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民医連新聞

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【新連載2025.08.08】66.HIF-PH阻害剤の副作用

2025.08.08更新

ダプロデュスタットの副作用
 腎性貧血とは、腎臓においてヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチンが産生されないことによって引き起こされる貧血であり、貧血の主因が慢性腎臓病(CKD)以外に求められないものをいいます。
 腎性貧血の治療は鉄、ビタミンB12、葉酸補充、ESA(赤血球造血刺激因子)製剤(ダルベポエチンなど)、輸血により行われてきました。多くの透析患者、保存期の患者で使われているESA製剤は、エリスロポエチンと類似の構造を持つペプチド製剤であり、血栓形成のリスクとESA抵抗性貧血の存在が課題でした。
 2019年HIF-PH阻害薬が登場し、腎性貧血治療の主流となりつつあります。HIF-PH阻害薬は通常の酸素分圧下で低酸素誘導因子(HIF)プロリン水酸化酵素(PHD)を阻害することによって赤血球産生を誘導すると考えられています。2019年11月ロキサデュスタット(商品名:エベレンゾ)、2020年ダプロデュスタット(商品名:ダーブロック)、バダデュスタット(商品名:バフセオ)、エナロデュスタット(商品名:エナロイ)、2021年モリデュスタット(商品名:マスーレッド)が次々と発売されました。2020年9月には「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation」も出されています。当モニターにも発売から5年間でエベレンゾ5件、ダーブロック7件の副作用が報告されています。

副作用モニター情報〈614〉 ダプロデュスタットの副作用
 腎性貧血の治療は、注射剤の赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)が主流でしたが、2019年にHIF-PH(低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素)阻害薬と呼ばれる新しい種類の内服薬が登場しました。HIF-PHの働きを阻害することによりHIFの分解を抑制し、エリスロポエチンの産生を増加させ貧血を改善します。内服薬なので使いやすく、7成分の製剤が発売されており、使用量も増えています。
 今回はそのひとつ、ダプロデュスタット製剤ダーブロック錠®の副作用症例を紹介します。当委員会には過去3例の報告がありました。
症例1)60代前半女性
 ダーブロック2mgで開始し、3カ月後に4mgへ増量。服用開始後7カ月で眼底出血していることが判明。網膜静脈閉塞と診断され、注射剤ダルベポエチンへ切り替えとなる。
症例2)80代前半女性
 ダーブロック2mg開始後1週間で発熱。中止後2日で解熱。
症例3)70代後半男性
 ワルファリン2mg服用中。ダーブロック2mg開始後63日でPT-INRが1.97→6.09へ上昇。ワルファリンをいったん中止。4日後にINR回復。

* * *

 添付文書には、消化器症状や皮膚症状のほかにも血管新生亢(こう)進(しん)作用による網膜出血や、脳梗塞・心筋梗塞などの血栓塞栓症の記載もあります。また、添付文書にはありませんが、症例3のようにワルファリンとの相互作用の可能性が推察されるようなケースもあります。
 腎性貧血治療の選択肢として大きく貢献しそうな製剤ではありますが、発売後まだ時間がたっておらず、他のHIF-PH阻害薬も含め、今後の副作用・相互作用の情報を注視していく必要があるでしょう。

(全日本民医連医薬品評価作業委員会 民医連新聞 第1805号 2024年5月6日号)

**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】INDEX>
  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
  38.漢方薬の副作用
  39.抗生物質による副作用のまとめ
  40.抗結核治療剤の副作用
  41.抗インフルエンザ薬の副作用
  42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
  43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
  44.薬剤性肝障害の鑑別
  45.ST合剤の使用をめぐる問題点
  46.抗真菌剤の副作用
  47.メトロニダゾールの副作用
  48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
  49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
  50.総合感冒剤による副作用
  51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
  52.健康食品・サプリメントによる副作用
  53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
  54.ワクチンの副作用
  55.骨粗しょう症治療薬による副作用
  56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
  57.その他の中枢神経症状をおこす薬剤
  58.抗凝固薬の副作用(ワルファリン、DOAC)
  59.抗血小板薬の副作用
  60.過量による副作用
  61.新薬評価について
  62.添付文書記載のすみやかな更新が必要な薬剤

■掲載過去履歴一覧
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28