健康・病気・薬

2018年10月24日

【新連載】62.添付文書記載のすみやかな更新が必要な薬剤

 添付文書は、薬価収載時期の医薬品情報の記載であり、副作用情報が集積された場合は、添付文書の改訂が行われています。しかし、投与量などについては、薬価収載時のままになっているため、医療上の適正使用について改訂されないまま今日に至っているケースがあります。
 全日本民医連副作用モニターの報告から、いくつかの薬剤について、添付文書の改訂が必要と思われるケースをまとめてみました。

■リリカ 高齢者での初回投与量の改訂が必要
 民医連副作用モニターでは、メーカーの適正使用情報がだされる以前の、発売直後の2011年6月と2012年5月にモニター情報第1報<353>および情報第2報<371>において高齢者への投与量は25㎎から開始すべきとの注意喚起を行いました。
 しかし、メーカーの適正使用情報以後も添付文書上での初回投与量が75㎎のままのためか、同様の報告がその後も多数よせられており、2015年2月に改めて第3報<430>で、下記の注意喚起をおこなっています。

 「副作用報告の70%が70歳以上の高齢者で、ほとんどが75mgから開始し、投与初期に中止していました。75mgは、添付文書通りの開始用量ですが、使用上の注意として、腎機能別による用法用量の追記がされています。添付文書上の用法用量は治験での承認用量でもあり、変更は難しいそうですが、第1報、第2報でも提起したように、腎機能に関係なく、高齢者の場合は25mgからの開始が望ましいのではないかと考えます。また、「食事の影響を検討した国内外の臨床試験で、空腹時服用で発現率が高く、発現までの時間も短くなる傾向が認められています。これは、Cmax(最高血中濃度)が高くなる影響と思われ、服薬説明時に注意が必要かもしれません。」

 2012年7月に適正使用情報として“高齢者における「めまい,傾眠,意識消失」について”3)の注意喚起がなされました。ここでは、「本剤を低用量から開始し、忍容性が確認され、効果不十分な場合に増量するなど、患者ごとに十分な観察を行い投与していただくよう重ねてお願いします。」と記載されています。

 初回投与量について、「適正情報」の記載を添付文書へ反映し、「25mgからの投与開始により、副作用の軽減と効果の確認をしながら漸増していくこと」を記載すべきです。

■ジゴキシン 適正な血中濃度の表記と投与量の改訂
 ○ハーフジゴキシンの高齢者への過量事例

 ジゴキシン(商品名 ハーフジゴキシンなど)は、強心剤です。ジゴキシンの高齢者への過量投与による副作用の事例を紹介します。

【症例1】70代女性、3年前からジゴキシン0.125mg/日服用(血清クレアチニン値=sCr 2.0)。受診は数ヶ月に1回程度にとどまり、血中濃度測定もできていなかった。めまいで受診(sCr 3.56)。食事もあまりとれていなかった。いったん帰宅。約30日後、めまい継続、食事もできておらず受診。脈拍63、sCr 4.95、本人が持参したことでジゴキシン服用中であると発覚、血中濃度2.73ng/ml。ジギタリス中毒の可能性があると判断し中止。中止3日後、脈拍68、sCr 4.38、血中濃度1.64ng/ml。中止5日後、食事もほぼ全量摂取、めまい、吐き気の症状もほぼ改善傾向、脈拍70-90台で推移。中止10日後、sCr 4.31、血中濃度0.72ng/ml(注記 当該患者さんは他の施設で管理されておりもともとCKD指摘されていたためsCrが高値となっています)。

【症例2】80代女性。2年前より発作性上室性頻拍(脈拍113)で、ジゴキシン0.125mg/日開始。来院の1週間前から、ふらつき、息切れ、疲労感あり、食欲はあった。このときの脈拍56、sCr 0.89。約1ヶ月後の受診で、倦怠感、食欲低下を訴えジゴキシン中止、sCr 0.8、血中濃度2.29ng/ml。中止約30日後、脈拍85前後、倦怠感、ふらつき、下肢浮腫は続いていたが、食欲は出てきており、息苦しさもなく経過。

【症例3】90代女性。内服開始時期不明だが、ジゴキシン0.125mg/日服用継続。食事摂取は不良、来院前から下痢があった。嘔吐し、血圧測定できなかったため救急来院、BP70/40、脈拍42、脱水、腎障害もあり、sCr 2.07、ジギタリス中毒と推測し中止。血中濃度5.14ng/ml。中止4日後、脈拍60台、sCr 1.0。中止約14日後、sCr 0.74、血中濃度0.3ng/ml以下。

 有効治療濃度域は0.8~2.0ng/mlとされています。一般的に治療域は高く設定されており、心不全治療時では、0.5~0.8ng/ml、心房細動治療時では、1.2ng/ml未満が推奨されています。血中濃度は死亡リスクに相関し、0.9ng/mlを超えると死亡率も増えるとの報告もあります。ジゴキシンは腎排泄型で半減期が36~48時間と長いため、特に高齢者への投与には注意が必要です。食事量や水分摂取の低下などによる脱水状態に注意を払うとともに、腎機能を低下させる薬剤との併用の有無も確認しましょう。

(民医連新聞 第1594号 2015年4月20日)

○在宅患者のジゴギシン中毒に注意

 在宅医療がすすむなか、往診で管理する患者が増えています。これらの患者は比較的検査が行われにくい状況のため、ジゴキシンなどモニタリングが必要な薬剤をコントロールするには特に慎重になる必要があります。

 過去に脱水を伴うジゴキシン中毒を来した症例を示します。

【症例1】90代男性。ジゴキシン内服用量0.83mg、精神的に食欲低下し、脱水傾向に陥る。ジゴキシン濃度2.23ng/mLまで上昇。輸液にて改善。

【症例2】70代女性。ジゴキシン内服用量0.125mg、徐脈症状の発現あり、脱水傾向BUN53.1、ジゴキシン濃度4.38ng/mLまで上昇。中止にて回復。

【症例3】90代男性。ジゴキシン内服用量0.125mg、心室性期外収縮発現あり、ジゴキシン濃度3.25ng/mLまで上昇。中止にて回復。

【症例4】70代女性。ジゴキシン内服用量0.0625mg、食欲低下が2~3日継続、脱水、肺炎にて入院。ジゴキシン濃度5.52ng/mLまで上昇。中止にて回復。

 在宅管理されていた患者が発熱を契機に脱水をおこし、体内循環量が減少し、血液濃縮が起こりました。結果的にジゴキシンの血中濃度が上昇し、不整脈などの中毒症状が発現しました。

 寝たきりの患者では、水分摂取の自己管理ができずに、感染症を契機に発熱から脱水になりやすい傾向があります。そのため、ジゴキシン中毒のリスクが高いといえます。発熱症状はとりわけ注意が必要です。

 介護施設入所者や在宅管理されている心不全患者について、26%の患者に潜在的なジギタリス中毒の可能性があるという報告もあります。ジギタリス中毒の症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、めまい、不整脈等)と血中濃度の確認・投与量の調整、継続投与の是非など、添付文書に記載されている『ジギタリス中毒が現れやすいため、少量から投与を開始し、血中濃度を監視するなど、観察を十分に行い、慎重に投与すること』を徹底しましょう。今後も、居宅療養者が増えてくることも考えると薬剤師として関わる上では、服薬管理だけではなく、しっかりとしたモニタリングを行ない医師との連携を深めていく必要があります。

■メトクロプラミド(プリンペランⓇ)等の小児投与量の整備必要

副作用モニター情報〈362〉 メトクロプラミド(プリンペランⓇ等)による小児の錐体外路障害について
 メトクロプラミド(プリンペランⓇ等)による副作用は、過去1年間で9件報告されている。発疹2件、手のふるえ・筋硬直を含む錐体外路障害は7件であった。いずれも65歳以上の高齢者での発症。今回、小児による錐体外路障害の副作用が報告されたので紹介する。
症例)10歳 女児。47kg
 朝、腹痛、嘔吐あり。近医受診し、プリンペラン錠30mg/日分3で処方された。夕方38℃の発熱あるも1日以内に解熱。2日後の夕方頭痛あり。 舌が口の中で丸まっているのを祖母が発見し、手で3回ほど直す。その3時間後、顔が右側に曲がっているのを祖父が気づく。フラフラと揺れる感じで右側に 回っていた為、救急外来受診。外来では、左側にひっぱられる、左側へ回ってしまう、うろうろと落ちつかないなどの症状。髄膜炎、てんかんではなかった。プ リンペラン錠の副作用を疑い内服中止。翌日、小児科を受診している間に症状は消失した。

 小児へのメトクロプラミドの投与は、急性胃腸炎等の際に鎮吐剤として処方されることが多いが、錐体外路症状が発現しやすいため(特に脱水症状のある時や発熱時)、慎重に投与する必要がある。
  小児用量は塩酸メトクロプラミドとして0.5~0.7mg/kg/日(体重に対応したkg用量の添付文書記載はシロップのみ)で、この患者にあてはめる と23.5mg~32.9mgとなり、投与された30mgは計算上過量ではない。しかし体重の多い小児の場合、代謝機能は年齢相応にも関わらず成人量(あるいはそれ以上)を投与されることにもなりかねない。
 「塩酸メトクロプラミドの常用最上限量は0.5mg/kg/日、これを超えて使用された場合神経学的合併症をきたしやすい」との文献もあり、添付文書通りの量では多すぎる可能性がある。小児の用量設定に際しては、体重だけでなく年齢も十分に考慮すべきである。
 小児のメトクロプラミドによる錐体外路障害の症状は、眼球上転、口角偏位、舌の突出、頸部後屈、斜頸など、主に顔面と頸部にジストニア反応が現れること が多い。症状の発現には、複数回薬剤投与後24~72時間が多く、一過性の著明な血中濃度の上昇よりも、高濃度の持続が関係しているとの報告がある。内服 中止、補液投与のみで回復している例が多いのも特徴。

(民医連新聞 第1512号 2011年11月21日)

副作用モニター情報〈469〉 胃腸薬メトクロプラミドによる中枢障害
  メトクロプラミド(先発品:プリンペラン)は、胃腸の働きを良くする薬で、成人、小児ともに広く用いられています。消化管運動の促進や、制吐作用があります。
 本剤による副作用は、2011年と14年に報告していますが、今回は改めて中枢障害の状況を報告します。
 過去5年間で当モニターに寄せられた本剤の副作用報告は23例。うち16例(内服14例、注射2例)で、ふるえ、口・足の不随意運動、身体硬直、歩行困難など錐体外路症状が中心でした。また過去に寄せられた副作用報告全87例のうち32例(約4割)が錐体外路症状でした。同じ薬効のドンペリドン(先発品:ナウゼリン)では、全32例の報告中、同症状は2例であることからみても、本剤での発現頻度は高いと言えるでしょう。
 年代別では、15歳未満が3例、不明1例をのぞき、全て65歳以上の高齢者で、90代も3例ありました。
 本剤は腎排泄型薬剤で、代謝機能が低下する高齢者については長期使用による非可逆的な遅発性ジスキネジアが懸念されます。投与量や投与間隔の配慮が必要です。
 小児は、過去5年で症例は3例。うち2例で、発熱・脱水がありながら1日内服量が30mgとされていたことが特徴です。プリンペランシロップの添付文書では小児の用量を「1日に0.5mg~0.7mg/kg(適宜増減)」としていますが、EMA(欧州医薬品局)は「急性の神経系への影響は子どもでリスクが大きい」と、日本の承認用量を下回る「1回0.1mg~0.15mg/kgを1日最大3回まで」にしています(2013年勧告)。参考にしましょう。                 

(民医連新聞 第1579号 2014年9月1日)

※本稿でこの新連載シリーズは終わりとします。今後はモニター調査の更新等に応じてブラッシュ・アップをしていく予定です。

■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

■「いつでも元気」くすりの話し一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=26

■薬学生の部屋
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/index.html

**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】バックナンバ->
  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
  38.漢方薬の副作用
  39.抗生物質による副作用のまとめ
  40.抗結核治療剤の副作用
  41.抗インフルエンザ薬の副作用
  42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
  43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
  44.薬剤性肝障害の鑑別
  45.ST合剤の使用をめぐる問題点
  46.抗真菌剤の副作用
  47.メトロニダゾールの副作用
  48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
  49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
  50.総合感冒剤による副作用
  51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
  52.健康食品・サプリメントによる副作用
  53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
  54.ワクチンの副作用
  55.骨粗しょう症治療薬による副作用
  56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
  57.その他の中枢神経症状をおこす薬剤
  58.抗凝固薬の副作用(ワルファリン、DOAC)
  59.抗血小板薬の副作用
  60.過量による副作用
  61.新薬評価について

■掲載過去履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

 

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