも正常値上限よりも高値ですが、ALT比/ALP比が>5となるので肝細胞障害型に分類されます。胆汁うっ滞型の特徴である眼球黄染が見られたのは肝障害の程度が高度であったためと考えられます。報告に、スコア判定に必要な項目の記載がないものもあるため正確には判定できませんが、少なくとも5点以上と予想されるので薬剤性の肝障害である可能性が高いと判定されます。

 症例2
80才代男性。 腰胸椎圧迫骨折にてトラマール25mgを1日4回服用
入院104日前 腰胸椎圧迫骨折にてトラマールカプセル・ノバミン錠開始
ADL低下・食欲不振・背部痛・肝機能異常にて当院入院 肝機能異常あり、定期内服以外で直近に開始された、トラマールカプセル・ノバミン・カロナール・クエチアピン中止
【確定試験】トラマール LST:+ 202% ※
主治医の意見 トラマールのみDLST+だが、DDW2004にてトラマール9点・ノバミン7点・クエチアピン8点だった
 ※4型アレルギーの場合はLSTが有効とされている。

 この場合は胆汁うっ滞型肝障害と判定。主治医がスコアリングを行っており薬剤性の肝障害の可能性が高いと判定されました。

 

症例3
30才代女性。体重27kg 肺炎にてバクタ配合顆粒0.75g 1日2回服用
バクトラミン投与開始時の肝機能値AST17、ALT13、LDH169
投与終了直後(1週間後)肝機能値が上昇 AST584、ALT257、LDH415、ALP1223 投与終了7D後の肝機能値AST31、ALT55、LDH148、ALP933、LAP120 投与終了21D後の肝機能値AST19、ALT14、LDH142、ALP483、LAP69 と、時間の経過とともに徐々に平常値に戻っている。

 この症例は、混合型と判定されました。不明の項目は入力せずスコアを出すと5点となり、薬剤性である可能性が高いと判定されました。

 多剤を服用されている場合も多く、どの薬剤が疑わしいかを判定するのに役立つスコアリングと考えられます。服用期間が長く、除外した薬剤でも実は被疑薬である場合もあります。また、薬剤性に見えてももともと肝臓疾患があり感染などを契機に上昇した可能性が高いと推定される場合もあるでしょう。報告する場合にはスコアを記入するようにしましょう。

■画像提供 奈良民医連 一般社団法人奈良保健共同企画
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 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

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  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
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  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
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  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
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  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
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  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
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  38.漢方薬の副作用
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  41.抗インフルエンザ薬の副作用
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■掲載過去履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

 

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