副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

2021年3月10日

【新連載】63.ボトックス(ボツリヌス毒素)注射液の副作用

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ45年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました(下記、全日本民医連ホームページでご覧になれます)。
 この間【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載しておりますが、62項目にまとめられなかったボトックス(ボツリヌス毒素)注射液の副作用について再掲します。2019年8月5日初出の記事です。

副作用モニター情報〈522〉 ボトックス注による嚥下(えんげ)障害

 ボトックス注はボツリヌス菌がつくり出すA型ボツリヌス毒素を有効成分とする注射薬です。神経と筋肉の間では、アセチルコリンという化学物質が放出されて刺激が伝わり、筋肉が収縮します。この薬は、投与した部位に作用してアセチルコリンの放出を阻害することにより、神経の働きを抑え、筋肉の緊張やけいれんを抑えます。
 そのため、手足の痙縮、眼瞼けいれん、片側顔面けいれん、痙性斜頸、小児脳性まひ患者の下肢痙縮に伴う尖足、重度の腋窩多汗症、斜視、けいれん性発声障害など、さまざまな疾患に対して使用されています。
 今回、ボトックス注による嚥下障害の副作用が報告されたので紹介します。
症例)50代 女性
投与日:けいれん性発声障害(内転型)に対して披裂筋(首の前側の筋肉)にボトックス注投与
投与2日後:水分摂取困難、発熱あり
投与5日後:誤嚥性肺炎と診断、抗菌薬投与開始、右下肺crackle・胸部X線写真両側肺野に浸潤影認める
投与6日後:ゼリー食開始(以降、段階的に食事形態アップ)
投与11日後:crackle・誤嚥性肺炎改善傾向
投与44日後:固形物摂取可能
 なお、本症例は、7年前にボトックス注を投与した際にも嚥下障害を認めていたことが後にわかっており、2度目の副作用発生です。
 添付文書では、けいれん性発声障害へのボトックス注使用による嚥下障害の副作用発生率は40.9%(9/22例)、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)には2004~2018年までに嚥下障害の副作用(全ての適応症を含む)が22件、誤嚥性肺炎の副作用(全ての適応症を含む)が13件報告されています。
 本症例のように、ボトックス注を首の前側の筋肉に注射後、嚥下障害、声質の変化、呼吸困難などの副作用が起こることがあります。これは、首・喉の緊張状態や協調性が変化して起こります。通常、軽い症状であれば数週間で回復するとされていますが、海外では嚥下障害により発生した誤嚥性肺炎で死亡した症例が報告されており、注意が必要です。

(民医連新聞 第1697号 2019年8月5日)

「副作用モニター記事一覧↓」
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

 

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  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
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  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
  38.漢方薬の副作用
  39.抗生物質による副作用のまとめ
  40.抗結核治療剤の副作用
  41.抗インフルエンザ薬の副作用
  42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
  43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
  44.薬剤性肝障害の鑑別
  45.ST合剤の使用をめぐる問題点
  46.抗真菌剤の副作用
  47.メトロニダゾールの副作用
  48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
  49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
  50.総合感冒剤による副作用
  51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
  52.健康食品・サプリメントによる副作用
  53.禁煙補助薬(チャンピックス®、ニコチネル®)の副作用
  54.ワクチンの副作用
  55.骨粗しょう症治療薬による副作用
  56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
  57.その他の中枢神経症状をおこす薬剤
  58.抗凝固薬の副作用(ワルファリン、DOAC)
  59.抗血小板薬の副作用
  60.過量による副作用
  61.新薬評価について
  62.添付文書記載のすみやかな更新が必要な薬剤

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http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

 

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