健康・病気・薬
2018年3月23日
【新連載】56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
口腔内崩壊錠と言う製剤が増えています。この製剤は、口の中で吸収される訳ではなく、簡単に言えば、口の中ですぐに崩壊する特性を持っています。
なぜ、このような薬剤が増えてきたかと言うと、先発メーカーのジェネリック医薬品対策です。先発品(最初に販売された医薬品)の特許期間が切れるとジェネリック医薬品の販売が可能になります。その際、先発メーカーは、ジェネリック医薬品に変更されてしまうと、医薬品の販売が落ちてしまう事から、様々な手段を使って「なるべくジェネリック医薬品に変更させない」方法を取ります。
口腔内崩壊錠は、ジェネリック医薬品の販売前に、先発メーカーの販売戦略として発売されるケースが多い医薬品です。先発品は、すべての医薬品が臨床試験を行なっていると勘違いしている方もいますが、口腔内崩壊錠は臨床試験を行なっていません。ジェネリック医薬品が承認されるのと同じ基準で、先発品(普通錠など)との生物学的同等性試験(体内で先発品と同じ薬効を発揮する濃度・時間などがほぼ同じである事を確認する)のみを行なって販売されます。[参考:PMDA「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」]
現在ではこのような口腔内崩壊錠に対しても更にジェネリック医薬品が販売されていますので、先発メーカーにとっては、数年間の先延ばしに過ぎませんが、数百億円の売上がある医薬品である場合などでは、僅かでもシェアを失わないことが極めて重要な事になります。
そもそも、多数の医薬品を服用する中で、1種類だけの医薬品が口腔内崩壊錠になっても殆ど意味はありません。患者にとってのメリットは僅かしか無いでしょう。そのような情勢の口腔内崩壊錠ですが、やはり、先発品⇒口腔内崩壊錠の流れは止められない状況にあると言って良いでしょう。
以上のような内容を分かった上で、口腔内崩壊錠の副作用を見て頂くと良いと考えます。
●口腔内崩壊錠の略称語源
口腔内崩壊錠は、商品名語尾に様々なものがありますが、以下のように整理できます。
D:Disintegrating 崩壊
OD:Orally Disintegrating 口腔内崩壊
RPD:Rapid Disintegrating 速崩
RM:Rapid Melt 速溶
(その他、メーカーによって、レディタブ・ザイディスなどの名称もあり)
口腔内崩壊錠・速溶錠は、水なし水ありの区別なく、生物学的同等性試験に適合しているので水なしで飲むことが出来ます。しかし、副作用情報にあるように、水で飲むことをお勧めします。
これらとは別の速崩型の錠剤は必ず水で服用する必要があります。薬剤毎に添付文書で確認できるので、水なしで飲めるかどうかは薬剤師に確認してください。
また、チュアブル錠という剤型があります。これは、D錠やOD錠と違い、「口中で溶かすか、噛み砕いて服用する必要があります。必ず水で服用してください。(ピートルチュアブル、フォスレノールチュアブル、キプレスチュアブルなど)
口腔内崩壊錠とは別に、口腔内で吸収が期待される薬剤もあります。(ニトログリセリンの舌下錠、アブストラル・エーフェンバッカルなどの麻薬性鎮痛剤等)これらの薬剤は、それぞれ、舌下(舌の下から吸収)、バッカル(歯茎と頬の間に入れると吸収される)など、多彩な吸収過程がありますので、薬剤師の指示に従って正しく使いましょう。
●フィルム剤型の口腔内崩壊錠
フィルム剤型の口腔内崩壊製剤があります。この種の薬剤は、フィルムシート錠になっているのが特徴です。口腔内崩壊錠と同様に、水なしで服用することが可能です。
一方、フィルムシートと唾液が混じると粘着性があるので、場合によっては食道に付着してしまう可能性があります。高齢者や幼児では気をつける必要があると考えられます。
★副作用モニター情報〈431〉 口腔内崩壊錠による副作用
最近、口の中で溶ける薬、口腔内崩壊錠(Oral Disintegrant錠、略してOD錠)が増えてきています。
口腔内崩壊錠は、次のような特徴を持っています。(1)薬を飲み込むことが難しい人に向いている、(2)透析を受けているなど水分の摂取制限のある人に向いている、(3)水分を必要としないので外出先での服用に便利、といったところでしょう。通常の薬剤と同様に、水で服用することも可能です。OD錠とは口腔内崩壊錠のみを指し、D錠と呼ばれる速崩錠とは区別されます。
メリットの多い口腔内崩壊錠ですが、当モニターに次のような報告が寄せられました。
症例)60歳代、女性、アトルバスタチン錠をアトルバスタチンOD錠に変更したところ、1週間後に舌先に口内炎が出現。自己判断で休薬。中止して3週間後には、口内炎は改善した。
(解説)
口腔内崩壊錠は、もとの錠剤と違う添加剤を使って、水を飲んだり、かむ必要がなく服用できるようにした薬剤です。成分は同一でも、他と全く同じ薬剤というわけではありません。実際に水無しの状態で服薬すると、高齢や口渇などの原因から、薬剤が口腔内に停滞する可能性があります。その際、口腔内に残った薬剤や添加剤が原因で口内炎が発生したと考えられます。
口腔内崩壊錠の添付文書の「基本的注意」には「口腔内で崩壊するが、口腔粘膜からの吸収により効果発現を期待する製剤ではないため、崩壊後は唾液又は水で飲み込むこと」と記載されています。口の中で早く溶けますが、口の中で吸収されるわけではない、ということです。また、添付文書には、「寝たままの状態で水無しで服用しないこと」とも記載されています。
口腔内崩壊錠は、水無しで飲めるメリットがありますが、単品でない限りは、できるだけ水といっしょに服用するのが良いでしょう。水と一緒に服用することで、「甘すぎる」「味が混じって気持ちが悪い」などの口腔内崩壊錠の「味」(薬剤の苦味を消すための味付け)の問題も回避できます。
(民医連新聞 第1590号 2015年2月16日)
画像提供 京都民医連 一般社団法人メディカプラン京都
http://sukoyaka-pharmacy.com/
■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/
■「いつでも元気」くすりの話し一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=26
■薬学生の部屋
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/index.html
**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】バックナンバ->
1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
40.抗結核治療剤の副作用
41.抗インフルエンザ薬の副作用
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
44.薬剤性肝障害の鑑別
45.ST合剤の使用をめぐる問題点
46.抗真菌剤の副作用
47.メトロニダゾールの副作用
48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
50.総合感冒剤による副作用
51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
52.健康食品・サプリメントによる副作用
53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
54.ワクチンの副作用
55.骨粗しょう症治療薬による副作用
■掲載過去履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28
この記事を見た人はこんな記事も見ています。