健康・病気・薬

2018年3月5日

【新連載】50.総合感冒剤による副作用

 総合感冒剤には、非ピリン系感冒剤2(ペレックス配合顆粒)と、非ピリン系感冒剤4(PL配合顆粒、ピーエイ配合錠)の2種類と、それぞれ成分量が6分の1である小児(幼児)用製剤があります。各薬剤の配合成分と配合量は以下のとおりで、抗ヒスタミン剤成分と無水カフェインの含有量に違いがあります。

 サリチルアミドは非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)のひとつで、サリチル酸系製剤とライ症候群との関連から水痘やインフルエンザの患者には原則として投与できません。
 無水カフェインは、抗ヒスタミン成分の眠気をおさえる作用と、血管収縮作用による頭痛の鎮痛補助を期待して配合されています。

 民医連副作用モニターの過去5年間の副作用集計では93件の報告がありました。発疹、掻痒感などの過敏症が43件ともっとも多く、眠気、ふらつき、せん妄、幻覚など精神神経系が22件、尿閉、排尿困難などが9件、口渇や吐き気などの消化器系が7件報告されています。
 重篤度がグレード3の症例は6件報告され、内訳はアナフィラキシーが3件、急性肝障害、急性緑内障発作、血小板減少症が各1件でした。
 重篤度分類でグレード2の症例は31件報告されており、内訳は全身発疹などが13件と最も多く、せん妄、幻覚、不隠、興奮などの精神神経系の副作用が10件、特発性器質化肺炎、喘息発作、呼吸困難などの呼吸器系が3件、肝機能障害が2件、尿閉が2件となっています。

 抗ヒスタミン剤の薬理作用にもとづく副作用は、患者背景に前立腺肥大症や緑内障などがあると重篤化することもあるので注意が必要です。また、アナフィラキシーショク、肺炎、肝障害、喘息発作など、アレルギー反応による重篤な副作用も頻度は少ないと考えられますが報告されており注意が必要です。今回、グレード2で特発性器質化肺炎の報告がありましたが、過去にも注意喚起事例として好酸球性肺炎の症例が取り上げられています。

副作用モニター情報〈238〉 総合感冒剤(PL顆粒®)による好酸球性肺炎

 総合感冒剤が原因と考えられる好酸球性肺炎の症例が報告されました。この肺炎は、発熱、呼吸困難、乾性咳嗽を特徴とする薬剤性肺炎です。なんらかの外的要因による免疫反応が関与すると考えられています。
 本症例では、マイコプラズマ感染が誘因となった可能性もありますが、肺の好酸球浸潤、末梢血好酸球の増加、薬剤のLST(リンパ球刺激試験)陽性反応などから、薬剤性の急性好酸球性肺炎と診断されました。服薬の中止が遅れると重症化する危険もあるため、発症初期での速やかな診断、対応が必要です。

*    *

 (症例)50代男性。発熱があり、近医で風邪と診断され、PL顆粒、フロモックス、ロキソニンが処方された。いったん解熱したが、3日目に再度発熱し、呼吸困難が出現、肺炎と診断され、紹介入院となった。
 入院時所見は39.2℃の発熱、動脈血酸素飽和度95%、努力呼吸あり、胸部X線で肺浸潤、CT上スリガラス状陰影を認め、両側肺野で捻髪音(ねんぱつおん)を聴取した。白血球数10700/mm3、 CRP45.0㎎/dlと高く、抗生剤を開始したが3日後に肺浸潤増悪。臨床所見および薬剤服用の経過から、薬剤性の間質性肺炎、または好酸球性肺炎を疑 い、ステロイドパルス療法を3日間施行した。翌日には肺浸潤が改善し、体温も36℃台まで回復した。パルス療法終了後、退院となった。
 近医から処方された3剤についてLSTを実施したところ、PL顆粒で陽性反応を認めた。マイコプラズマ抗体の上昇も同時に認められたが、特に治療は行わず改善した。PL顆粒は禁忌とし、禁煙もすすめた。

(民医連新聞 第1372号 2006年1月16日)

 なお、民医連の過去の注意喚起事例には、ピリン系解熱鎮痛消炎配合剤であるSG配合顆粒による重篤な薬剤性肝障害の症例がありました。総合感冒剤でもグレード2~3の肝障害が3件報告されていますので注意が必要です。

副作用モニター情報〈234〉 ケフレックスとSG顆粒 (ピリン系解熱鎮痛消炎剤) の服用で、肝障害

 ケフレックスとSG顆粒(ピリン系解熱鎮痛消炎剤)を服用し、グレード3の肝障害を起こした症例の報告がありました。既知の副作用ですが、汎用される薬剤で起きた重い症例なので、あらためて注意を喚起します。

(症例)50代女性。12年前、原因不明の肝疾患で治療歴あり。抗体検査HB(-)・HC(-)。歯科より、歯肉炎治療にケフレックス、SG顆粒、胃薬(量不明)が処方された。服用翌日、39℃の熱発。2日目に服用を止め、救急外来を受診。3日後、関節痛、心窩部痛、下痢出現。この時点で、GOT:175、GPT:330。6日後が最高値でGOT:391、 GPT:964。倦怠感が強いため8日目に入院。1カ月後、GOT:60、GPT:132まで回復し退院。服用3週間後の肝生検で、慢性または陳旧性の肝疾患を背景に発症した急性肝炎と診断。肝障害発現時に治療中の疾患はなく、他の薬剤、アルコール、たばこは飲んでいなかったため、薬剤による急性肝炎と判断。DLST(Drug-induced Lymphocyte Stimulation Test:薬剤誘発性リンパ球刺激試験)でケフレックスは陰性だったが、2剤とも被疑薬の可能性あり。

 今回は、患者が異常に気づき自ら服用を中止したので、軽度の副作用ですんだと考えられますが、3週間の入院を含め、回復まで1カ月という大きな負担がかかりました。今回の事例では、肝障害に対する治療開始の迅速さが求められました。副作用発生時の対策について考えさせられた事例でした。

(民医連新聞 第1367号 2005年11月7日)

■画像提供 奈良民医連 一般社団法人 奈良保健共同企画
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 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

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  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
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  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
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  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
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  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
  38.漢方薬の副作用
  39.抗生物質による副作用のまとめ
  40.抗結核治療剤の副作用
  41.抗インフルエンザ薬の副作用
  42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
  43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
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  45.ST合剤の使用をめぐる問題点
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  47.メトロニダゾールの副作用
  48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
  49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用

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